第六章 scene1 主役
静かな一瞬だった。
王弟も、公爵も、そして円卓を囲む重鎮たちも――
マリアナの言葉の続きを、息すら止めて待っていた。
マリアナは拳を握る。
声は震えていない。
でも、胸の奥は熱で焼けるようだった。
「……国を“奪い返す”だけでは、駄目なんです」
王弟が目を細める。
「どういう意味かな?」
マリアナは迷わず言った。
「“誰かが正しい国に直してくれる”
――そんな政治では、イリスのような人が、また現れます」
王弟の周囲でざわめきが起こる。
それでもマリアナは続けた。
「だから『英雄が救う国』じゃ駄目なんです。
必要なのは――」
息を吸い込む。
「“国民が、自分たちの国を選べる場所”です」
空気が、ピンと張り詰めた。
公爵が、静かに問う。
「……つまり、君の考える“王国再建評議会”とは――ただの政治会議ではない、と?」
マリアナは強く頷く。
「はい。これは“国を取り戻す機関”じゃない。
“国民とともに国をつくるための機関”です」
彼女の脳裏に、前世の世界が蘇る。
ひとりひとりに意見があり。立場も痛みも違って、時にぶつかり合って。それでも必死に“この国で生きる未来”を考えていた人たち。
それを知らないこの国の民は、ただ耐え、ただ従い、ただ諦めてきた。
(そんな国で、いいわけない)
マリアナは机の上の地図に手を置く。
「王城だけで国は救えない。貴族だけでも、軍だけでも、足りないんです」
震える声ではなく、燃える声。
「“象徴となる王族”だけじゃない――
“責任を背負う貴族”だけじゃない――
“命を守る軍”だけでもない――」
拳を握りしめる。
「――“生きる人々の声”が必要なんです」
誰かが息を呑む音がした。
マリアナは続ける。
「“税を払う者の声”
“働く者の声”
“家庭を支える者の声”
“子どもを育てる者の声”
“病を抱える者の声”
“兵として戦う者の声”」
ひとつひとつ、丁寧に置くように。
「その声が、国に届く席。その声を、無視できない形にする評議会。それをこの国に初めて作りたいんです」
⸻
沈黙。
王弟が、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
真剣な目で、マリアナを見つめる。
「それは……
“王族の権威”を削ることになるやもしれぬな」
マリアナは迷わない。
「――はい」
「“貴族の特権”も揺らぐ」
「――それも、覚悟しています」
「それでも言うのか?
この国の在り方を、根本から変えると」
マリアナは微笑んだ。
「この国はもう――“昔の幻想”を守って生き残れるほど、幸せじゃありません」
公爵が、笑った。
戦場で幾度も死線を越え――
それでも国を愛し続けた男の笑顔だった。
「……いい。
それが“英雄の言葉”ではなく――」
彼は静かに言う。
「“国を背負う覚悟を持った者の言葉”ならば」
円卓の視線が動く。
恐れ。
期待。
戸惑い。
そして――わずかな希望。
それらすべてを、マリアナは正面から受け止めた。
王弟は大きく息を吐き、宣言する。
「――ならば、我らは乗ろう」
彼はマリアナへ手を差し伸べる。
「マリアナ嬢。
王国再建評議会――
“国民が主役の国”を共に作ろう」
マリアナはその手を強く握り返した。
「――はい」




