表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/131

『第二十二話・5 : 劣化コピーに堕ちた弟子──紅晶の決戦』

だが、その前進を拒むかのように、大地そのものが軋み、砕けた魔力の濁流が行く手を塞いだ。


ラムタフが狂笑をあげる。

「──哀れな師よ! ここで終わるのはあなただ!」


リリアは剣を振りかざした。刃は眩い光を纏い、夜を裂く閃光となる。

「──《光輝衝破》ッ!!」


白金の魔法陣が宙に展開し、白炎の柱が夜を貫き、砦全体を呑み込むように広がる。

その光は、破壊神デモリオンの巨影すら焼き払おうと牙を剥いた。


しかし、その刹那。

ラムタフの口から同じ詠唱が響き渡る。

「──《光輝衝破》ッ!!」


紅晶の陣から同質の光が解き放たれ、二つの光束が正面衝突した。

閃きと閃きが噛み合い、雷鳴のような轟きが大地を揺さぶる。

砦の地盤は裂け、石壁は粉々に吹き飛び、空気が悲鳴を上げる。

白金の光は蒼白に煌き、紅晶の奔走する輝きは血のように濁り、闇を切り裂く対比は天と地の衝突そのものだった。


「くっ……!」リリアは剣を軋ませ、足を縫いとめるように踏みとどまる。

額から汗が滲み、喉の奥が焼けつく。


(……はぁ!? やっぱりコピー野郎じゃねぇか!

 オリジナリティゼロかよ!! “師匠の真似”しかできねぇんだったら、AI生成の模倣魔法と変わんねぇだろ……!)


「クソが……ッ! マジで腹立つわ……!」歯を食いしばり、吐き捨てる。


一瞬、呼吸を荒げる。胸の奥で肺が焼けるみたいに熱い。

乾いた血と焦げた硫黄の臭いが喉に突き刺さり、胃の奥がひっくり返りそうになる。

それでも視線は逸らさない。──目の前の弟子を、絶対に許せなかった。


火花が光波の隙間から飛び散り、森を焦がす中、ラムタフがさらに声を張り上げた。

「──《聖光崩雷》ッ!!」


紅晶の雷撃が空を割り、紫電となって地を砕く。

雷鳴は竜の咆哮のように轟き、砦全体を震わせた。

紅の閃電が血潮のように走り、黒雲を引き裂いて夜をさらに濃い闇に沈めていく。


「なら……こっちもだ!」

リリアも即座に応じる。

「──《聖光崩雷》ッ!!」


雷と雷が空中で激突し、世界そのものが爆光に呑み込まれた。

稲妻の奔りは洪水のように牙を剥き、衝撃波が四方八方に吹き荒れる。

砦の残骸は次々と崩れ落ち、木々は灰塵へと姿を変える。

大地には無数の裂け目が走り、赤い光が地の底から噴き上がった。

焦げた匂いと爆裂音が重なり合い、戦場そのものが呼吸しているようだった。


(……クソッ、やっぱり真似しかしてこねぇ!

 威力は同等、でもこっちはワン太に防御力吸われてんだ……このままだと、結果的に押し負けちまう!

 コピー野郎!結局、俺の魔法なぞってイキってるだけじゃねぇか!)


リリアがそう吐き捨てる一方で──ラムタフの胸裏には、別の焦燥が渦巻いていた。


(なぜだ……!? 同じ魔法、同じ詠唱、威力も寸分違わぬはず……なのに押される? 俺が……!?

 馬鹿な、紅晶で強化した俺が負けるはずがない……! やはり“師のオリジナル”と、俺のコピーでは……埋められぬ差があるというのか……!?)


ラムタフの唇がわずかに震えた。だがすぐに、狂笑で塗り潰すように顔を歪める。


「魔法にオリジナルもクソもあるか! 強ければ、それでいいんだよ!

 あんたは昔、“オリジナルを大事にしろ”とかほざいてたけどな……結局は力がすべてだ!」


(ふざけんなよ……! 自分のオリジナルを大事にしたい!って、昔は誰よりもうるさく言ってたのはお前だろ!?

 それを今になって手のひら返しとか……結局、俺の劣化コピーで満足してんじゃねぇか!

 チート武器装備して“俺強ぇ”アピールする雑魚と同じだわ……!)


リリアは閃光に抗うように剣を軋ませ、迫る光波を正面から弾き返しながら、鼻で笑って吐き捨てた。

「はっ……本気で言ってるなら、救いようがないわね」


「やっぱりコピー野郎ね……! 同じ魔法のはずなのに、私のは前へ進む、あんたのは跳ね返されるだけ──違いがわかる?」


短く笑った。皮肉でも嘲笑でもない、ただ呆れの滲む笑い。


「そう……やっぱり、もうあなたはあの時の、前を向き続けていたラムタフじゃない。

 三年もあったのに、自分の力を磨くんじゃなく──魔王の力にすがることしか覚えなかったなんて。

 本来なら、あの頃のあなたならもっと強くなれてた。……なのに今は、ただの劣化コピーに堕ちただけ」


光と雷の光束が互いを削り合い、砦を崩落させながら夜空を白く灼き続けていく。

熱風が吹き荒れ、砕け散った瓦礫が火花のように宙を舞う。

爆裂音と焦げた匂いが重なり合い、まるで戦場そのものが息をしているようだった。

紅の電光が夜を血に染め、白金の輝きが闇を裂き、残った空間は黒く沈む。世界が三色に分断され、その狭間で二人の魔法は拮抗し続けていた。


(このコピー野郎! 結局、俺の魔法なぞってイキってるだけじゃねぇか!)


足場を砕きながら押し込む光の衝撃波。

胸裏に煮えたぎるのは、師としての怒りではなく──一人の人間としての憤り。


「私は違う! 血反吐吐いても、命削っても、それでも前に進んだ!

 だから今ここに立ってるんだ!」


(……師の俺を超えた? 笑わせんなよ! 真似事ばっかで、自分のものが何ひとつねぇくせに!)


「ふざけんなよ、ラムタフ! お前の魔法はただの劣化コピー! 自分の色すら持たない!」


呼吸が荒い。胸が焼ける。だがそれでも、声は折れなかった。──これは師弟の戦いじゃない。俺の命と、世界を賭けた戦いだ。


雷鳴を切り裂く声が砦の残骸に響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ