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『第九話・6:モフモフ最強? 封印リリアの影が揺らぐとき』

【STATUS:WANTA】

Lv:999(MAX)

HP:99999/99999

MP:00000/00000(99999)封印

ATK(攻撃力):02(9999)封印

DEF(防御):9999

MAG(魔力):00(9999)封印

AGI(敏捷):9999

RES(魔法耐性):9999

LUCK(運):9999

装備:ぬいぐるみの身体(固定)/変更不可


(……っしゃあああ!! やっぱ開けた!!)


(てか……おいおいおい、なんだこのステータス!?)


(HP、防御、魔法耐性、スピード、運──全部マックス。完璧。なのに……)


MP:ゼロ?

魔力:ゼロ?

攻撃力:……2 ???


(魔法、撃てねぇ……!!)

(攻撃力もまるでない。ぬいぐるみだからって、ここまでかよ……!)


表示の下段には、冷酷にこうも書かれていた。


【装備:ぬいぐるみの身体】は固定状態です。武器・防具の装備不可。


(つまり──剣も、杖も、弓も持てねぇ!! パンチも火の玉も撃てねぇ!!)


(なんだよこれ……! ちょっと動ける、死なないだけの、“モフモフの置き物”じゃねーか!)


(観賞用最強キャラって俺のこと!? 誰が喜ぶんだこんなビルド! モフモフ観賞会かよ!!)


(……俺の力は、“このぬいぐるみの中”じゃ出せないんだ)

(わかってる。レベル999? そりゃ確かにそうだ。でも──)


(この“モフモフの身体”じゃ、戦えない。リリアを守ることすらできない)


(“動ける”ようにはなった。でも、“戦える”わけじゃない──)

(……まあ、盾くらいにはなれるか。防御9999だしな。リリアの前に立つくらいは──できる。)


(でも、俺が本当に戦えるのは……リリアの中に“入って”いるときだけ)


(──そう。

颯太としての魂が完全にリリアとシンクロし、“あの身体”を動かせるときだけ)


(……あれが、“本来の俺”だ)


(いまの俺は、その影みたいなもんだ。

けど──影でも、見て、感じて、守ることくらいはできる。)


ワン太は、リリアの膝の上で、かすかに身じろぎした。

布の中を通る魔素の流れが、わずかにあたたかい。

動かないはずの胸の奥に、かすかな鼓動のようなものが灯る。

──それだけで、十分だと思えた。


(でも、今はただ、ショルダーバッグの中で揺れるだけの“防御力だけ最強”のぬいぐるみ。)


小さなぬいぐるみの右手が、リリアの胸ポケットにそっと添えられた。

それは無意識のようでいて──意志を伴った、極めて人間的な“接触”だった。


(どうするんだ?)

(そもそも……俺は、この“現実”で、何を成し遂げたいんだ?)


そんなワン太の様子を、セラフィーは柱の陰から、そっと目を細めて見つめていた。


(……なるほど)


(“動ける”ということは──ぬいぐるみに眠る意思が、自発的に魔素へ反応した証拠)

(つまり、あの奥底に封じられた“本物のリリア”が、わずかながらも外界へ干渉できるようになったという事……)


微笑むでもなく、ただ静かに思考の糸を編む。


(問題は……この“ぬいぐるみの器”のままで、リリアがどこまで“本来”の力を扱えるか)

(“レベル999”のアーカイブ。かつて一国を滅ぼしかけた規格外のステータス……)


(……でも。これは“封印型の最高位”──)

(構造そのものに、明確な“抑制結界”が組み込まれている。動けても、力は絶対に外へ漏れない──そう設計された“身体”


(基礎魔力はゼロ。攻撃力も実質的に皆無。装備不可能。完全に“攻撃性を持たない”構造)

(封印された力の波長が、いまも微かに空間を震わせている……まるで、呼吸を我慢している神のように)


(だというのに、このレベル──これは、“あのとき”と、同等)


胸の奥で、ひとつ小さな痛みが走る。祈りきれないと知ったときの痛みと、よく似ていた。


(“神造兵器級”。破壊と救済の両極を同時に内包した……極限値の器)

(……いや、言葉が大げさすぎるかしら。こういうの、つい神学者っぽく整理してしまう……)


心の奥底で、ためらいにも似た疼きが広がる。

それは聖職者としての使命感と、ひとりの人間としての恐れとが、静かに混ざり合った感情。


(でも……もし“本物のリリア”が、その封印を解いて、この“ぬいぐるみ”のまま本来の力を発動できるようになったら──)


(その瞬間、世界は再び“揺らぎ”に呑まれる)

(また秩序が崩れ去り、歴史は書き換えられる)

(……実際そうなったら、私も冷静でいられるのかしらね)


風が、回廊を渡って流れた。

神の家と呼ばれるこの場にも、確かな緊張がわずかに走っていた。


「セラフィーさん? どうかしたの?」


振り返ったリリアが、にこっと笑う。

その声は、さっきまでの思索をあっけなく吹き飛ばすほど無邪気で、甘やかだった。


セラフィーは小さく瞬きをして、それから静かに微笑んだ。


(……そうね。今は、これでいいのかもね)


光がゆるやかに差し込み、礼拝堂の空気が、ほんの少しだけやわらいだ。

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