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巨獣新世紀 メガファウナ  作者: はくたく
リベルティナ
5/23

死闘


「やめてぇッ‼」


 ニナは思わず叫んでいた。

 攻めあぐねていた敵を、空中バイクに乗った戦闘服の人が誘導してくれた。

 跳躍したカニスルプスを狙い撃ち、ホッとした瞬間のことだった。

 新たに出現したもう一個体のカニスルプスが、空中バイクをくわえて叩きつけたのだ。

 予想できなかったのも無理はない。

 そのカニスルプスは、明らかにバイオームの中から飛び出して来ていた。


(そうか……そうか……そうだったんだ‼)


 額の角。電磁波能力。バイオーム近傍。

 ぐるぐると思考が回る。

 つまり、カニスルプスはバイオームから出てきたに違いない。では、すべての『巨獣』はバイオームから発生していたのか。

 まさか『バイオーム』は、巨獣を作り出していたのか。

 そもそも『巨獣』とは何なのか。

 そう思った時、カニスルプスの幼獣のうち、一頭の頭部に何かが乗っているのに気が付いた。


(あの空中バイクのパイロット? そうか、振り落とされて、偶然頭に乗ったのね)


 戦闘服姿のパイロットは、幼獣の頭部にしっかりとしがみついている様子だ。

 つまり、まだ生きている。


(まさか……まさか……)


 違っていてほしい、そう願いながらスコープの倍率を上げる。

 だが、嫌な予感は当たっていた。


(やっぱりSHOUくん‼ 助けなくちゃ‼)


 ニナは、幼獣の方へ手を伸ばした。

 だが、それがまずかった。新たに出現した親個体の警戒心を煽ってしまったのだ。カニスルプスは、あの素早い動きで、一瞬にして幼獣の首元をくわえると、大きく跳躍した。そしてバイオームの障壁へ向かう。


「待ってッ‼」


 あわててニナも走り出す。必死の思いで、カニスルプスの体にしがみついた。

 だが、追いついた時には、もうカニスルプスの前半分は障壁を越えていた。

 カニスルプスの腰あたりに抱き着いたまま、ニナもまた障壁を越えてしまったのであった。



***   ***   ***



いったーい‼!」


 ニナは思わず叫んでいた。

 障壁を越えた直後、カニスルプスは、腰にしがみついたリベルティナに、振り向いて噛みついてきたのだ。

 防ごうとして突き出した左手を、思い切り噛まれてしまったニナは、装甲の対ショック緩衝機構が働いていないことに気が付いた。

 バイオーム障壁の反発抵抗は、ニナが想像していたよりも小さかった。

 とはいえ、約8000平方キロを覆う強力な力場を、たった一体の生物が発する電磁波で突破したのだ。

 リベルティナの装甲は、物理的破壊こそされなかったものの、電子系機能がすっかりダウンしてしまっていた。

 自由な右手で思い切りカニスルプスの顔面を殴り、牙を振りほどいたニナは、相手をきっと睨みつけた。

 相手の目から視線をそらさないようにしつつ、周囲を確認する。

 見晴らしは悪くない。どうやらこの場所は、草丈2メートルほどの植物に覆われた、草原のようだ。

 噛まれた左腕を動かしてみる。装甲自体は多少破損したものの、傷は負っていない。牙は伸縮性のあるベース部分で止まったようだ。

だが、対峙しているカニスルプスも、その毛皮で守られていたのか、ほとんど様子は変わっていない。

 

(あれ? そういえば、幼獣は? あの人は?)


 噛みついてきた、ということは、くわえていたものは下ろしたはず。

 そう思って見渡すと、カニスルプスの足元にうごめくものが見えた。幼獣だ。

 しかし、その頭部にしがみついていたはずの戦闘員、つまりSHOUの姿は見えなくなっていた。


(跳ね飛ばされた? じゃあ、あんまり動き回ったら、踏みつぶしちゃうかも……)


 格闘戦はできない。

 両刃剣は、バイオームの外に置いて来てしまった。レーザーやミサイルの発射装置はすべてダウンしていて使い物にならない。それでも、できれば周囲に被害を与えず、一撃で斃したい。

 ニナは、左腕に仕込まれた武器を起動させてみた。

 ニードルフルーレ。

 形状記憶合金の長い針を飛ばす武器だ。腕の装甲にコイル状になって仕込まれているが、スイッチで加熱されることによって変形して飛び出す。同時に装甲の一部も変形して針を押し出すことで、かなりの初速を得ることが可能である。

 剣ですら、浅めに突き刺すような戦い方をするニナは、根本的に血が嫌いだ。

 よって、一度も使ったことのない武器だったが、今はそんなことを言ってはいられない。


(よし……動く)


 指先に、フルーレの作動スイッチが入った反応が返ってきた。

 だが、慌てて発射して、外したりしては元も子もない。

 ニードルの形状は単なる棒状であるから、まっすぐ飛ぶとは限らない。飛翔距離はさておき、照準となると怪しい。

 元々が、至近距離でのとどめや、ギリギリで反撃する際に使う、言わばいざという時の非常用武器なのだ。

 ニナは、姿勢を低くして構え、相手が襲い掛かって来るのを待った。

 右腕で顔と喉元を防御し、腰を引く。

 左手をひらひらさせ、正面からの攻撃を誘う。襲ってきたら、左手一本を犠牲にしてもかまわない、噛まれようが何をされようが、そのまま相手に押し当ててニードルを発射すればいい。


「よし……来いッ‼」


 思わず口にする。

 だが次の瞬間。カニスルプスは、なんと大きく跳躍した。

 体長の数倍。二百メートル以上の高さから、白くきらめく牙がニナの首元を狙ってきた。


「く……この野郎ッ‼」


 思わず強い言葉が口をつく。

 SHOUを救うためにも、絶対にここで負けるわけにはいかない。ニナは、無理やり体をひねって仰向けになると、必死で左腕を突き出した。


「ぎゃんッ‼」


 悲鳴が響く。

 ニナの左手は、カニスルプスの口の中に突っ込まれていた。

 手首から発射されたニードルは、カニスルプスの後頭部を貫いて飛び去った。

 大量の血液が降って来て、ニナの全身を真っ赤に染め上げる。

 カニスルプスは、一瞬体を硬直させて、すぐにぐったりとなった。

 ニナは、力を失ったその肉食巨獣の体を、そっと草の上に横たえた。


「……ふう……」


 大きくため息をついて、座り込んだニナは、ヘルメット状になっている頭部装甲を脱いだ。

 ウェーブのかかった栗色の髪がこぼれ出し、肩にかかる。

 リベルティナの仮面の下から現れたのは、愛らしい少女の顔であった。

 身長25メートル。

 体重は非公開ひみつ

 いつの間にか高く上った満月が、血に染まった銀の装甲を照らし出す。

 人間型の巨獣『サピエンス』と呼ばれる者の一体。

 それがリベルティナの中身。倍力装置付きの重機動装甲を身に纏った少女、三筋川ニナであった。



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