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『第六話・4:再起動の聖域 ―999の接続―』

「……やるな。だが──これならどうだッ!!我の“三年分の修羅”を受け取れ!」


「《雷穿裂天・天絶槍》ッ!!!」


雷雲の幻影が天井を裂く。

稲妻の奔流を纏った魔槍が、真空ごとリリアを貫かんとする。


(ヤバいってヤバいってヤバいって!!!)


「え、あ、あの、まって──それ、ムリッ!」


──キィィン!!ドゥアー!!


蒼雷のごとき突きが放たれ、リリアは本能で剣を振る。

レーヴァテイン・ゼロが正面からそれを受け止めた。

火花が爆ぜ、魔力の圧が空気を焼き切る。


だが──


「っきゃあああっ──!!」

──ズドォン!!


リリアの身体は後方へ吹き飛び、背中から古びた石壁に叩きつけられる。

瓦礫が崩れ、聖域に土煙が舞い上がった。


静寂。

石板の鼓動も、光の糸の揺らぎも、全てが止まった。


(リリアーー!!)


「……やった、か……」

ゼル=ザカートの肩が上下する。

確信を宿しかけた瞳が──次の瞬間、あり得ぬ光景に見開かれた。


(……あ、これ……ヤバいやつ……)


ぬいぐるみの中の意識が沈んでいく。

音も、痛みも、色も、一枚の膜の向こうに遠ざかっていった。

世界が歪み、夢の底に引きずり込まれる感覚。


──《接続中:プレイヤーID WAN-TA999》

──《ログインユニット:レーヴァテイン・ゼロ》起動確認中。


艶やかなログイン・ボイスが響いた瞬間、風が止まり、世界が揺れた。

視界の端に黒いノイズが走り、床の紋章が崩れては再構築を繰り返す。

空間の重さそのものが、ゆっくりと反転していく。


瓦礫の奥で、光が爆ぜた。

割れた石片の隙間から金色の光条が滲み出し、聖域全体を染めていく。

やがて瓦礫を突き破り、リリアの身体がゆっくりと立ち上がる。


皮膚の下を、無数の金糸が走る。筋肉をなぞり、神経を繋ぎ、魂の縫合が完了していく。

背後に広がる光輪は天使の羽のようでありながら、神話の魔王を思わせる禍々しさを孕んでいた。


《……接続、問題なし。ステータス全開──完了》


かつて世界を熱狂させ、恐怖すら抱かせた“あのセリフ”。


「魂は“999”で縫われてる。……なら、続きを紡いで──♡」


声はリリアのもの、だがその奥底に宿っているのは──間違いなく颯太。

ぬいぐるみだった意識が、完全にリリアの肉体へ溶け込んでいた。


その呟きと同時に、魔力の波が全身を満たし、空間の色彩が歪む。

リリアの身体がふわりと浮かび、指先が空をなぞる。


黄金のコードが筆跡のように走り、空間そのものに刻まれていく。

背から十重二十重の光輪アウラが展開。

スキル構成、魔法陣、転送コードが浮かび、パッシブスキルの詩が周囲に響き渡った。


視界の端にノイズ混じりのウィンドウが点滅する。


――――


《……login 確認》

《魂 link──異常》

《識別名 [LILIA_999] ……旧約 code 該当》

《access 特例 slot=999 >> 一致》

《封印 条件……解除》

《……認証 ok》

《welcome…“Lilia”》


――――


ノイズのような声が、空間に重なって響いた。

音ではなく、脳の奥に直接落ちてくる──そんな錯覚。


《……接続、問題なし。ステータス全開──完了》


次の瞬間──世界が、バグった。


天井から文字化けした祈りが降り注ぎ、石畳がグリッチのように波打つ。

崩れる地形、強制書き換えられる存在スロット。

足元に広がるのは天使の羽ばたきを模した膨大な魔法陣。

指先に現れるのは、かつて伝説と呼ばれた全スキル選択画面。


瞳が金に染まる。

剣が背に重い。

髪の先だけが、ひと筋きらめいた。

……そして、なぜか靴の紐がほどけていた。


風が止まり、世界のコードが呼吸を忘れる。

その静寂の中心で、リリア──いや、颯太は微笑んでいた。


「再起動、完了。──儀式は始まった。さあ、世界よ。続きを見せて?」


艶やかで、冷たい。

そして──あまりにも決まりすぎた声。


(……うおっ、出た!完ッ全にキマってた!♡

 でも中身俺だからな!?バレたら一番ダサいやつだからな!?)

(てか最後に靴ひも……めっちゃ台無しじゃん!誰かこっそり直してくれ!!)


瓦礫を踏み越え立ち上がる。

もうそこにいるのは“少女”リリアではない。


ゆっくり顔を上げ、ゼル=ザカートを真正面から見据える。


「あら……まだ残ってたの? その命も、誇りも──とっくに終わってるのに」


(──よし、決まった……!セリフ噛まなかった!……いやでも今の、絶対どっかで痛いって笑われるやつ!!)


リリアの口角がゆるむ。

だが喋っているのは、間違いなく“颯太”だった。


その笑みは柔らかく──

氷のように澄み切っていた。


「馬鹿な……! この“圧”……三年前、あの夜に見た“死の光”を……超えている……!?


ゼル=ザカートの声が揺れる。

三年の修羅を越えてもなお、心の奥に刻まれた敗北の影が──再び蘇っていた。


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