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新生活編2

2107年、スイス永世中立国は、長い歴史を経て、その名をスイス連邦から変えることを決意した。その新しい名は、世界への重要なメッセージを含んでいた。これまでの無数の争いが繰り広げられてきた世界に向けて、スイスは「武力不干渉」という旗を掲げることにしたのだ。

 その名の変更は、表向きには平和の象徴の誕生として受け入れられた。しかし、誰もが知ることのないところで、古くから渦巻く黒い怨念が、時間とともにますます強くなっていた。その怨念は、過去から現在に至るまで、スイスの地を含めた世界各地で隠れるように潜んでいたのだった。

15時になった。部屋には先ほどまでなかったデスクトップパソコンのセット一式とVRゴーグル型の端末が用意されていた。それ以外に変わったことはないが、ただ執事の磯城が忙しなく連絡を多方面にとっていた。

「若、後処理の部隊ですが、航空部隊はすでに出撃準備を終えるようですが、海上部隊はまだ時間がかかるとのことです。」

「磯城、では海上部隊はEGG内にて航空部隊の回収にシフトさせてくれ。さて、、、間も無くだが、他に報告等はあるか?」

 朧霞は壁掛け時計を見ながら磯城に報告事項の確認を行った。時計は15時4分を指していた。

 磯城は特に報告事項はないようで、先ほどの相談事項を伝える通話中だったため、ゆっくりと首を横に振って朧霞に意思を伝え、先ほど言われた指示を関係各所に伝え続けた。

 朧霞は磯城からの意思を受け取ると、立ち上がり準備を始めた。VRゴーグルをデスクトップパソコンの設置してあるデスクから手に取り、かぶるとVRゴーグルの液晶には捕縛対象の詳細を含む戦略的情報が一面に表示されていた。

「なんだ、30分前となんら情報は変わらないではないか。式神での捕縛対象の位置探索状況は?」

 朧霞はVRゴーグルの情報から磯城に対して問いを投げかけながら、捕縛対象の詳細情報を聞き出そうとする。

 式神は過去、平安時代の陰陽道で一躍有力者たちによって活用され、かの安倍晴明の十二神将が特に有名な式神として挙げられる。

 式神は何種類かに分けられるが、今回用いている式神はモノや動物に自分の意識を写して、移動し偵察させるタイプのものである。方法は難しいがやっている事自体は複雑ではない。自分の意識を分離させたものを保管するための依代(多くの場合は材質にこだわった和紙を用いることが多い)に、自分の意識を転写し、その依代を対象に貼り付ける(接触させる)だけである。これにより、アンテナの受信機・送信機の役割が果たされ、自由に対象を動かしたり、視界を共有したりすることができる。また常に意識を共有するのではなく、オートパイロット的に指示をしておけばある程度の行動はしてくれる。

 また術者の実力によっては大物の動物や、戦艦などに意識を転写することができ、それらのコントロールを奪うこともできるため、暗殺や、偵察などにはもってこいの式神である。

 しかし現時点で、小型生物を使役して暗殺を行える、また大型の動物や大型の無機物に対して意識を転写できる実力者は世界でも数名しかおらず、また式神の操作は体力の消費が激しく、神経をすり減らす、針に糸を通すような操作が必要なことから、暗殺に好んで用いるものはいないに等しい。

 今回、磯城の部下は魚と虫、鳥に対して式神を使っており、それら生物のコントロールを奪い、視覚情報を共有することで、偵察を行なっていた。

「若、偵察班の報告では、捕縛対象は食糧庫内のアルコールを物色し、昼から酒盛りをしているとのことでした。まるで中世の海賊のようだと報告が上がっており、女性士官を横に侍らせているとのこと。移動し次第追加報告をあげるとのことでした」

「こいつほんとに殺しちゃダメなの?」

「はい、いけません。我々術者の脅威となる技術を生み出す可能性のあるとても優秀な技術者ですから、是非とも我が陣営にスカウトしなくては」

「俺は、仕事中に隠れて酒を飲むような輩は仲間にいらないかな。せめて堂々と飲まないと」

 またしても朧霞はぐだぐだ言い始めた。その不満の切れ目を見計らってメイド姿の女性が、2分前だと伝えてくる。ほんとに空気を読むのがうまい。

「磯城、術式用の刀柄をくれ」

磯城は自身の近くにおいていたアタッシュケースを朧霞の付近の机の上に移動させ、鍵とロックを解除し、丁寧に開けた。

 そこにはレイピアの柄が1本、日本刀の刀柄が2本入っていた。そのうち、レイピアの刀柄を丁寧に取り出し、アタッシュケースの蓋を閉め、鍵をかけた。

 レイピアの刀柄を両手の平の上に置き、朧霞に捧げるような形で渡そうとする。

 朧霞はその様子を一瞥して、レイピアの刀柄を受け取った。

レイピアの刀柄には大粒でとても濃い色のアメジストが装飾されている。

「美月、俺はまだやるよ。君のために。君がくるまで」

 朧霞はレイピアに装飾されているアメジストを見つめながら磯城にも聞こえないような声でつぶやいた後、レイピアの刀柄を胸元に祈るように持っていった。

「『心眼』展開、只今より作戦を開始する。念の為の観測と防御を頼んだぞ」

 朧霞がレイピアの刀柄を船隊のいる方向に向けると、空気の波を発した。正確には大規模魔法が発生・照準されたことによる、空間の揺らぎが発生した。その波は目に見えず、感じることのできない大きな力の塊を静かに船団の方に高速で運び、20秒ほどで船団まで到達した。

 船団に魔法が到達しても爆発等の派手なことは起こらなかった。しかし船団では水蒸気のような煙のようなものが立ち込め、何かしら異常が起こったことは感じ取れるような状況になった。ただ船が沈没するようなことはなかったがそこには、静かすぎる船団が波に揺られるだけの状況が完成した。

 


 この日、瞬間的に日本のEZZ付近で5000人ほどの命の灯火が消えた。その全て中華連邦国籍の人間のものであった。この事実はニュースにはならなかった。ただ日本のEZZ付近に中華連邦籍の船団が動かず通信もせず停船しているという状況がニュースにはなった。


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