発狂する男
男「うぉぉぉぉー! 離せぇ〜! おのれら離しやがれ! ぶっ殺すぞ! 離しやがれ! ぶっ殺す! 絶対、ぶっ殺す! おのれら、これを外しやがれ! うぉぉぉ〜〜!!!」
ベッドの上で頭・首・両手足・胴に輪っかのような拘束帯を取り付けられた男が、鬼にでもなったかのような形相で、暴れながら大声で喚き散らしていた。
医師「これは、またえらく危険な存在になったものですね。本当に、昨日までただのサラリーマンだった男ですか?」
看護師「はい、名前は、坂下浩二、現在32歳。未婚で、両親と3人暮し。これまでは、会社内でもそんなに際立って目立つ存在ではなく、むしろ控えめな方であったようです」
医師「それが一晩でこれですか? マスコミ対策はしているのでしょうね?」
看護師「そっ、それが、すみません。マスコミの方も耳に入れるのが早いようで、既に知られてしまいました」
医師「まぁ、知られてしまったのでは仕方がない。どこまで情報が漏れたのか分かりますか?」
看護師「確かではありませんが、多分この病気にかかったとしか知らないはずです」
医師「そうですか。分かりました。では、これ以上の情報の漏洩には十二分に注意してくださいよ」
看護師「はい、分かりました。……ところで、この方これからどうなるのでしょうか?」
医師「そうですね。まあ、確かな事は分かりませんが、人間感染の第一号になるので、ウイルスの検査・ワクチンの開発に協力して頂く事になるでしょうね」
医師は、何かいやらしい笑みを浮かべながら、呟いた。
浩二「テメェら、そこで何しゃべってやがる! ここから出せ〜! こいつを外しやがれ! は〜な〜せ〜! うぉぉぉぉ〜!!! テメェら絶対、ぶっ殺〜す! うぉぉぉぉ!」
浩二は、大声で喚き散らしながら、四肢をばたつかせていた。
その声も届かぬガラス越しで医師は、異様な笑みを浮かべ、看護師は、浩二の様子・医師の表情を互いに見ながら、不安の心を隠す事が出来ずにいた。




