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第三章 scene2 覚醒仲間

鼓動の音が、足音よりも大きかった。


広間のざわめき。

怒号。

視線。

崩れた約束。

壊された未来。


全部から逃げるように走り出して私は屋敷の外に飛び出していた。


夜の空気は冷たくて、肺が焼けるほど痛いのに。

頭の中は熱く、ぐちゃぐちゃで。


(どこへ行けばいいの……?)


思考が燃え尽きそうになった、そのとき。

聞き慣れた声が、風に混ざった。


「……マリアナ?」


足が止まった。


振り返る。そこにエリーゼがいた。


馬車。わたしを迎えに?

月明かりの下で、姉は静かに立っていた。


前よりも細くなった体。けれど、その瞳だけは信じられないほど、はっきりと私を捉えていた。


「……どうして、ここに……?

あなたは、療養に行って……」


言いかけた言葉が喉で消えた。


――違う。


私が知っている、あの“夢の中に閉じ込められていた姉”じゃない。


息を飲む。


姉の瞳は、眠っていない。

揺らいでいない。“目覚めている”。


その事実が怖くて、でも、涙が出そうになるほど嬉しかった。

「マリアナ」

エリーゼは一歩、近づく。


声が震えていた。でも、意思は揺れていなかった。


「……あなたも目覚めたのね」


何のことか分からない。でも、分かった。


胸が跳ねる。

彼女も――“何かを思い出した”。


あの眠り。

あの異様な静寂。

何かに囚われていた姉。


でも今は、違う。

「私も……見たのよ」

エリーゼはそっと胸に手を当てた。

「夢じゃない、“思い出”。遠い世界の……別の私。

……そして、これから起こるかもしれない“壊れる未来”。」


言葉は曖昧。けれど、確かに同じ匂いがした。


私の胸の奥で目覚めた、“前の私”の痛みと恐怖と、それでも生きたいという願い。


同じものを姉も持っていた。

「あなたが、ここから一人で壊れていく未来を、私は見た。そして私はそれを、ただベッドの上で見ているだけだったの」


震える声。でも、決意のある声。


「だから、逃げたの。幕が閉じる前に。

あなたを、一人にしないために」


胸が詰まる。

私だけじゃない。


“私の味方が、ここにいる”。


ただそれだけの事実が、

世界の色を変えてしまいそうなくらい、温かかった。


私は姉の手を掴んだ。


「……逃げよう、お姉様」


「いいえ。逃げるんじゃないわ。あなたと一緒に取り返すのよ。私たちの人生を」


二人で、振り返らずに闇に紛れる。


追ってくる声も、怒号も、もう知らない。


これは逃げじゃない。


これは――


奪われ続けた人生を、取り返すための第一歩だ。


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