表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/109

『第一話・3:実況席から応援するしかない俺と、剣が光った件』

──その瞬間だった。

視界の端に、青い枠で囲まれた文字がにじむように浮かび上がった。


【NAME:ワイルドウルフ】

【Lv:4】

【属性:獣/地】

【耐性:火△/氷◎/雷×】

【攻撃:二連爪(クリ率20%)/突進(スタン効果アリ)】

【弱点:左肩の下あたり】

【ドロップ:牙/獣皮/……運がよけりゃ《鋭爪の指輪》】


(……! これ……ステータスウィンドウ! しかも俺、普通に読めてる!?)


数字も特性も、意識する前に脳みそへ直通で滑り込んでくる。

頭じゃなく体が覚えてる、“ログイン勢”の反射だ。


(なるほど……突進にはスタン効果。食らったらリリア、一発で動けなくなる……!)


リリアは腰を落とし、剣の柄を握った。

木漏れ日の中で髪が柔らかく揺れ、張り詰めた緊張が走る。

だが呼吸は浅く、足元はぶれ気味。完全に新米の構えだ。

それでも──膝を震わせながら、前へ出る覚悟だけは崩れない。


「ワン太、ちょっと見ててね──!」


(いや、見てるしかできねぇけどな! 完全に実況席の観客だぞ俺は!!)


次の瞬間。

リリアが地を蹴った。落ち葉が弾け、湿った土の匂いが鼻を刺す。

掌に魔法陣が浮かび、光が森を照らす。


(詠唱ずれてる! 踏み込み甘い! しかも“当たれ”って顔してる! お祈りゲーはログボだけで十分だ!!)


低い唸りとともに、ワイルドウルフが突進。

獣の牙が閃き、空気を裂く。


(そのモーションは知ってる! 右から来るやつだ、カウンター合わせろ!!)


「えっ、わ、うそ──!」


ギャッ!

リリアの腕に浅い傷が走り、赤がじわりと滲む。森の匂いに鉄が混ざった。

俺の胸の奥が熱く脈打つ。


(くそ……! なんでこんなときに俺ぬいぐるみなんだよ……! “ぬいぐるみ反撃スキル”とか追加しとけよ運営!!)


リリアは苦しげに息を吐き、それでも背の剣に手を伸ばす。

「……剣、使うよ!」


抜き放たれたのは、“古びた鉄剣”。

だがその刃先には、かすかな青白い光が灯っていた。


(……今、光った……? まるで剣が自分の意志で“目覚めた”みたいに)


その光と同時に、俺の胸の奥がどくん、と跳ねる。

縫い目の奥で、心臓を縫い付けられたみたいな鼓動が鳴った。

剣と俺の間に、細いが確かな“意識の糸”が結ばれていく。


ワイルドウルフが再び跳びかかる。

リリアは一歩踏み込み、剣を低く構える。


(下段構え──悪くない! ……でも俺が褒めても補正ゼロなんだよな!?)


獣の爪が振り下ろされる、その瞬間──


キィンッ!!


鋭い火花が散り、金属と爪が擦れ合う甲高い音が森を駆け抜けた。

衝撃で地面が震え、樹上の鳥たちが一斉に飛び立つ。

リリアの剣が、ギリギリで斜めに受け止めていた。


「くっ……おもっ……でもっ──!」


声は苦しげでも、瞳は折れていない。

反動を殺し、剣を引き抜いて脇に回る。よろめきながらも反撃の一閃──


ザシュッ!!


獣の肩口を浅く裂く。そこから黒い煙がぶわっと立ち上った。

血肉じゃなく、なんか焦げた呪いの煙みたいな匂いが広がる。


リリアは驚いたように目を見開く。

「……今、勝手に……剣が……!」


その視線の先で、俺の胸の鼓動と刃の輝きが重なっていた。


(……うわ、やっぱリンクしてるじゃん。これ、ぬいぐるみと武器がシンクロってどうなんだよ……!)

(もしこのまま“ぬいぐるみ伝説”とか残されたら……後世の教科書で笑いもの確定だろ!?)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ