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第五章 scene1 同時進行

王都の夜会が始まった少し後の時間。

街の喧騒から遠く離れた、静かな森の奥。


その奥に伯爵が「療養中」とされている離れ屋敷があった。


灯りは少ない。

夜風は冷たい。

だが、その場に立つ者たちの瞳だけが、燃えていた。


伝令役が小声で告げる。


「――夜会は、予定通り始まりました。

イリス側の主力も、ほとんどが王都へ」


副隊長は頷き、視線を前へ。


「合図を待て。内部協力者が配置をずらすまで、あと三分」


エリーゼとルミナは、互いに一度だけ目を見た。


恐れではない。

覚悟の確認。


ルミナが微笑む。

「大丈夫よ。あの人はまだ、帰ってこられる」


エリーゼは唇を結ぶ。

「――連れ戻すわ。絶対に」


森が静かだった。

虫の音さえ遠い。


やがて――合図。

小さく掲げられた灯り。


「動くぞ」


護衛部隊が音もなく広がる。


しかし――次の瞬間。

エリーゼは足を止めた。


(……あれ?)

胸が締め付けられる。


屋敷を見た瞬間、“違和感”が、喉を掴んだ。


静かすぎる。守りの気配がない。

罠の緊張感もない。“人の気配そのものが、抜けている”。


「副隊長……警備は?」

「……いません。予定されていた配置の兵も、内部協力者も……どこにも」


全員の表情が固まる。


「……おかしい」


エリーゼは一歩前へ。


風が通り抜けた瞬間、扉が内側から、静かに開いた。


ギィ……

灯りが漏れる。


そこから人の列が、静かに現れた。


整った足音。

整った呼吸。


まるで、“舞台に出ていく役者”のように。


先頭に立つのはアイリス


その後ろには、伯爵家の“元から仕えていた使用人たち”が並んでいる。


皆、整列して。まるで“出迎える側”。


エリーゼは息を呑む。

「……アイリス……?」


静かな微笑。いつもの優しげな顔。


ただしその瞳だけが、深く暗く、冷たい。


アイリスは、まっすぐエリーゼを見た。


風が止まる。

息が止まる。

世界が、音を失う。


そして――


「――おかえりなさい。

エリーゼ姉様。」


その声は。


懐かしく。

優しく。


そして、

地獄の入り口みたいに美しかった。

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