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第五章 scene6 誕生

王都に戻った夜。

石畳に降りる靴音は、妙に静かだった。


空は晴れているのに――

街の灯火はどこか怯えたように揺れている。



王城の奥深く。

厳かな扉の前で立ち止まると、扉番が深く礼をとった。


「――お帰りなさいませ。皆様、お待ちです」


 


重厚な扉が開く。


そこには――


既に立っていた。

王弟。

そして、公爵。


彼らの周りには、王国の重鎮たちが並び、一様に緊張と覚悟を宿した眼でこちらを見ていた。


 


王弟が一歩、進み出る。

「マリアナ。帰ってきてくれて、ありがとう」


その声は優しさを含んでいたが、以前よりも――ずっと強かった。


公爵は短く頷く。


「よく無事で戻った。君の動きが、我々の希望だった」


マリアナは首を振る。


「違うわ。まだ何も終わっていない。

伯爵は助けられた、でも――」


息を吸う。


「イリスは、まだ生きている。

そして、もう王に手を伸ばしかけている」


その言葉に場が静まる。

誰も、その現実から目を逸らさない。


王弟はゆっくりと顔を上げた。

彼は壇を上がり、全員の前に立った。


その背筋はまっすぐだった。

怯える“補佐”ではなく――

国の前に立つ覚悟を持った王族の姿。


 


「この国は今、“たった一人の王”に全てを委ねられる状況ではない」


重い言葉が落ちる。


「兄上は優しい。

国を愛した。

しかし――」


静かに、しかし残酷に事実を告げる。


「今、兄上は“国を守る心”よりも“壊れてしまった心を守ること”を優先している」


それは糾弾ではなかった。痛みの共有だった。


老将が、黙って目を伏せた。


文官が静かに拳を握った。


 


公爵が進み出る。


「ならば、国を守る“意志”を並べよう」


声は静かな炎だった。


「王を否定しない。

王を見捨てない。

だが“国だけは止めない”ために」


視線が、マリアナへと向く。


 


王弟が宣言する。


「ここに――」


空気が揺れる。


 


「王国再建評議会の設立を宣言する!」


 


言葉が、石壁に反響するようだった。


場の誰もが息を飲む。


 


王弟は続ける。


「これはクーデターではない。

王を追い落とすための制度ではない」


胸に手を当てる。


「――“王を守りながら、国を守るための制度だ”」


 


そして三つの柱を掲げた。



 

象徴 ― 王弟


「私は王家としての責任を負う。

国の“正統”を守り、

王が倒れぬよう、前に立とう」


 


英雄 ― 公爵


公爵が片膝をつく。


「――私は剣になる。

政治を動かし、軍をまとめ、

この国の“実働の意思”を担おう」


 


民の代表 ― マリアナ


視線が集まる。


マリアナは一瞬だけ戸惑い、しかし前に出た。


王弟が言う。


「マリアナ。お前はただの少女ではない」


公爵が続ける。


「お前は、炎の中で歩いた。

汚れた政治を見た。

被害者たちの声を聞いた。

それでもまだ、この国を捨てなかった」


王弟が宣言する。


「そなたは、“国がまだ愛されている証”だ」


ざわめき。

しかし誰も否定しない。

むしろ、どこか救われたような空気が生まれる。


 


王弟が右手を差し出す。


「マリアナ、王国再建評議会の一員として立て。

“民衆の声を背負う者”として」


マリアナは息を吸い、その手を握った。


「……はい」


その瞬間。


部屋の空気は、絶望から“戦場の空気”へ変わった。


もう迷っている者はいない。



王弟が最後に宣言する。


「イリス・アーベル。

闇会議。

王を毒す者たち」


公爵が剣の柄に手を添える。


「――覚悟しておけ」


マリアナは前を見据えた。


「この国は、まだ終わらない」


“象徴”が立ち

“英雄”が剣を握り

“民衆の代弁者”が前に出る。


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