第六章 scene4 イルミネーション
街に、歌が満ちていた。
震える心を包むように。
泣き声を、静かに溶かすように。
怒りも、
絶望も、
無力感も――
すべてを「否定せず」、ただ温める。
生きるのは苦しい。
でも、それでも――生きていい。
その声が降るだけで、
人々の体から、少しずつ力が抜けていく。
誰かが泣き、
誰かが笑い、
誰かはただ、空を見上げた。
そして――
人々は、顔を上げることを思い出した。
⸻
その頃
街を見下ろす高台。
風が吹く。
遠くまで灯りが見える。
ルミナの歌はまだ続いている。
静かに見守るマリアナ。
その隣に立つエリーゼの瞳が――震え、光った。
「……マリアナ」
「なに?」
エリーゼは胸に手を当てる。
歌が――届いている。
でも。
“届いた証”が、まだどこにも見えない。
「まだ足りない……」
イリスは、必ず“別の支配”を降らせる。
恐怖を煽る声も、諦めを呼ぶ噂も、薬も――
歌は確かに救い。
けれど “救われた心は、見えない”。
それじゃあ、弱い。
胸の奥に、“前世の世界の景色”が蘇る。
冬の夜の街。
木に灯る無数の光。
人々が同じ方向を見て笑っていた記憶。
――イルミネーション。
「……そうよ」
エリーゼは震える声で笑う。
「この国の人たちが、“まだ戦える”って……
“まだ生きたい”って思ってる証が欲しい」
マリアナが息を呑む。
「証……?」
エリーゼは振り返る。
その瞳は、炎のように強かった。
「――光よ」
マリアナは一瞬黙った。
だが、すぐに理解した。
胸が熱くなる。
「表参道の、、」エリーゼにふりをいれる
「「 クリスマス 」」!
(歌は心に届く。
でも――光は、世界に訴え、最大級にロマンティック!)
マリアナは振り返り、叫ぶ。
「王都に広げるよう!“光を掲げて”――って!」
使者が走る。
魔法通信の紋章が光る。
軍が動き、都市代表が叫び、評議会の鐘が再び鳴る。
『光を掲げよ!』
ただそれだけ。
誰のためでもない。
誰かに従うためでもない。
――“生きている自分の意思を示すため”。
最初の灯りは、小さかった。
老夫婦の店の中で。
少年が拾った小さなランタンで。
誰かが恐る恐る窓辺に置く。
それを見た隣の家が――灯す。
そのまた隣も――灯す。
川沿いに灯が並び、塔の上に灯が昇り、
広場が、微粒子の星空のように輝き出す。
誰かが言った。
「私は、まだ生きる」
「私は、諦めない」
そして王都全体が、光に包まれた。
これは、服従の光じゃない。
祈りの光でもない。
支配された秩序の光でもない。
“一人ひとりの意思の光”。
ルミナの歌が、その上に降り注いだ。
歌は心を救い、光は世界に証を刻む。
誰も叫ばない。
誰も煽らない。
それでもこの国は、確かに立ち上がった。
その光を見た城の塔から――王弟が息を呑む。
「これが……」
公爵が拳を握る。
「国の……意思だ」
侯爵が天を仰いで笑う。
「負ける気が、しないな」
イリスに報告役が震える声で告げた。
「王都全体が……
歌と……
光で――
埋まっています……!」
イリスは何も言わなかった。
ただ、ゆっくり目を閉じ――
歯を、強く噛みしめた。
高台。
光に染まる王都を見下ろしながら、エリーゼが息を吐く。
「……ねえ、マリアナ」
「なに?」
ふっと笑う。
「これ、“完全なるパクリ”よね」
マリアナも笑った。
「いいじゃない。
前世の世界から――
いちばん綺麗な奇跡だけ、盗んできたのよ」
二人は並んで、光の海を見つめた。




