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第二章 scene2 イリスの思惑/亡き姉と伯爵家への執念

イリスは、静かな部屋にひとり佇んでいた。


机の上には――

若い頃の姉が笑っている肖像画。


「……ねぇ、姉さん」


指先が、絵の縁をなぞる。


「あなたは、最後まで“この家”に愛された」


微笑みは、どこまでも優しく。

けれど、その奥にある感情は、優しさだけではない。


伯爵は愛していた。

確かに、深く愛していた。

わたしが手に入れたかったもの、それを全て姉は持っていった。


けれど――

“責務”と“政治”に負けて、姉を守り切れなかったのも真実だ。


「あの人はあなたを守れなかったと、壊れてしまった」


その亡骸のそばであの人が泣いた日の記憶が、胸を締めつける。


イリスは瞳を伏せ、静かに息を吐く。


「だから――姉さんの代わりに私が守るの。この家を、あなたが捧げたすべてを。“正しい形”に塗り替えて」


それは復讐ではない。

恨みでもない。


もっと粘質で、もっと手放せない感情。


――執着。


「エリーゼは大切よ。わたしの姉の“唯一の形見”だから」


だから、傷つけない。

だから、揺らさない。

だから、“弱いまま”でいてもらうほうが、都合がいい。


伯爵は利用する。

家は整える。

皆が“感謝”する世界を作る。


そして――

自分は、その中心に立つ。


「安心して、姉さん。

この家は……私が“正しく”導くわ」


ろうそくの炎が揺れる。

イリスは静かに微笑んだ。


それは祈りの微笑み。

そして同時に――

善意という皮膚をまとった“支配者”の微笑みだった。

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