表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/112

『第ニ話・1:伝説の勇者、再起動リブート』

──その瞬間、世界が軋んだ。


空気が爆ぜ……いや、軋んだ音か。光は逆巻いて、音は粉々に砕け散ったような……そんな感覚。

鼓膜を打ったのは轟音じゃなく、“耳鳴りみたいな無音”。

風景がガラス片みたいにバラバラに砕けて、ひっくり返りながら足元に落ちていく。


それは気絶なんかじゃない。

リリアの身体に──**“抜ける”んじゃなく、“入り込む”**感覚があった。


赤い閃光が地平を裂き、重力が逆さにねじれるような浮遊感。

畏怖と憧れがごちゃ混ぜになった、桁外れの存在感。

あの、積み上げすぎたステータスの圧。


(……やべ……これ、俺? いや、俺じゃない……でも──)


頬に髪が触れ、胸の奥で心臓が跳ねる。

腰のライン、指の感覚、視線の高さ。

間違いない──これはリリアの身体だ。


「……接続、問題なし。ステータス全展開──完了」


声が出た瞬間、自分で震えた。

澄んでいて、艶やかで、透明に響く。

──かつて全プレイヤーを震わせた“勇者リリア”の声。


(ちょ、待て……今の俺? それともリリア? 勝手に口が……!)


そして口が、自然に紡いでしまう。

──黒歴史の代名詞、“あの決め台詞”。


「魂は“999”で縫われてる。……なら、続きを紡いで──♡」


(うわああ……出たぁ! 俺が昔ノリで作ったやつ! 懐かしいけど今!?)


背後に光輪が幾重にも展開する。

光のコードが羽ばたくように旋回し、魔法陣がぶつかり合って耳にざらっとした音を立てる。

パッシブスキルのアイコンが、拍子木みたいに弾んで空を舞った。


《……ログイン確認》

《スキル:ハイ・ディスティンクション》

《領域制圧、完了》


次の瞬間、世界が“バグった”。

木々も大地もノイズを帯び、崩れては組み直される。

足元に広がる巨大な魔法陣から、金色の光が吹き上がり、戦場全域が包まれる。


リリアの瞳が、黄金に染まった。

「再起動、完了。……儀式は始まった。さあ、続きを見せて?」


(おいおい……強すぎだろ。けどリリアの体に無理きてんじゃ……代償フラグ立ってない?)


「出力、制限解除。《一兆分の一》から順に……上げていくよ」


その声が森に響いた瞬間、風が止んだ。

ワイルドウルフの群れが、人形みたいに固まる。

麻痺でもバグでもなく、生き物の本能が「勝てない」と悟った静止だった。


一体の狼だけが目に「逃げたい」と宿したが、脚は動かない。

恐怖は神を見るときの感覚。


《……スキル起動》

《……戦闘領域、制圧》


「絶望の順番は、決めてある」


一体目が飛びかかる──光が走り、消滅。

《ホーリー・ディストーション》


二体目が吠える──喉に触れただけで沈黙。

《サイレンス・オーバーロード》


「静かにして──はい、ミュート」


……森全体が息を止めた。

残ったのは、焦げ草の匂いと、不自然に凍った空気だけ。


(やべぇ……最高にカッコいい。でもこのままじゃリリアが……!)

(俺、観客席に突っ立ってる場合じゃねえ。守らなきゃ……!)


──黄金の瞳に、かすかな亀裂が走る。

……それに気づいた者は、まだ誰もいなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ