新生活編3
2107年、スイス永世中立国は、長い歴史を経て、その名をスイス連邦から変えることを決意した。その新しい名は、世界への重要なメッセージを含んでいた。これまでの無数の争いが繰り広げられてきた世界に向けて、スイスは「武力不干渉」という旗を掲げることにしたのだ。
その名の変更は、表向きには平和の象徴の誕生として受け入れられた。しかし、誰もが知ることのないところで、古くから渦巻く黒い怨念が、時間とともにますます強くなっていた。その怨念は、過去から現在に至るまで、スイスの地を含めた世界各地で隠れるように潜んでいたのだった。
2113年9月3日 東京都世田谷区
東京の景色も2000年代からはガラッと変わった、正確には一軒家というものが淘汰されていったという印象を受ける。個人の持ち物である家屋は経年劣化・自然災害、建築基準法改正でほぼなくなり、税金対策で法人名義で購入した家屋が法人の合併、倒産により大企業と呼ばれる法人に吸収されていき、大企業の役員のデカすぎる持ち家ばかりになってしまった。一般人はもっぱらマンションもしくはアパートに住むのがベーシックスタイルになっている。
そんな東京にある家屋の一つに1800年代からありそうな家屋が現存されている。世田谷代官屋敷と一般に呼ばれるその屋敷は、国の重要文化財として保存され続けている建物である。
しかしその建物は単なる重要文化財の建物ではない。近隣住民の知らずのうちに地下が継続的に開発され続け、今となっては日本国でも最大級の地下施設となっている。
「はぁ、はぁ、、、はぁ、、、」
黒い光沢のあるラッシュガードのような服に全身を守られた少年が息を切らせながらコンクリートの床に横たわっている。かなり呼吸は乱れており、その様子からだけでも相当な疲労感が見て取れる。
地下400mほどにある六面がそれぞれ30メートル四方ほどの打ちっぱなしのコンクリートで囲われている部屋に男性3人と女性が1人いる。コンクリートの壁は鉛の含有量が非常に大きい放射線を通すことの無いコンクリート出できており、壁・床・天井の分厚さは3メートルほどあるだろうか。
横たわっている少年の他の男性のうち一人は、まるで人間サイズのガ⚪︎ダムのような重装備の男性で、もう一人は堅苦しすぎるレベルで正装をした初老の英国の紳士もしくは執事のようなジェントルマンである。この二人が息が荒くコンクリートの床に横たわった少年をその傍らで見下すように見ている。
もう一人部屋にいる女性は明らかにメイドですと言った服を着て静かに部屋の唯一の出入り口となる分厚い合金性の扉の付近に控えている。
そしていき一つ見出していない装甲を身につけた男が、呆れた顔と納得した顔が混じったような顔をして話し始めた。
「やはり、鷹木の家のものはこのレベルであるか。」
「仕方がないことかと思います。現に鷹木の皆様方は他の分野で多大なる貢献をしていただいています。」
「確かに鷹木の家のものは偵察や密偵が主な任務であるのはわかっておるし、その方面で貢献もしてくれておる。しかし、いざという時には奴らはどうしておるのだ。」
「その疑問にはお答えしかねます。これ以上の詳細な回答・説明には次期当主様からの承認が必要になります。」
「はぁ、、、まぁいいわ。しかし彼らは次期当主のパラディンに立候補しておる。戦えない・守れないでは却下せざるおえないぞ。もう審査するのもこれで7人中の6人目で合格者はゼロであるぞ。」
「ですが、最後の受験者がかなりの実力者にございます。」
「知っておる。次期当主様の親友であり、悪ガキであろう?次期当主様の教育に悪影響を及ぼす可能性を大いに秘めておる。」
「同意は致しかねますが、次期当主様の強い希望によって試験を受けに来ている点とその実力だけで判断した場合、最優良候補にございます。それも真偽は存じ上げませんが、次期当主様と共に鍛錬の日々を積んで模擬戦等の戦績はほぼ互角とか。」
「それは初耳だが、流石に話を盛りすぎではないだろうか?だが真偽はすぐにわかることよ。」
重装甲を身につけた男性はガチャガチャと音を鳴らしながら戦闘の準備を始め、次の受験者を迎え入れる準備を始めた。しかしこれまでの大柄の男性の行なってきたという試験では、あまり追加で何か用意する必要が出てくる出来事がなかったのか、身だしなみを整える程度で準備は終わり、重装甲を身につけた男性は、執事のような男性に準備完了の旨を伝えた。
「では、一色よ。次の候補者を呼んでくれ。」
「承知しました。では一旦退室させていただきます。」
こうして執事のような男性は、メイド姿の女性と共に部屋を後にしていった。
数刻経つと、一色は少年二人を伴って戻ってきた。
「ただいま戻りました、本田殿。ただ、朧霞様が見学したいと強く要望されまして、付いてこられました。」
本田と呼ばれた重装甲を身につけた男性は呆れたような顔をしながら、気まずいような雰囲気を醸し出して、礼儀を最低限欠かない儀式的な挨拶と返事をした。
「朧霞様、久方ぶりにお顔をお見せすることになり、申し訳ございませぬ。」
「本田忠勝、お前がこういうのが苦手というのは知っている。気にするな。それと俺は参戦しないが、しっかりと見学はさせてもらうから、本気でやってくれよな。多分忠勝は負けるぞ。」
「なんと後ろに控えているその受験者はそんなに強いのか。はっはっ、それは腕がなりますぞ。」
「ということで、蓮、お前も本気でやれよー。お前の苦手分野で試験されるわけだからな?」
「朧霞?俺のハードルをそんなに高くしなくてもよくねぇーか?それに俺はお前に対して敬語なんて今更使えないし、どうすればいいんだよ。」
朧霞の後ろにいた蓮と呼ばれた少年が親友に取るような態度で答える。
蓮は朧霞とほぼ同じ身長、同い年の少年で、さっきまでこの部屋にいた他の受験者と同じく全身にラッシュガードを纏い体の線がはっきりと見えるが、よく鍛えられているのがわかる体をしている。また日焼けをした小麦色の肌でちゃんと整った顔立ちから、学校では絶対にモテそうな雰囲気をしている。
「蓮は今のままでいいさ。今日の入学式で知り合ったみんなに不審がられるし。」
「それもそうか、でも家の人たちと術師たちはいい気にならないんじゃないのか?」
朧霞と蓮は午前中に高校の入学式があった。その高校入学者に同性の知り合いは他におらず、異性の知り合いも朧霞の家のメイドが一人だけと、ほぼ二人ぼっちで入学式を迎えたわけだ。しかし朧霞、蓮両名のビジュアルがすぐにそうはさせてくれなかった。そのため、今日だけでもクラスメイトとはそこそこ仲良くなった(と相手は感じているだろう)。ただ学校自体の生徒の男女比ほぼ一対一であるのに、二人と会話をした生徒の男女比は一対五ほどであった。しかしその程度で浮かれる二人ではない。
「蓮さん、西園寺家の皆は朧霞様に友人が極めて少ないことを憂いておりますので、友人として適当な物言いでありましたら全く問題ございません。この磯城めも、感動しております。」
「おい!一色。あとで話がある。」
「朧霞様、私にはございませんし、心当たりもございませんが?」
「一色、あとで、だ。」
「さて皆様方?そろそろ審査を始めたいところなのですが、よろしいか?」
(⚠︎西園寺家内の内輪ネタで盛り上がって本題が進まなくなるのはよくあることである。)




