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恋と色

作者: 明家叶依

 恋というものに色を付けるのなら、僕は白と言う。


 自分が白いTシャツのような純白の白を持っていて、相手の色を自分に付ける。そういった恋の形があってもいいんじゃないかって、大学生ながらに考えていた。


 相手の色に染まる。それは案外難しい事なんじゃないかな。だって、お互いにそういった色があるわけじゃない。僕だって純白の心を持っているかといったら嘘になる。好きな食べ物も、好きな芸能人も違う。近い色があっても、同じ色はいない。だから、きっと皆、同じ色に近い人どうしで混ざり合うんだろう。


 けれど、それが幸せと断言はできない。

 価値観が同じであっても、きっと衝突はする。


 だから、僕なりの考えだけど、自分の色も持ちつつ、白色という、何色にでも混ざり合える色を持っているだけで、とても世界はユタカになるんじゃないかって、勝手に思っている。それはきっと、僕だけじゃないと、信じている。


「パンクが好きなの」

「うん」

「ロックが好きなの」

「うんうん」

「アニソンが好きなの」

「へーそうなんだ」


 合コンに来ていた僕は、一人席を立ち、トイレの個室にこもって息を整えていた。窮屈すぎるだろ、あの空間……。いや、何でも受け入れるって決めていたけれど、さすがに王道の、流行りの曲しか聴かない僕にとってはマニアックすぎて軽くびっくりした。


 高校では運悪く、いや、自分の行動力不足でお付き合いには発展しなかった。大学こそはと意気込んで入学して知り合った友人主催の合コンに参加させて貰うことになったのだが、あまりにも自分と違いすぎた。そりゃあ、皆、同じ趣味の人を好きになるんだろうな、と思ってしまうほどに。


 一つしかない個室を勢いよくノックされて、何も出していないのに一応水を流して外に出た。


 同じ生き物かと思えない程、違う趣味嗜好を持っている。まあ、それが人間という生物と言ったらそれまでだ。近未来の標本に人間が提示されるのなら『unknown』と書かざる終えないほど不明な点が多かった。


 そんな中でも、一人、目を引く存在がいた。


 彼女は、ずっとスマホを見ていて誰とも言葉を交わしていない。席替えで僕は彼女の隣に行き、スマホをのぞき込んで「何見てるの?」と聞くと、不審がってスマホを鞄の中に入れてしまった。


 そして、オレンジジュースを飲む。僕も持っていたビールに口を付けると、グラスを先に置いた彼女が「ゲームの実況を……見ていたの」と小さく呟いた。


 僕はゲームもしないし、所謂、そういった暇つぶしの動画も見ないんだけれど、なぜだか、その子が見ているのは何だろうかと興味が湧いた。名前を教えてもらって調べると、前のめりになってきて、楽しそうに笑っている。


 少し、ドキッとした。


 その時、ふと、感じた。


 あー。人間ていうのは誰でも受け入れられる訳ではなくて、特定の相手のことだったら、いくらでも知りたくなるようにできている。


 僕の……この、白い心を塗ってくれるのはこの人なのかな。


 顔が熱くなる……


 僕はビールを飲み干し、二杯目を頼んだ。

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