表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『勇者リリアとレベル999のモフモフぬいぐるみ』 Eden Force Stories I(第一部)  作者: 瀬尾 碧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/158

『第七話・2:9999時間目のラストステージ』

ゼルは笑っていた。

血に濡れた口元が、かすかに歪む。


「ふ……ふはは……これで、終わりだと……思うなよ」


ずぶずぶと──黒い瘴気が、地面から噴き出した。

それは生き物のようにゼルの身体へ絡みつき、肉を侵食し始める。

息が焼ける。骨まで振動が響く。

血の味まで、鉄じゃなく甘ったるく変わった。


重力さえ歪むかのように、膝が勝手に沈み込む。

視界はノイズに覆われ、色の全てが濁った。

耳鳴りは音じゃない。鼓膜の内側そのものから呻き声が這い出してくる。

空間そのものが泣き叫んでいる──そう錯覚させる異常。


「貴様ごときに……“敗北”など、俺が許すはずがないッ!!」


「なに……?」


ゼルの肉体が崩れ、骨が軋み、皮膚が焼ける。

耳障りなひび割れ音が、空間の全方向から鳴り響いた。


「我が魂よ……我が呪いよ……今ここに、“神の外殻”を捨て、魔性の核を曝け出せェェ!!」


瘴気が噴き上がり、雷鳴と共に天井を染め上げる。

呼吸ひとつが鉛のように重い。吐き出す息すら黒い霧となり、喉を裂いた。


匂いは血でも鉄でもない──金属を焼き潰した匂いと、熟れすぎた果実の甘ったるさが混じる、不快すぎる“腐臭の蜜”。


「俺の魂は、神の加護ではなく──魔に焼かれたッ!!」


「……まさか」


(え、ちょっと待て! やばくないか!? なんだそのフラグ──! 逃げた方がいいんじゃねーか!?)


「肉体など、もう要らぬ!!」


──ズズズズズ……!!


大地が裂け、黒雷が天を真っ二つに割いた。

ゼルの身体は崩壊し、血肉が潰れ、骨が砕け、ついに“禍々しい核”が露わになる。

鼓膜を爪で引き裂かれるような悲鳴が、時間そのものを逆撫でするかのように響いた。


「……神にも、魔にもなれず……」

「俺は、いったい……何を……護ろうとしていた……?」「……笑うなよ、リリア。俺はただ、“あの日の誓い”を果たしたかっただけなんだ……」


「……笑うなよ、リリア。俺はただ、“あの日の誓い”を果たしたかっただけなんだ……」

「……それでも、守りたかったものが、確かにあったんだ……」


──そして、“魔神ゼル=ザカート”、現界。


かつての騎士の面影など微塵もない。

触手を混じえた漆黒の巨躯。

右腕は邪悪な結晶で覆われた“瘴核の腕”。

背には瘴気を燻らせる“焼け落ちた翼”の残骸。


全身を締め上げる鎖の呪印は、裂け目から赤黒い炎を滲ませる。

顔の半分は崩れ、眼窩から溢れる瘴気は黒い涙となって頬を伝う。


鎖の隙間からは、低い呻き声のような魔力のノイズが途切れなく漏れ、ただ見ているだけで胃の奥が冷たくなる。


──それは絶望を喰らい、なお進化を選んだ呪いそのものだった。


「これが……貴様が斬り捨てた、“俺の覚悟”だッ!!」


「ふふ……忘れるな。俺は、“魔王軍最強の剣士”だ。

 敗北しても、誇りは死なねぇ。俺の剣が折れるのは──この魂が尽きる時だけだッ!」


(……は、ははっ……おもしれーじゃねぇか……!)

(上等だ、ゼル──! 俺はこの世界で、“レベル999を手動で叩き出した”最強プレイヤーだッ!!)

(舐めんなよ、NPC上がりのザコがァッ!!)


その瞬間、再び視界にふわりとウィンドウが立ち上がった。


《対象エネミー》

名称:魔神ゼル=ザカート

レベル:BOSS/EXランク

種別 :堕天型魔神種(災厄憑依型)

HP :?????/?????

攻撃力:?????/?????

防御力:?????/?????


外殻障壁:六層同調型(呪鎖干渉)

武装 :瘴核の右腕+崩壊槍の残骸

弱点 :心核周辺(※発熱時に顕現)

備考 :旧型ナイトボーンAIの断片を保持

※特定ワード(「誓い」「未練」)に強反応


《……一部情報は破損しています》

《警告:データ表示を継続すると“逆侵食”の危険あり》


(?????だらけじゃねーか!! 桁だけは合ってんのかよ!? ……フルスペック、出やがったな……!)


空気が、一拍、沈黙した。

その沈黙は、決戦前の吸気のように重く、長く、鋭かった。


──そして次の瞬間、リリアの心から、迷いが消えた。


「……そう。なら──私も、全部を出すだけ」


周囲の魔力が、一瞬、静止した。


「ただ、運命を断つ者として──私はここに立つ」


ステータスウィンドウが微かに震え、光を落とす。


「……もう迷わない。終わらせる、あなたと──この世界を」


(セリフ、噛まなくてよかった──!)


(……てか今の完全にラスボス前ムービーの主人公セリフじゃね!? これ死亡フラグじゃねぇだろな!!)


(おい頼むぞ、脚本! 俺まだ死ぬ気ないからな!?)


──空気が震えた。


(……いくぞ!

“9999時間”の俺──ラストステージだ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ