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第四章 scene1 選ばれなかった女

静かな部屋。

よく磨かれた床。整った帳簿。

すべて「私の思い通りに動きはじめた世界」の音。


……ようやく、ここまで来た。


ふふ。笑いたいわけじゃないのに、笑えてしまう。


だって滑稽でしょう?

私は“怪物になろうとした女”じゃないのよ。

ただ一度も「選ばれなかった女」だっただけ。


ねえ、覚えてる?

私にも、ちゃんと未来があったの。


若い頃の私は、本当に愚かだった。

世界は公平で、努力は報われて、誰かを心から愛したら、その愛は報われるって信じていたのよ。


伯爵を、好きになった。

あの人の背中に恋をした。

真っ直ぐで、迷わなくて、誰かのために生きる人の背中に。

私は必ず、その隣に立てると思っていた。


……なのに。


選ばれたのは、姉のカトリーヌ。


ねえ、神様は残酷だと思わない?

私は妹よ。祝福しなきゃいけない立場。笑顔で、「よかったわね」って言わなきゃいけない立場。


でも胸の中では何かが、静かに崩れた。


それでも生きなきゃいけないから、私は第二夫人になった。

愛なんてなくていい。

居場所があればいい。

そう思ったけど、あの人、子爵は愛してくれると言った。だから「選ばれなかった人生でも、まだ残り物を掴める。幸せになれる」って、自分に言い聞かせて。


なのにアイリスを産んですぐ、屋敷が燃えた。

私は愛されていなかった。私も娘も、ただの邪魔者だった。狂った正妻に追い出された。子爵は守ってはくれなかった。


あの日。

火の熱より、煙より、何よりも焼けついたのは、わたしは世界に捨てられたという感覚。


そして。

私は、伯爵の屋敷の門を叩いた。


皮肉でしょう?恋に敗れた家に、敗残者として戻るなんて。

でも、そこしかなくて、そこにはそこには優しさがあった。温もりがあった。


……そして。


幸せがあった。わたしのではない。

カトリーヌは弱っていた。それでも、幸せそうだった。


私は看病したわ。笑顔で。献身的に。姉らしく。

アイリスとエリーゼを一緒に育てた。


――でもね。

心の中では、ずっと叫んでいたの。


「なんであなたは“選ばれた女”のまま、死ねるの?」


そして姉は死んだ。

皆が泣いた。

伯爵は壊れた。

娘は泣いた。


でも私は――涙を流せなかった。

胸の中に、ひどく静かな達成感があったから。


ああ。私は人を壊せるんだ。

そう思ってしまったの。


それが、間違いの始まりだと?

違うわ。


そこからが、ようやく私の人生の始まりよ。

私は伯爵を手に入れられると思った。


でもまた奪われた。


今度はルミナ。


二度目の敗北。二度目の裏切り。

世界はわたしに言ったの。「あなたは、“選ばれる側”には絶対になれない」って。


それなら、私は決めたの。


“選ばれない女”でいるのは、もうやめる。

“世界の中心に立つ女”になる。支配する側に回る。わたしが選ぶ。


エリーゼは脆い。マリアナは未熟。伯爵は壊れやすい。

だから、導いてあげなきゃいけない。

“正しい形”に塗り替えてあげなきゃいけない。


優しさでしょう?

善意でしょう?


私が握っているほうが、この家はきっと、幸せになれる。


だから私は戻った。

笑顔で。

献身で。

母の顔で。

守護者の顔で。


そして今。


私はここにいる。

裏会議の中心。

計画の中心。

――この家の中心。


ようやく。


世界は、“私のもの”になり始めた。


さあ、これからよ。


壊すのではないわ。

“正しい世界”に再構築してあげるだけ。


選ばれなかった女じゃない。


私は選ぶ側の女。


ねえ、姉さん。見てるかしら。


あなたが守ろうとした家は、

◆ 裏会議 ――その内側


イリスの独白


静かな部屋ね。

よく磨かれた床。整った帳簿。

すべて「私の思い通りに動く世界」の音。


……ようやく、ここまで来た。


ふふ。笑いたいわけじゃないのに、笑えてしまう。


だって滑稽でしょう?

私は“怪物になろうとした女”じゃないのよ。

ただ――

一度も「選ばれなかった女」だっただけ。


ねえ、覚えてる?

私にも、ちゃんと未来があったの。


若い頃の私は、本当に愚かだった。

世界は公平で、努力は報われて、

誰かを心から愛したら、その愛は報われるって――信じていた。


伯爵を、好きになった。

あの人の背中に恋をした。

真っ直ぐで、迷わなくて、

誰かのために生きる人の背中に。


私は必ず、その隣に立てると思っていた。


……なのに。


選ばれたのは、姉のカトリーヌ。


ねえ、神様は残酷だと思わない?

私は妹よ。

祝福しなきゃいけない立場。

笑顔で、「よかったわね」って言わなきゃいけない立場。


でも胸の中では――

何かが、静かに死んだ。


それでも生きなきゃいけないから、

私は第二夫人になった。

愛なんてなくていい。

居場所があればいい。

「選ばれなかった人生でも、まだ残り物を掴める」って、

自分に言い聞かせて。


なのに――

屋敷は燃えた。


私は愛されていなかった。

私も娘も、ただの邪魔者だった。


あの日。

火の熱より、

煙より、

何よりも焼けついたのは―― 世界に捨てられたという感覚。


そして。


私は、伯爵の屋敷に戻った。


皮肉でしょう?

恋に敗れた家に、

敗残者として戻るなんて。


でも、そこには優しさがあった。

温もりがあった。


……そして。


幸せがあった。


カトリーヌは弱っていた。

それでも、幸せそうだった。


私は看病したわ。

笑顔で。献身的に。姉らしく。


――でもね。


心の中では、ずっと叫んでいたの。


「なんであなたは“選ばれた女”のまま、死ねるの?」


そして姉は死んだ。


皆が泣いた。

伯爵は壊れた。

娘は泣いた。


でも私は――涙を流せなかった。


胸の中に、ひどく静かな達成感があったから。


ああ。

私、人を壊せるんだ。


そう思ってしまったの。


それが、間違いの始まりだと?

違うわ。


そこからが、ようやく私の人生の始まりよ。


私は伯爵を手に入れると思った。


でも――

また奪われた。


今度はルミナ。


二度目の敗北。

二度目の裏切り。


世界は言ったわ。

「あなたは、“選ばれる側”には絶対になれない」って。


なら――

私は決めたの。


“選ばれない女”でいるのは、もうやめる。

“世界の中心に立つ女”になる。

支配する側に回る。


エリーゼは脆い。

マリアナは未熟。

伯爵は壊れやすい。


だから、導いてあげなきゃいけない。

“正しい形”に塗り替えてあげなきゃいけない。


優しさでしょう?

善意でしょう?


私が握っているほうが、この家は――

きっと、幸せになれる。


だから私は戻った。

笑顔で。

献身で。

母の顔で。

守護者の顔で。


そして今。


私はここにいる。

裏会議の中心。

計画の中心。

――この家の中心。


ようやく。

世界は、“私のもの”になり始めた。

さあ、これからよ。壊すのではないわ。“正しい世界”に再構築してあげるだけ。


選ばれなかった女じゃない。

私は選ぶ側の女。


ねえ、姉さん。

見てるかしら。


あなたが守ろうとした家は、今、私の手で『正しい』姿に作り変えられるのよ。


安心して眠っていなさい。


“支配される未来”は、こんなにも――優しいのだから今、私の手で『正しい』姿に作り変えられるのよ。


安心して眠っていなさい。


“支配される未来”は、こんなにも――優しいのだから。

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