!バカ、アホ、マヌケの深夜・アテンション!
※タイトルの深夜アテンションは間違ってません。深夜にアテンション。気を付けよう。
作者も深夜テンションで書いてるので、拙作なのはご容赦ください
思いっきりバカやりたい人、酒のつまみにどうぞ!うええええええい!
古今東西、罵倒の代表的なものは「バカ」「アホ」「マヌケ」である。
―いま、ここにその言葉を擬人化したような三人が集まっていた。
◇
家賃月3万円の激安壁薄1LDKアパートのちゃぶ台には、酒と枝豆、焼き鳥、そして三人の男女がいた。
「いやー、こうして集まるのも久しぶりだな!大学生として楽しもうぜ」
そうして杯を掲げるのは、この部屋の住人・馬月鹿音。うまづきじゃなくてばづきね。女子のような名前だがれっきりとした黒髪男子大学生。ピアスは自信がないのでおしゃれそうな剣のチャームが目印のネックレスをつけている。高校時代のあだ名は「馬鹿」。ひどい。
「やっとお酒が飲める~!居酒屋じゃなくても十分だね!」
酒にギラギラと視線を向けるのは、鹿音の高校時代の同期・阿部保乃実である。さくらんぼのイヤリングに、金髪にピンクのインナーカラーで派手だが、高校時代は黒髪清楚美少女(猫かぶり)であった。時の流れって残酷。高校時代のあだ名は「阿保」。どうでもいいが関西出身である。
「なー、俺だけノンアルなのシカト?それとも二人の時間が欲しいから遠回しに出てけと?」
右手に焼き鳥、左手に枝豆を持つ彼は同じく鹿音の同期・間沼圭だ。こちらは黒髪で伊達メガネ(真面目そうに見えたいらしい)だが、耳にはピアスがある。彼女からのプレゼントとか、リア充爆発しろ。高校時代のあだ名は「間抜け」。どんまい。
彼らは別々の大学生だが、鹿音が連絡を取ったことから、夜に質素でも賑やかな宴(酒飲み)を催している。あと、若干空気に酔っている。
鹿音は明るく笑うと、目を細めた。
「マヌ圭、そんな訳ないだろ。お前は酒入ると絡み癖があるからな」
「そー。前にうち・・・・・・私にバックハグしてきた前科あるからね。いやーおぞましい」
「あああ忘れろ!本当にごめんってば、マジで!」
土下座する圭だが、時効により許された。女性の逆鱗に触れなくて良かったね。女性は、怖いから。
鹿音は野次馬として、我関せずと焼き鳥を食べる。しっかり味付けされたもも肉が癖になり酒が進む。夜に友人と(近所迷惑にならない程度で)騒ぎ、夜月を見ながら焼き鳥を食べる。いとおかし。
「えー、あー、そういえば鹿音は高校時代漫画とゲームオタクだったよな。今もやるのか?」
「オタクではなく熱狂支持者と呼びたまえ」
「あーすまん」
「よきかな」
「棒読み謝罪をあっさり許すのね、なんでやねん」
「若輩者には分からんのよ」
「あっそう、翁」
これまた、あわれなりな会話をしたところで鹿音は段ボールからゲームソフトを取り出す。目に鮮やかな色彩の髪を持つ、顔面偏差値70越えのキャラクターたち。鹿音が入ったら65くらいに下がるだろう。
「これとかマジ笑える。プレイ必須のおすすめだ」
「「・・・・・・」」
パッケージのタイトル、そして裏のゲームについての詳細を読んだ二人は悟った眼で鹿音を見た。は。
「そう」
「悪い、全く知らなかった」
「無駄にアホとマヌケな顔すんなあんぽんたん!俺はコメディ視点でプレイしてるだけだよ!!」
そのゲームタイトルは【秩序を変える!?新世代ダークヒーロー風紀委員~模倣ベタから始まる構われ乙女の学園生活~】。主タイトルは戦争系だがサブタイトルは完全乙女ゲームだ。実際乙女ゲームである。
・・・・・・あ、そんな目しないで!鹿音はBLじゃなくて女子に恋する非リアです。ハハハ。かなし。
「まー、とにかく圭プレイしろよ。お前が一番同感する」
「え、私は?」
「ア保乃実はときめいちゃうからNG」
「煽ってんのバ鹿音」
「こーら、痴話げんかしない」
「「マヌ圭はおだまり!」」
「うい」
小学生のほうがまともな会話だろう、馬鹿阿保間抜け会話劇を繰り広げつつ早速プレイ。
主人公は桃色ヘアーネイルチップを付け、リップをしたまつ毛の長い美少女ギャルだ。なんで私立の学園に入れたんだろ。
◆
《秩序を変える!?新世代以下略》
主人公:マイ『あ、やっば、担任に進路希望出すの忘れたー。とりまダッシュ!』
ドーン(誰かとぶつかる)
マイ:『いった、あーツイてない』
?:『それはこちらだ、ギャル。というかネイルチップもグロスも校則違反だ』
見上げると黒髪メガネの清楚男子がいた。腕の腕章には【風紀委員】。
マイ:『あはは、そんなダサい腕章つけてるんだー、ベタだね~。あ、うちは中村マイ』
?:『最初からひどい感想ありがとう、睦月イオリだ』
マイ:『で、ムイムイいつまで女子高生の生足見てんの?』
ムイ(イオリ):『み、見てない!はあ・・・・・・放課後風紀委員の根城・学習室に来い』
◆
「クソゲーだな。まずムイが初回から変態だ。それに根城というあたりこいつ不良感満載だろ。よく見たら爪黒く染めてるし地味だけどピアスつけてるし」
「だろ?でもめっちゃ笑えるんだ」
◆
《放課後 学習室》
マイ:『んで~?説教なら帰りたいんだけど』
ムイ:『説教?はっ、そんなクソみたいなのに時間を費やす趣味はない』
そういってムイはマイの顎をクッと上げる。視線がかち合い、マイはきょとんとした。
マイ:『……えっとー、何?』
ムイ:『なあ、風紀委員にならないか?』
マイ:『は?』
ムイ:『それでこの間違った学校を軌道修正し、新しい方向に変えよう』
◇
ぶちん。圭がゲーム端末の電源を落とす。
「クソゲーだ。意味分からん過ぎる」
「え、でも最後のやつは分かっただろ」
「あれは副音声をしっかりつけた方がいい。『(良い方向に)間違った学校を、(悪く)新しい方向に変えよう』だろ。しかもベタ展開でほぼ初対面の女子に顎クイとかキモすぎ」
「えー、ストーリー崩壊すぎておもろいのに」
ケラケラと笑う鹿音に、保乃実は別のゲームソフトを好奇心旺盛な瞳で突き出した。
「このカートレースゲームやりたい!」
「阿保、お前が壊滅的致命的に下手くそなのは存じ上げてる。今日の食費は俺の負担だから言うこと聞け、ばーかあーほ」
「へえ」
「・・・・・・あ、ちょ、ごめんってば!叩かないでソフトケースで!それ高いから!」
「ふうん」
「違うんだ!!圭!」
「いとかはゆし(どんまい)」
そんなわけで刻々と時は進み、もう10時。ついにゴングが鳴り、あの時間がやってくる。
「えー、皿洗いじゃんけん大会始めまーす!」
「「おっし!!」」
小学生男子のような気合のある暑苦しいじゃんけん。全身全霊で挑み―敗者は保乃実。
「ほんっと・・・・・・いてこますぞ!(はっ倒してやろうか)」
どんまいです。
◇
ちいちゃいシンクでがしゃがしゃと食器を洗う保乃実。もちろん文句たらたらだ。
「全くなんでうちが・・・・・・」
一人愚痴っていると、鹿音の声が聞こえた。
『だからさ、もう集まることはないんじゃないかな』
「!?」
聞き捨てならない言葉に保乃実は食器洗いを放り出し、耳を澄ます。圭の焦った声が聞こえた。
『そんなわけないだろ。またやるつもりだ』
『ああ。・・・・・・でも圭は就職活動始まってんだろ。保乃実だって午前中面接行ってたらしいし』
『まあ、それは』
『俺だけ自由奔放な生活だからさ。これが最後かもって思うと、なんか、俺達を繋ぎとめるものが欲しい』
そういう彼の後姿は小さく弱く、やたらと圭にゲームを進めたり一人暮らしの割に食費を負担する、などと言い出した理由が分かった。もし最後なら、思い出を作りたかったからだ。
『・・・・・・・繋ぎとめるものならある。高校生の時にカプセルトイのくまさんキーホルダー。お揃いのやつ』
『相変わらずマヌケだな、あれは三人そろって失くしたんだろ。ははっ、懐かしい』
「・・・・・・・・・」
―ああ、やっぱり私は清楚系慈悲深美少女捨てきれない!
保乃実は財布とスマホだけを持ち、アパートを飛び出す。夜を全力疾走し、あちこちのスーパーや駄菓子屋など隅々まで探索する。何かといえば言わずもがな、くまさんだ。探して探して探して。
「やっと見つけたっ!」
母校の近くのコンビニ前。色褪せた商品紹介を覗くとカプセルが鮮やかな色をして待ち構えている。早速財布からいそいそと小銭を取り出し投入。狙うは三原色のコンプだ。
「一回三百円・・・・・・時代って残酷だ!三回で約千円じゃん!もー後で絶対請求するんだから」
一回目は緑。これは保乃実の。二回目は青。これは圭だ。
「お?イイ感じ、これならラスト一色、鹿音の!」
他色がなくて良かった。―そう安堵したのが良くなかったのかもしれない。
三回目・緑、四回目・緑、五回目・青。そういえば鹿音は貧乏くじを引きまくる運が悪い人だった。今かよ!!
そして六度目の正直(?)。誠意を籠め、全身全霊全集中で回した結果は―
「赤、赤だぁ!!」
真夜中カプセルトイの前でくまさん抱え、狂喜乱舞するギャル。絵面大丈夫ですかお嬢さん。
合計千八百円、約二千円の損失は痛手だが、まあ女は強しというか、くのいちパワーで落とそう。特に初心そうな馬鹿を。
鼻歌交じりで暖色光が漏れる扉を開け室内に入り―、保乃実は目をむいた。同期が仁王立ちで立っている。
「え、なんで待ち構えてんの」
「「この、あ保乃実!!」」
「えっ」
二人は堰を切ったようにまくしたてる。ちょっと怖いです、迫力が。
「なんではこっちだ、真夜中に女性一人がうろつくなんて!」
「LINE未読スルーだしよ!安否確認は必須だろ、このあんぽんたん!」
「「心配したんだぞ!」」
高校時代と変わらず、大学が違っても向けられる暖かな友情。保乃実は無性に泣きたくなるが、涙腺を崩壊をグッと堪え、笑顔を向けた。
「ごめん。―でもちゃんと収穫はあったんだよ!」
そういって二人にくまさんキーホルダーを渡す。つぶらな瞳と艶のあるリボンが可愛いらしい。鹿音と圭はじわりと目を見張る。鹿音なんか瞳がうるんでいる、まったく。
「これは私からのプレゼントで、変わらぬ友情の立体化!どう、嬉しいでしょ!」
そう胸を張ると圭は表情を崩し柔らかく微笑んだ。高校生の時と全く変わらぬ、少し間抜けな顔で。
「うん。嬉しい、ありがとう。さすが保乃実だな」
「ふふ。鹿音はどう?」
尋ねられた本人は、目を赤くし、口元を抑え子供のような顔をしている。くまを眺めた後、保乃実をまっすぐに見つめる。寂しげな表情は何処へ、泣き笑いのような光零れる優しくて少し馬鹿な笑みで。
「今日で一番嬉しい。聞いてたんだな」
「気が利くでしょ?」
「ああ。―ありがとう」
無邪気な笑顔に鼓動が少し跳ねる。
だが保乃実は照れ隠しでばさりと髪をはらうと手を突き出した。
「はい、六百円」
「「?」」
「くまさんのお代。タダ働きはしないわよ」
一気に空気がすり替わる。これはコメディのターンだ。
「はぁ!?ちょっとは優しさに感動してたのにやっぱ阿保乃実かよ!」
「馬鹿音に言われたくないですー」
「他人のために財布のひもを緩めるなんてなんかあると思ったけど、深夜テンションか。やっぱりひねくれギャルだね」
「うるさいマヌ圭!あんたこそ感動した表情してそんなこと言うなんて、深夜”アテンション”よ!」
馬鹿・阿保・間抜けの三人の宴はまだまだ続く。




