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第三章 scene6 味方の仕事

「薬は、ただの液体じゃない。意図のある“設計物”だ」


診療所の奥。

扉を閉めると、空気は一気に張り詰めた。


机に並ぶ――伯爵家で使われていた薬の瓶。

普通ならただの琥珀色の液体。


しかしその前に立つ二人の表情は、ただの液体を見てはいなかった。エリーゼと、若い薬師レオン。


「……やっぱり、おかしいわ」


レオンは唇を噛みながら、瓶を傾ける。


「“治療薬”のはずなのに“治す設計”じゃない」


「沈静と鎮痛の層が、異様に厚い。でも回復成分が“極端に少ない”。」


エリーゼは眉を寄せる。

「つまり?」


「《身体を治す》んじゃなくて、《負荷を感じさせなくする》薬。でも問題はここじゃない」


レオンは別の紙を広げる。

そこには――震える手で描かれたグラフ。


「この薬は、一度飲むと、“身体が普通の状態を不安に感じる”ように調整されている」


エリーゼの喉が鳴る。

「それって……麻薬と同じ原理ね」


レオンは首を振る。

「いいえ、もっと悪い。“治療薬の顔をした社会崩壊用の毒”だ。」


静寂が走る。

レオンは震える指で紙の端を叩く。

「“使用後の人格傾向”に違和感がある」


「人格……?」

エリーゼの声がわずかに震える。


レオンは低く言った。

「感情が鈍る。判断力は残るのに、“痛み”と“罪悪感”が減る。」


つまり“冷静な怪物”を生む薬。


家を守る判断をする大人が飲めば?

→ “壊している最中”でも止まらなくなる。

→ “正しいと思い込んだ暴走”が完成する。


エリーゼは深く息を吸い、震える指を止める。

「書きましょう」

震えない声で言った。


「科学として、医学として、倫理として。『これは犯罪だ』と証明するレポートを。」


二人は机に向いた。

紙に文字が走る。

•成分分析

•投与後の症例

•行動傾向への影響

•意図された作用推測

•社会リスク評価


最後に、エリーゼが一文を添える。

『この薬は“治療薬”ではありません。“支配のための装置”です。』


ペン先が止まる。

レオンは息を吐き、笑う。


「これで“戦える証拠”になります」


エリーゼは頷いた。

「マリアナ、絶対に負けさせないわ」



夜。

王都の奥、煌びやかな貴族街の裏路地。


フードを深く被る男――

侯爵護衛副隊長、レイヴン。


彼は剣の男ではない。“影の仕事”をする男だった。

向かったのは――豪奢な屋敷ではなく酒場。


荒くれ者。

情報屋。

裏の職人。


世界の裏側は、光の中では動かない。

彼はカウンターに金貨を滑らせる。

「聞きたいことがある。最近、“不自然に儲かっている貴族家”はどこだ」


店主は金を撫で、目を細める。

「一つじゃねぇな。でも、共通点がある」


レイヴンは無言で酒を揺らす。

「“同じ薬商人”の名前が出てくるんだよ」


空気が、変わる。



数日後。暗い倉庫。


木箱が山のように積まれている。

その木箱には伯爵家の紋章じゃない複数の貴族家の刻印。


箱を開ける。

中身は琥珀色の瓶。レイヴンの拳が静かに握られる。

(やはり、“家一つ”の問題じゃないか)


これは、一家の崩壊ではなく、“貴族社会の構造破壊計画”。


護衛騎士がそっと近寄る。

「副長……これを」

渡された紙。そこに記されていた名前。


レイヴンの目が細くなる。

「……“王都議会の後ろ盾”がいる、というわけか」


つまりイリスはただの女狐ではない。

政治を食っている。


倉庫の闇で。

レイヴンは静かに呟く。

「俺は、ただ歌を守りたかっただけだ」


胸に浮かぶ。教会で歌うルミナ。

涙を拭いてもらった兵士たち。

その声を奪おうとした“誰か”。


「その“誰か”が、貴族を汚し、王都を腐らせているなら――」剣が静かに鞘から滑り出す。


「影の騎士として。

俺は、“真実”を突き立てる。」


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