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愛らしい告白の花

作者: 燈華
掲載日:2026/02/25

「ぼく、おおきくなったらおねえちゃんとけっこんする!」


幼児がそんなふうに言ってくれるのはもう愛らしさしかないじゃない?

近くに咲いていた雲間草(くもまぐさ)の花を摘んで差し出しながら「けっこんしてください!」って言われたらもう頬が緩んで仕方ないじゃない?

きらきらとした目で見られたら「うん、いいよ」と言うしかないじゃない?


どうせすぐに忘れてしまうものだ。

誰だってそう思うでしょう?


幼い頃のそんな言葉なんて「ぼくはおおきくなったらままとけっこんする」と同義だ。

すぐに忘れて同年代の女の子と普通に恋をするんだろうなと微笑ましく思っていたくらいだ。


だからまさかずっと覚えていて本気でそのつもりだなんて思わないじゃない?

十歳も離れているんだし。

近所のお姉さんでしかないわけだし。


だからだからーー


「で、いつ結婚する?」


そう訊かれた時は心底びっくりした。

彼が高校を卒業した春休みのことだ。


驚いている私に彼は追い打ちをかけるように軽く首を傾げて言った。


「結婚するって約束したでしょ?」


愛らしい告白の想い出が脳内で再生される。

今思い出しても可愛いしかない。


「約束は、してないかな」


約束ね、と指切りなんかはしなかった。

だから間違ってはいない、はず。

だけど一蹴された。


「結婚して、って言ったらいいよって言ったでしょ?」


それは、言った。

だけど、それはおままごとみたいなもので。

とにかく押しきられる前に慌てて言った。


「いや、十歳も下の子に手を出したら犯罪だし」

「だから犯罪にならないように成人するまで待った」

「幼児の言ったことだし」

「僕は本気だった」


目が本気だ。

冗談とかで流せない。

仕方ない。

こういう言い方は卑怯であまり好きじゃないけど。


「だいたい来月から大学生でしょ。親の(すね)(かじ)っている奴が結婚なんて百年早い」

「それだってちゃんと考えてるよ。すぐは無理ならせめて婚約して」

「は?」


それで譲歩を引き出せるとでも思っているのだろうか。

私が何年社会人をやっていると思っているのか。


「彼氏と別れたって言ってたからちょうどいいでしょ」


近所の気の置けない姉弟の関係をずっと続けてきた。

だからこの間会った時に付き合っていた彼氏と別れたことを話していた。

まさかここで出されるとは。


「そもそも私がそういう対象として見てないことはわかっていたでしょ。私、今までも恋人いたことあったし」


彼氏の話をしたこともあったけど関心は薄そうだったのに。

邪魔されたこともないし勿論嫉妬されたこともない。

少なくとも私は感じたことはなかった。


「僕からしたら浮気だったけど、お姉ちゃんが変態だって言われないように我慢したんだ」


駄目だ。

この感じだとこれから意識させればいいくらいは言いそうだ。

それは避けたい。

違うところからつついてみる。


「だいたいおじさんもおばさんも反対するでしょ」

「両親はお姉ちゃんがいいって言ったら構わないって」


嘘でしょ。おじさーん、おばさーん、諦めないで。


きっとずっと彼が言っていてどこかで諦めたのだろう。

そうでないとおかしい。


「何で私なの。他にもっと年が近くて可愛い子なんていっぱいいるでしょう」

「いないよ。お姉ちゃん以上の人なんていなかった」

「嘘……」

「本当。ここまで言っても信じないなんてね。僕から逃げたかったらさっさと結婚すればよかったのに。そうしたら諦めるつもりだった」


そこまで考える相手がいなかった。

この間まで付き合っていた相手とこのまま結婚するのかな、って漠然と考えていた矢先に振られてしまった。


とんと顔の両側に手をつかれた。


「今日のところは退くよ。でも絶対に諦めないから」


すっと顔を近づけられ、思わず身構えた。

くすりと笑って耳元で囁かれる。


「覚悟していてね、ーー」


初めて名前を呼ばれて驚く。

その隙に耳にキスされた。


「なっ……」


反射的に耳に手を当てた。

驚いて鼓動が跳ねる。


彼が唇の端を片方だけつり上げるようにして微笑(わら)う。

こんな顔、見たことない。

いつでも可愛い弟分だったのに。

今は知らない男性に見える。


彼はくすりと微笑(わら)った。


「今日はここで退いてあげる」


身体を離した彼は「またね」と言って背を向けて立ち去っていく。


初めて異性だと認識させられて、驚きのあまりずるずるとその場に座り込んでしまった。


今のは本当に私の可愛い弟同然の子だったのだろうか?

信じられない。

私が今まで見てきたあの子は幻だったのだろうか?


「若いわねぇ」


その声に驚いて反射的に立ち上がる。

声のしたほうを見れば門の向こうから母親が顔をのぞかせていた。


「み、見てたの?」

「家の前でやってたら、そりゃあ、ねぇ」


家の前で話しかけられて話していたから。

こうなると部屋とかでなくてよかった気がする。


いやここ最近は部屋に上げることも部屋に上がったこともないのだけど。

昔は勉強教えて、って言われて教えていたからお互いの家に行き来していたのだ。


それはともかくとして親に見られていたのは恥ずかしい。

ふふっと笑った母親は軽い調子で言った。


「お母さんはどちらでもいいわよ」

「え?」

「あなたの人生だもの。好きにしたらいいわ。姉さん女房もいいもんじゃない?」

「けっこう乗り気じゃない? 待ってよ、十歳も離れてるんだよ? 有り得ないでしょ」

「貴女の歳ではまだわからないかもしれないけど、もう十年もしたら十個の年の差くらい気にならなくなるわよ。むしろ若い旦那を頼もしく思うかもしれないわ」

「そうかな」


十年経っても十歳の差は大きい気がする。


「まあ年の差はおいておいたとしても、きちんと向き合ってあげなさい。向き合わずに逃げるなんて可哀想でしょう。それにあの子の気持ちも本物だと思うわ。その気持ちに向き合うのも誠実だと思うわよ。それでも無理だと思えば断ればいいじゃない」

「そう、だね」


今日の様子を見る限り、断ったくらいでそう簡単に諦めることはなさそうだけど。

十四年間もその想いを抱えているのならきちんと向き合うべき、かもしれない。


でもなぁ。

今日の様子をみる限り押しきられそうな気もして少し怖い。


急に異性だということを認識させられて、心が追いつかないのも事実だ。

本当に可愛い弟分だったのに。


「ほら家に入って。夕飯にしましょう」

「うん」


もうこれ以上は考えることを放棄して私は母の背に続いた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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