表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨獣新世紀 メガファウナ  作者: はくたく
リベルティナ
6/23

出会い


「……まさか、女だとは思わなかったぜ……」


 不意に後ろから声が聞こえ、ニナは慌てて頭部装甲をかぶり直した。


『な……何のことだね。イベントで会っただろう? 私は大谷慎。リベルティナのパイロットだ』


 頭部装甲に仕込まれた外部拡声器から、若い男の声が流れ出す。

 だが声の主は、確信に満ちた声で続ける。


「なるほど。電子変声してたんだな。すっかり騙されたぜ」


 ニナが恐る恐る振り向くと、そこにはSHOU……いや翔がいた。

 二十メートルほど離れた大木の根元に、足を投げ出してよりかかっている。

 右腕で反対の肩を押さえているところを見ると、かなり大きな怪我をしている様子だ。


『た……立てないのか?』


「変声やめろって。まあ、あんな状況だからな。生きてるのが自分でも不思議だぜ……へへ……」


 翔はそう言って笑うと、肩で息をついた。

 たしかに、二度もカニスルプスの巨大な顎にとらえられ、牙に裂かれることも嚙み砕かれることもなく、また落下の衝撃で死ぬこともなかったのは、僥倖以外の何物でもない。


『…………じゃあ、女の声にするけど……私が巨獣だってのは、わかってたの?』


 ニナは、変声機を調整して声を女性ものにした。だが、自分本来の声より敢えて低めに設定する。

 本来の声を聞かせるわけにはいかない。もし、声で自分の正体がばれれば、ここから帰れても、これまでのようにチャットできなくなってしまう。

 だが、女性の声に変わったことで、翔は納得した様子だ。


「巨獣……ってぇか巨人、だよな? 気になって調べたんだよ。ラットゥスは大昔、『ネズミ』って呼ばれてた生き物によく似てる。その他の巨獣にも、よく似た古生物がいる。もし、でかくなった動物が『巨獣』だっていうなら、同じことが人間でもあり得るんじゃねえか……ってな」


『ふ……ふうん』


 ニナはひそかに感心した。

 チャットで話していた時から、聡明な印象は受けていたものの、ここまで鋭いとは思っていなかったのだ。


「違和感を持ったのは、お前がラットゥスにやられた時、だな。肩押さえたろ? 機動兵器がそんなことするわけねえってな。それに、イベントの時の質問への答え」


『え……ちゃんと答えたよね?』


「ばか。今の技術じゃ、どんな高性能電池でも、でかすぎてリベルティナにゃ積めねえ」


『そ……そんなの、やってみなきゃわかんないでしょ』


「実際やれてねえから、中身がお前なんだろ? それに『人型にした理由』もお粗末。『フレキシブルに対応する』ために複雑すぎるもの作るくらいなら、それぞれに特化した車輛をたくさん作った方がコストは安い」


『だ……だから一機しかないわけで……』


「それも不自然。開発に使われたはずの基礎技術が、どこにも発表されてない」


『も……もう分かったよ。でも、これからどうする? バイオームから出る方法なんて……痛ッ⁉』


 ニナは、ふいに首筋に痛みを感じた。

 手をやると、頭部装甲と胸部装甲の隙間に、筒状の何かが刺さっている。ドラム缶を二つ重ねたくらいの筒に、太い針が付いたもの。それが、どこかから飛んできて刺さったのだ。

 さっき外したせいで、頭部装甲が完全には装着されていなかった。その隙間を狙われたのである。


『な……何コレ……?』


 何かを言いかけて、そのまま意識が遠のいたようであった。膝をつき、地面に両手をついて、そのままうつぶせに倒れた。


「何だ⁉ リベルティナ⁉ いや『大谷』か? なんでもいい‼ おい、しっかりしろ‼ こんなところで寝るな‼」


 翔が叫ぶが、もう返事はない。

 何者かは知らないが、攻撃と判断していいようだ。だが、こちらには武器も体力も残ってはいない。翔は覚悟を決め、折れた足で立ち上がり、両手を上げた。


「俺たちに抵抗する気はない‼ あと、こんなでかくても、こいつは女だ‼ 殺さないでやってくれ‼」


「ああ、わかってる」


 周囲の森がざわめき、声の主らしき人影が現れた。

 そして、それに続いて姿を現したのは、体長7~8メートルの毛むくじゃらの大型生物であった。よく見ると、その大型生物は、木製と思しき巨大な車輛を引いている。車輛には、やはり木製の、弓とも投石機ともつかない大きな装置が乗っていた。

 その周囲には、さらに数人の人影。

 どうやら、先ほどの大型注射器は、その投石機のような形状の装置から発射されたものらしかった。車輛を引いている大型生物は、焦げ茶色の剛毛を全身に生やし、背中はまるで山のように盛り上がっている。二つに割れた蹄。正面を向いた鼻孔。口元からは三日月のように反り返った両牙がのぞいていた。


「殺したりはしない。あの注射も善意だよ」


 先頭に立ち、大型生物の引き綱を引いている男が言った。


「善意……だと?」


 警戒を解こうとはしないまま、翔が言う。


「そう。本来は、あの『犬神』に打つはずだった注射だ」


 指さす先には、血に染まって斃れたカニスルプスがいた。


「どういうことだ」


「説明は後だ。まずは――」


 男は言いながら、手に持った銃を発射した。

 軽い衝撃があり、翔の肩にも小さな注射器が刺さる。


「――君にも同じ処置が必要だ」


「て……てめえ……」


 翔は肩を押さえたまま、膝をつき、そのまま前のめりに倒れこんだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ