表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/90

第六章 scene2 闇の宣言

白く静かな部屋だった。


王宮の奥、限られた者しか通されない――

“最も清潔で、最も腐っている場所”。


香の薫り。

銀器の音。

閉じられた扉の向こうには、民の声も、現実も届かない。


 


床に膝をつく女。


イリス。


滑らかに揃えられた指先。

伏せたまつ毛。

微笑みだけで「信頼」を作る女。


彼女の前に座るのは――


王の最側近。

そして――王妃。


「……顔を上げてください、イリス・アーベル」


王妃の声は静かだった。

気品と誇りを保ちながらも、“夫を失いかけている女”の揺らぎが微かに混じる。


イリスは、ゆっくり顔を上げた。


「――すべては、陛下のためです」


まるで祈りの言葉。

柔らかく、温かく、そして――嘘のない声で。


「今の陛下には、“苦しみを取り除く支え”が必要です」

王妃の指が震えている。


国王は――壊れかけている。

戦争もしていないのに。

血を流していないのに。

国そのものに押し潰されて。


それでも誰にも弱音を吐けない男。


イリスは、心の内の嘲笑を優しい微笑みに変えた。


「陛下はお優しすぎるお方。

だから、誰よりも傷つく。

だから、誰よりも迷ってしまわれるのです」


側近が小さく息をつく。

(――違う。それは“国王でありながらその責任から逃げた”だけなのだ)

側近は口に出せない反論を押し殺した。


イリスの声が――

あまりにも甘く、あまりにも冷静で、

あまりにも正しかったから。

 


「わたくしは、陛下から“痛み”を取り除いてさしあげたいのです」


王妃の瞳が揺れた。

(痛みが……無くなる?

あの人が、もう苦しまなくて済むの……?)


イリスは優しく続ける。


「責務の重さ。

臣下の期待。

民の声。

弟君の影。」


「それらを“優しい静寂”で包み込んで差し上げます」


側近の背筋に冷たい汗が流れる。

“優しい静寂”


それはつまり――


考えなくていい王。

悩まなくていい王。

何も決めなくていい王。

 


イリスは微笑み、胸に手を当てた。


「陛下には、ただ“玉座に座っていただければいい”」


 


王妃の喉が鳴った。


「……それでは……国は……?」


イリスは柔らかく答える。

「――わたくしが守ります」


 静寂。


王妃の指先が口元へ。

涙か祈りか、どちらか分からない。


(……あの人が笑ってくれるなら、それで……私も)


側近は拳を握る。

(これは――支配だ)


だが、その瞬間――


イリスが振り返り、彼を見る。


微笑んだ。


“なにも知らない女の微笑み”で。


「あなたも、どうか陛下の味方でいてくださいね?」


声が優しいのに。


その奥に――

「逆らえば切り捨てる」

という意思が潜んでいるのを、側近だけが見た。


 

――この女は、悪魔だ。



 


イリスは再び王妃に向き直り、静かに跪いた。


「大丈夫ですわ。陛下はもう一度、堂々と王城のバルコニーに立てます」


「笑顔で。

優しく。

“理想の王”として――」


 


そして。


その内側は――


すべて、わたくしが支配する。


 


イリスは、心の中でだけ静かに呟く。


王は飾り。

弟は邪魔。

民は管理対象。

この国は――私の楽園


 


まもなく、宣言は下される。


「国王復帰」

「病の克服」

「奇跡の回復」


――そして。


王は、世界で一番

“自由を奪われた王” になる。


 


イリスの瞳が細められた。


――さあ、幕を開けましょう

すべてを支配する女王として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ