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第五章 scene6 再び

朝の光が、まだ弱く大地を撫でる時間。

療養屋敷の前庭に、馬車が用意されていた。


荷造りは少ない。

しかし――背負っているものは、かつてよりも遥かに重い。


マリアナは柵の向こうで風を吸い込み、振り返る。


そこには、伯爵のいる部屋の窓。

白いカーテンが柔らかく揺れている。


まだ完全ではないが彼は“帰ってきつつある”。

胸が、熱くなる。


その横に、ルミナ。

少しだけ疲れた笑顔。

だが、強い。


エリーゼが並ぶ。

穏やかな瞳。

だが、その中に宿る光は、もはや「弱い姉」のものじゃない。


そして、背後。

少し距離を置いて立つアイリス。


昨日の少女ではなかった。

“母の影の娘”ではなく、“選択をした娘”の顔。


マリアナが近づく。


言葉がいらない。

ただ視線で告げ合う。


(――あなたは、ここを守る)

(――あなたは、盾となる)

(――あなたは、国を動かす)


その役割が、自然と決まっていた。


アイリスが静かに告げる。


「必ず、“母様より先に”動くわ。

……わたくしが第一の盾になる」


エリーゼも頷く。ルミナも視線を合わせる。


マリアナは微笑んだ。


「頼りにしてるわ。

――あなたの“妹として”じゃなく、“戦友として”」


アイリスはかすかに笑って、目を伏せた。

胸がじんわり温かい。


マリアナは母に向き直る。

護るためではなく。

甘えるためでもない。


ただ、娘として。


「行ってくるわ。

この国を――ちゃんと守るために」


ルミナは彼女を抱きしめなかった。


ただ肩に手を置いて言う。


「帰ってきなさい。どんな形になってもいい。

傷だらけでもいい。

あなたが“消えない限り”、私たちの戦いは終わらないから」


その言葉に、マリアナは笑った。

「それ、すごくずるい励ましよ」


「母親は、ずるいものです」


ルミナの笑顔は、強くて、温かくて、少し泣きそうで。


マリアナは振り返らず馬車に乗った。


御者の合図。

馬が動き出す。


屋敷が遠ざかる。


風が髪を揺らす。


胸の奥で静かに、しかし確かな炎が燃えていた。


(イリス。あなたは“家族”を壊して満足した。

でも私は“国を守る側”に立つ)


馬車は進む。遠くに、王都の塔が見える。


そこには――


陰謀。

闇。

欲望。

そして、“光の会議”の仲間たち。


けれど今のマリアナは、恐れなかった。


伯爵の手をもう一度握れた娘が、

“国の未来を握る女”になろうとしている。


馬車の窓に映る自分の目を見て、

彼女は呟いた。


「――ただいまよ。王国」


物語は、再び「国家の戦場」へ戻る。


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