第六章 エピローグ
王城の執務室。
積み上げられた書類。
握りつぶされた判子。
机に突っ伏す寸前の王弟――いや、今は“王”。
深いため息が、静かな部屋に落ちた。
「……やってくれたな、マリアナ嬢」
呆れ。
怒り。
そして、どうしようもなく混じる、笑い。
「国を救って、評議会を作って……
そのまま、姿を消すとはな」
王弟は椅子にもたれ、窓の先を見る。
評議会は役割を終え、やがて制度改革の中で議院制へ移行した。“声を持つ国”を望んだ民は、その権利を手に入れた。
王は、もはや政治の中心ではない。
象徴として、国の始まりと終わりを見届ける存在。
それでいい、と彼は笑う。
「君が残した火は、ちゃんと燃えている」
――――
伯爵家。
扉はまだ古く、庭も荒れ、傷跡はあちこちに残る。
それでも。笑い声がある。伯爵はまだ杖を手放せないが、ルミナの穏やかな歌声が屋敷に響く。
アイリスは静かに父の側に立ち、やり直しを選んだ娘として、ただの一人の人間として、家を、家族を、取り戻そうとしていた。
イリスとアックスは、遠い離宮に幽閉されている。
罪は消えない。
許しも、すぐには降りない。
ただ――
“終わらせないための罰”ではなく、
“やり直させるための鎖”であることだけは、王は願った。
――――
国の人々は今日も歌う。
誰かの声に従うためではない。
生きていることを確かめるため。
人は選ぶ。
泣く日もあり、怒る日もあり、それでも、声が届く社会を手放さない。
“あの夜の光”は、もう伝説ではない。
日常の中に灯る、“生きる証”。
――――
そして、国から遠く離れた、とある街。
青空。
市場の喧騒。
木の看板が、風に揺れている。
小さな店。
コーヒーの香り。
焼き菓子。
そして――
壁に貼られた、奇妙な企画書。
「期間限定・イルミネーションナイト」
「共同出資型市場企画」
「商人ギルド参加型相談会」
「ふふ、誰もやってないことをやるって、楽しいわね」
店のカウンターで笑うエリーゼ。
軽やかで、少し大人びた笑顔。
奥から書類を抱えて出てくる女性がいる。
――マリアナ。
髪をまとめ、少し疲れ顔。
でも、どこか満ち足りた瞳。
「採算、絶対合わないわよ……これ」
「でも、やるでしょ?」
エリーゼは笑う。
マリアナも笑った。
「……やる」
二人は向かい合って、手を叩く。
店の外では、誰かがランプを灯した。
歌は遠くまで聞こえない。
王都の鐘も、光の夜もここからは見えない。
それでも――
二人が選んだ人生は、確かにここにあった。
「ねぇ、マリアナ」
「なに?」
「次は――どんな未来を、作ろうか」
少し考えて、少し笑って。
マリアナは答える。
「……わたしたちが、“生きたい未来”」
それでいい。
それがいい。
世界は続く。
国は前に進み、
そして――二人もまた、前を向いて歩く。
物語は終わらない。
ただ、静かにページを閉じるだけ。
――それぞれの、新しい人生のために。




