第一話 後悔
「サイダー二つください」
「あいよ」
「ありがとう」
声を揃えてお礼を言って、大好きなこの子と店の前の椅子に座る。
彼との関係が終わって、夏になった。
じわじわと照り付ける太陽がアスファルトを熱して、それを眺めるわたしはサイダーを飲む。
甘くて爽やかで、鼻腔を抜けるサイダーが痛い。
『友達に戻ろう』。
そう言った時、この子は頷いた。
でも時間が経ってから思う。
やっぱり、言わなければよかったかも。
だって、そうすればまだこの子の恋人でいられたから。
「おいしいね」
にっこり笑顔で彼が言うから、わたしも「そうだね」って微笑む。
この子は気付いてるのかな。わたしが人間じゃないって。
……ううんきっと気付いてない。
何百年も生きる狸と人間とじゃ、この先絶対お別れが来る。わたしを置いてこの子はいなくなる。
そんなのは嫌。嫌、だけど……仕方のないこと。
だから、その時のお別れが寂しくないように手を振った。
……筈だったんだけど、やっぱり完全に離れちゃうのは寂しくて、友達のままで隣にいる。別れた意味がないって分かってるんだけど、そんなに簡単に離れられなくて。
中途半端だな、馬鹿かな、情けないよね。
そんなこと思って、大好きなこの子といるのに溜め息吐きそうになる。
「元気ない?」
「えっ? ううん、そんなことない。暑いから、バテちゃった」
取り繕う。バレないかな。
「そっか、確かに暑いね。僕のサイダーいる?」
「い、いいよっ。君のだもん」
首を傾げて聞いてくるのがちょっと可愛くて。でもダメだよ。「いる?」なんて聞いちゃ。
わたしはまだ好きだから、そういう些細な仕草や言葉でどきどきしちゃう。
……わたしの方から振ったのにな。
「暑いから、今日はもう解散しよう。わたし、そろそろ行くね」
「……うん分かった。じゃあまた明日」
「……うん」
納得していなさそうな彼を残して、わたしは小さな山への道を歩く。
当たり前にわたしとの明日が来ると思ってるあの子の期待を、裏切りたくない。
……ううん、本当はそのことも理由にして、自分の離れたくないって気持ちを優先してる。お別れだってわたしのわがままだったのに、また、これもそう。
……いつか、あの子に本当のこと話せるかな。お別れが来るって、それを受け入れられるかな。黙ってたこと、あの子は許してくれるかな……。もう一度、恋人になってくれるかな……。