表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/131

『第二十三話・2 : 《終焉超過領域──断絶零式》』


だが、光槍が届こうとしたその瞬間──。

デモリオンの裂けた単眼がぎらりと閃き、紅晶と黒炎が渦を巻いて凝縮する。


そして、“絶対障壁” がその巨体を包み込んだ。


それはただの防御ではなかった。

物理も魔法も、呪いすらも無効化する“殲滅の理”そのもの。

触れた力を片端から解体し、存在ごと霧散させる、神域の拒絶の壁だった。


揺るがぬ黒い大陸のようにそこに在り続けた。


閃光と漆黒が激突し、天地を震わせる轟音が走る。

光は押し込もうと唸り、闇は押し返そうと脈動する。


リリアの両腕は痺れ、骨が軋むほどの衝撃が伝わってきた。

「くっ……!」歯を食いしばってもなお、光槍はじりじりと後退させられる。


「……押し負ける!?」

セラフィーの叫びが震える。


「おいおいおい!! 物理も魔法も無効って、チート耐性やんけ!!

 これ、どんなソシャゲでも炎上案件やぞォォ!!」

ブッくんが頁をばたばた震わせる。


──だが、リリアは剣をさらに握り直した。

胸の奥から溢れるのは、仲間の祈りと呪いと絆、そして颯太自身の声。


(……負けるわけねぇだろ。弟子の命を背負ってんだ。ここで止まれるか!)


決意が胸を焼き、全身を駆け巡った。

その熱が鼓動を揺さぶり、血管を破りそうなほどに高鳴らせる。


その刹那──。

胸裏の鼓動が、天と地を震わせる雷鳴へと変わった。

血潮が炎に変じ、魂が光を放つ


紅蓮の閃光がリリアの全身を駆け抜け、背には六翼のごとき残光が広がる。

髪は逆巻く焔を宿し、黄金の瞳は星をも凌ぐ輝きを帯びて、夜空そのものを裂いた。


そして

リリアの視界に、勝手に弾けるUIが走った。


【LEVEL UP】

【リリア=ノクターン】

【Lv:♾️ 9999 over(バグ値)】


【HP:999999/999999】

【MP:∞】

【攻撃力:99999+????】

【防御力:99999+????】

【速度:???/表示不能】

【特殊:全属性神域化/存在値バグ検出】

《警告:表示値が上限を超過しました》


桁違いの数値が次々とスクロールし、UIの枠そのものが軋み、ノイズ混じりに震えた。

それはもう“数値”ですらなく、現実の理を侵食していく存在の証明だった。


「──突き抜けろォォッ!!」


咆哮が響いた瞬間、紅と白の稲妻が膨張し、勢いが一気に逆転する。


漆黒の壁に走ったひび割れが炸裂し、抵抗の余地なく障壁は崩れ落ちた。

黒炎は霧散し、天地を揺るがす閃光が奔流となって押し寄せる。


──止まらぬ光は、なおも突進した。

残骸を踏み砕き、轟音と共に巨影の肉を貫き裂く。


紅晶の欠片と黒炎が爆ぜ飛び、天地を揺るがす閃光の中──

巨体の腹に、巨大な穴 が口を開いた。


デモリオンが断末魔のような咆哮を上げ、天地が悲鳴に震える。


だが。

デモリオンは、──まだ生きていた。

裂けた単眼がぎらりと光り、怒号のような咆哮が大地を割った。


「嘘……あれで倒れないの……!?」

セラフィーの声は戦慄に震えていた。


その瞬間、リリアの胸裏で颯太の怒号が弾ける。


(……ラムタフを、無駄死にさせるかよ……ッ!)


(この野郎! そもそもなんのために、お前は破壊神とか名乗ってんだよ!?

 なんの目的のために破壊してんだ、このクソやろー!!

リシアルキラーかよ!! ふざけんな!!)


その瞬間、リリアの身は、瞬きの間にデモリオンの頭上へと跳んでいた。

空間を裂いたのか、飛翔したのか──誰にも見えなかった。


そして

リリアの口から、雷鳴を裂くような声が迸った。


「──《終焉超過領域・断絶零式オーバーコード・ゼロ》ッ!!」


天より振り下ろされるレーヴァテイン・ゼロ。

閃光が巨影を頭上から真っ二つに裂いた。

紅晶と黒炎が爆ぜ飛び、天地を震わせる轟音が世界を覆う。


裂けた巨体は、しばし空を支えた。

──だが次の瞬間、重力に引き裂かれるように崩れ落ちる。

大地を揺らす轟音とともに、巨影は地平を覆い尽くすほどの衝撃を撒き散らした。


ドォォォォンッ!!


その肉体は岩でも鋼でもなく、粘性を帯びた液体のように崩れ広がっていく。

紅晶の破片は溶け、黒炎は泥流となって地を染めた。

かつて「殲滅神」と呼ばれた存在は、もはや形を保つことすらできず──

世界の残骸のように、どろりと流れ落ちていった。


……やがて音も光も消え、残ったのは、どろりと広がる黒い湖だけだった。


リリアは剣を収め、黒い湖を見下ろした。

波ひとつ立たず、ただ沈黙だけが広がっている。

その静けさは安らぎではなく、世界から色を奪うような虚無だった。


湖面に映るのは、砕けた砦の残骸と、立ち尽くす自分の姿。

そして──弟子の笑顔の残像。

まだ幼かったあの日、「師匠、もう一回だけ!」と拙い詠唱で火花を散らしていた少年の影が、まるで湖に揺れているかのように思えた。


胸裏に刻まれた痛みは、師としてでも勇者としてでもなく──

ただ一人の人間としての叫びだった。


(……バカヤロウ。せめて、最後くらい一緒に前を向いてくれればよかったのに……)


声にならない嗚咽が喉を震わせ、瞳の端から熱いものが零れる。

その滴は、黒い湖に落ちて小さな輪紋を描き──やがてすぐに呑まれて消えた。


夜風が静かに吹き抜ける。

瓦礫を撫で、焦げた大地を冷やし、涙の跡さえも乾かしていく。

その音だけが、決着の証だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ