『第三話・4:水着の聖女、恥辱と祈りの門前』
がたんっ。
また、馬車が揺れる。
「ひゃっ……あ……っ♡」
揺れに合わせて跳ねる胸。
ビキニの上に乗ったぬいぐるみも連動して弾み、視界は谷間と天井を強制ループ。
(重力プレイの拷問コース!? ぬいぐるみに性感ないって何度言わせんだ!!)
外は昼の光に包まれているのに、馬車の中は蒸して息苦しい。
胸元を押さえるたびに布がずれ、谷間に汗が溜まり、宝石のように光り出す。
(……いや、待てよ?)
(このまま何もしなかったら──街まで“羞恥MAXルート”一直線じゃねぇか!?)
勇者として、守るべき女の子がこんな目に遭っている。
それなのに……。
(俺は、ぬいぐるみのまま……何もできねぇ……!
剣も、力も、言葉さえ──全部置いてきちまったのか……?)
がたん。
「……んっ……♡ もう……やだ……はずかしすぎる……っ」
リリアの膝の上で、ワン太は心の中で天を仰いだ。
(この世界の神様ァァァ!! せめて! 腕だけでも動かせるようにしてください!!)
⸻
神殿都市《エル=セイラム》門前。
馬車が止まる。
リリアは、胸元にワン太を抱いたまま──ビキニ姿のまま外へ降り立った。
「……ひっ……」
その瞬間。
足音。視線。ざわめき。
通行人すべての視線が、彼女へ吸い寄せられる。
「なにあれ、あんな格好で……」
「え、昼間からビキニ? まさか……」
子ども「ママー! あのお姉ちゃん泳ぐの!?」
母親「しっ、見ちゃだめ!」
老婆は胸の前でクロスを切り、
「神よ……あの娘に布を……!」と真剣に祈る。
露天商「お、お嬢ちゃん! その布面積で鍛冶屋通り歩いたら即死だぞ! 今ならタオル半額だ!」
隣の絵師はすでにスケッチ帳を広げ、「これは売れる!」と鉛筆を走らせている。
若者たちが口笛を吹き、「うおー! 女神の降臨!」と大げさに叫ぶ。
屋台の肉串売りが「今夜の特別メニュー! 聖女の谷間セット!」と宣伝を始め、周囲は爆笑の渦。
衛兵は顔を真っ赤にして「え、ええと……入市税を……その……」としどろもどろ、書類を落とし、インク壺を盛大にぶちまける。
そして──吟遊詩人がリュートを掻き鳴らし、叫んだ。
「おお……真昼の市街に舞い降りし“水着の聖女”!
余は必ず、この恥辱と勇気を歌に残そうぞ!」
(やめろォォォ!! そんなもん後世に残すなーーッ!!)
胸元の布がまたズレる。
太陽の光を受けた谷間に、汗の粒が宝石のように煌めく。
リリアは視線を逸らし、唇を噛みしめた。
街の石畳を踏むたび、群衆の笑いと羨望が重く背中にまとわりつく。
(……はやく……教会に……でも……)
リリアは胸元のワン太をぎゅっと抱きしめた。
ワン太は黙っていた。
ただ、その体温だけは──彼女の鼓動と同じリズムで刻まれていた。
そして二人は、街の奥へと歩みを進める。
追いかける無数の視線、石畳を打つ足音──羞恥のパレードは止まらない。
(……もう無理……精神ゲージゼロだ……)
(なぁ神様ァァァァァ!! 今すぐパッチ! パッチ当ててくれ!!
運営ィィィ!! お前ら絶対見てるだろーーッ!!
隠しコマンドで“服装リセット”とかあるだろ!? デバッグモード入れよォォ!!)
──街のざわめきに、勇者の絶叫は届かない。
だがそのとき。
笑い声と祈りに混じる中、ただ一つだけ──
異質な視線が、確かにリリアを射抜いていた。
それは群衆の熱気とは正反対の、氷のように冷たい注視。
背筋をなぞる針のようで、胸の奥に“見られている”刻印を焼きつける。
リリアの肌が総毛立つ。誰かが、笑いではなく狙いを持って、彼女を見ていた。