『第三話・3:ビキニと馬車と羞恥の街道』
森を抜けた先──
陽に焼けた小道の向こうに、一台の馬車がぽつんと佇んでいた。
その前に立つ御者が、リリアの姿を見て、驚きもせず、ただ静かに手を差し出す。
焼けた風が頬を撫で、頬の火照りと羞恥をさらに際立たせる。
躊躇いながら、リリアは胸元のぬいぐるみを抱き寄せ、そっと頷いた。
その仕草は、まるで頼る相手を失った子どものように、無意識に小さくなっていた。
馬車は、石畳の上をがたごと揺れていた。
車輪が跳ねるたび、リリアの胸元と下腹部が“晒すように”揺れる。
窓枠の影が、彼女の肩や腰のラインを切り取り、いやらしく浮かび上がらせる。
汗を吸ったフリルがぴたりと肌に貼りつき、揺れるたびに布と肉がずるりと擦れる。
胸下のリボンは緩んでおり、結び目がいつ解けてもおかしくなかった。
中は、陽射しを閉じ込めたようにじっとりと蒸して、汗ばんだ肌を布の隙間から責めるように舐めていく。
「……うぅ……あの、すみません……っ」
リリアはぬいぐるみを胸に抱いたまま、そっと御者に声をかける。
唇が乾いて、言葉が少しかすれた。
「街まで、送っていただけるなんて……ほんとに……」
上目遣いでちら、と相手を見て──すぐに、はっとして顔をそらす。
御者の視線が、確実に胸元へ“落ちかけていた”のを感じたからだ。
「見られてない……いや絶対見てる……!」疑心暗鬼が脳内でループし、心臓が爆発しそうになる。
その一瞬だけで、全身の血が煮えたぎるように集まってしまう。
(だってこの格好……! 呪いのビキニのまま……!
この露出で街の中まで行くなんて、羞恥死コースじゃねぇか!!)
外からの視線を想像するだけで、背中に汗が流れる。
戦闘より心臓が速く打っている。完全に羞恥ダメージの方が致命傷。
リリアは、ぬいぐるみを膝に乗せ、指先で縫い目をそっとなぞった。
それは唯一、今も“自分”を覚えてくれている存在のように感じられた。
(……ちょ、リリア。頼むから、もう少し布面積あるやつを装備してくれ……!)
ぬいぐるみの中で、ワン太は半ば呆れ、半ば必死に顔を覆っていた。
ふとももはじっとりと汗ばみ、布の間から零れた雫がフリルを肌に貼りつかせる。
胸の輪郭は呼吸に合わせてゆっくりと浮き沈みし、その上下運動がダイレクトにぬいぐるみに伝わる。
両脚をぎゅっと閉じても、腰ヒモがじわりと浮いてくる。しかも──
「……きゃっ……!」
がたん。
馬車が大きく揺れた瞬間、胸元が弾むように跳ね、フリルの奥から谷間が覗いた。
その直後。ぬいぐるみの鼻先が、ぶにゅ、と埋もれた。
(おいィィィィ!! またこのパターンかァァァ!!)
(絶景で絶叫すぎて、これ拷問の新ジャンルだろッ!!)
俺の視界は“谷間アップ”か“太もも密着”か“御者のちら見”の三連コンボ!
どこ向いてもアウト!! 全方位羞恥地獄って新発明かよ!!
「ワン太、大丈夫……?」
リリアが心配そうに見下ろす。
その視線が降ってくるのと同時に、谷間の圧倒的柔らかさが、ふわりと押し寄せる。
(やめろォォォ!! 上を見ても天井! 動けば谷間!
俺の視界、完全に“二択の地獄”じゃねぇかッ!!)
「……ごめんね、ワン太……」
リリアは、自分の太ももをぬいぐるみの“ひざ置き”にして、そっと乗せ直す。
もっちりした素肌がぬいぐるみをじかに包み込み、汗のぬめりまで伝わってくる。
完全に逃げ場を消され、無機質なはずのこの身体でさえ、その体温を妙に意識してしまう。
(あああああ!! 新しい羞恥地獄の開幕だぁぁ!!
俺の尊厳、どこまで試されるんだよォォ!!)
そして──
馬車の窓から、街の城壁が見えはじめた。
門の前には、すでに行列ができている。人々のざわめき、視線、好奇と侮蔑と笑い。
鎧を着た兵士の冷ややかな目。商人のニヤついた笑み。子どもたちの指差す声。
「見てあの人!」「あんな格好で!?」「娼婦?」「いや勇者様じゃ……?」
耳に入る前から全部聞こえてくる気がして、背筋が凍る。
(うわあああああ!! ここからが本当の羞恥地獄じゃねぇかァァァ!!)
リリアは、唇を噛みながら胸元のリボンを押さえる。
……いや、押さえたつもりが余計強調してんじゃねぇかバカヤロー!