第二話 迷い
「暑いから、今日はもう解散しよう。わたし、そろそろ行くね」
「……うん、分かった。じゃあまた明日」
「……うん」
名残惜しそうな顔をするんだな。……分かってる。彼女が何を考えてるか。
店の軒下から出ると、じわじわと照り付ける太陽が熱い。
少し余っていたサイダーを飲むと、少し炭酸が抜けて、苦くて甘ったるい味がした。
あの子との関係が終わって、夏になった。
『友達に戻ろう』。
そう言われた時、僕は頷いた。あの子の心を分かりたかったから。
でも、時間が経ってから思う。
そんなこと、しなければよかったかもって。
だって、僕の恋心はまだ残ってる。あの子の恋心もまだ残ってる。
お互いに友達のフリをしてるだけだ。
こんなこと言うなら、またよりを戻せばいいのにって思いもする。
だけどできない。
だって、あの子は勇気を振り絞って言ってくれたから。
あの子なりに考えたんだ。
だから僕は頷いた。
……だけど、そうやって自分を納得させようとしてるだけで、僕は本当は怖いのかもしれない。
引き止めたら、まだ好きだと言ったら、彼女がどんな反応をするか分からないから。
それで本当に彼女がいなくなりでもすれば、僕は喪失感では収まらない感情を体験することになるだろう。
生きる時間が違う僕達は、ずっと一緒にはいられない。
分かってる。
あの子は気付いていないけど、僕の方がずっと年寄りで、僕の方がずっと生きる。
僕は待つ時間ならいくらでもある。だから大丈夫。
そう思ってた。
あの子がした選択を尊重したい。
もし、最期の瞬間まで真実が語られることがなくても。
そう思ってた。
でも僕は、この思いを変えなくちゃいけないのかもしれない。
あの子の隣にいられますように、なんて自分に神頼みしてる場合じゃなくて。
だって、僕達は人間よりずっと生きるんだ。その長く生きる分だけ僕は彼女と一緒にいれる。
だったら、この不安定な関係が長く続くより、恋人に戻って安心して笑ってられる時間が長い方がいいに決まってる。
その方が、彼女が逝く時にお互い後悔が少ない筈だ。
僕はサイダーを飲み干すと、彼女の後を追った。