44話「友と共に」
白銀ノエルの体力は、亜人種でありながら平均的な獣人種の4倍。
そこに加えて平時纏っている自身の魔力を編み込んだ鎧によって、難攻不落の要塞と化している。
鎧を捨てた現状ですら大会トップの体力と獣人種並みの防御力を誇っているが、兎田ぺこらの10連によって2割弱まで削られている。
対する兎田ぺこらも合計156回分の能力発動により、魔力が尽きる。しかし
(体力を使えないとは……言ってない!!!)
「アゲてけノエルぅぅ!!!!!」
叫びと共にぺこらから魔力が溢れ出す。
『課金』
自身の体力を魔力に変換し、能力を続行させる。
まさしく『破滅的奥の手』
この戦術か使えば使うほど体力を削り続ける愚策でありながら、今のぺこらにはそれしか残っていなかった。
ノエルは大剣を両手に持ち直し、守りの構えを取る。
ぺこらは両手に魔力を纏わせ間合いを詰める。
(耐えろ……!)
襲いかかる打撃を大剣でひたすらに受け止めるノエルは冷静に回数を数える。
木々の間に魔力の衝撃がこだまし、森の地面にひびが走る。
だが、ぺこらの動きが一瞬にして変わる。
風を切る音と共に地面を跳び、ノエルの背後へと回り込む。
背中を狙って振るわれた拳をノエルが大剣で防御する。
その瞬間、ぺこらの打撃で引かれたカードが強く光り始めた。
⭐︎5(SSR)強化カード
【ルカニ】
兎田ぺこら
防御に対し有効。
攻撃が触れた対象の物体の強度を無視して完全に破壊する。
光と共に響く破砕音。
ノエルの大剣は打撃を受け止めた瞬間に砕け、無数の破片と化して宙を舞う。
その砕けた中から、柄に直結した重厚なメイスが露出する。
「………きちゃ!!!」
(武器を破壊した!これで攻防ガタ落ち!このまま攻めるしかない!新しく武器を作る隙も与えない!!!)
ぺこらの勢いは止まらない。息も詰めぬまま、再び魔力の波を身に宿しノエルへ畳みかけるように攻撃を仕掛ける。
ノエルはもはや後手に回るしかなかった。
防戦一方の中でも、ノエルの思考は止まらず……295……296と回数を数える。
(まだ………耐えろ!!!)
その時、ノエルの脳裏に昨夜の記憶がよみがえる。
――――――――――「それではノエルさん」
静かな声。聞き慣れた声。
あの晩のフレアとの会話が、今も鮮やかに思い出される。
「お勉強を始めます!」
フレアはそう言いながらホワイトボードに指示棒を当てていた。
ノエルは目を丸くしていた。
「………フレア?なにごと?」
ノエルが困惑するも構わずフレアは話し始める。
「次の作戦であたし達はマリンとぺこらの相手をする。作戦通りならすぐにみこちが参加して3vs2になるけど、2vs2の状況もかなり考えられる。その時ノエルはぺこらの相手をすることになるわけで。………ぺこらの能力は覚えてるよね?」
「ガチャを引いてアタリが出たら、つよい。」
「まぁ……ウン。そうなんだけど確率上昇や天井要素を抑えると一気に戦いやすくなる。それのお勉強をするぞ!」
「だんちょにできるかなぁ?」
・⭐︎5が出てから40連までは安全より
・トータル何連か
・前回の⭐︎5から何連か
「ま、・今何連目か
・いつからアタリが出やすくなるのか
これだけ抑えれば十分だよ。あとは……ちょっとした戦法も考えたけど……脳筋すぎるっていうか、かなりノエルに無茶させる……」
「そこはだいじょぶ、教えて」
ノエルは真っ直ぐにフレアを見つめた。
迷いのないその目で、ノエルは言い切る。
「信じてますから」
その一言に、フレアの表情が少し和らいだ。
――――――――――――――――――
ノエルの視線が森の地形を捉える。
(団長たちは今最初に戦った位置、フレアたちの近くまで戻ってきてる。ここには団長が初撃で破壊して魔力を込めておいた瓦礫がある。ぺこらっちょの能力で当たりの確率が上がっても狙った攻撃にはできない。だから常に反撃を警戒してるし、そこの本人の回避能力が合わさるから団長のスピードじゃ攻撃を当てることができない。………けど、一度だけ………必ずぺこらっちょが攻撃に全振りするタイミングがある)
その瞬間は来た。
ぺこらが次の攻撃の動作へと全てを集中しようとした、その一拍の隙
(今ここ!!!300連目の『天井』……!必ずレジェンド⭐︎5になるこのタイミングだけは、必ず勝負を賭けにくる!だからここで決める。『マリン』『フレア』『ノエル』ぺこらっちょのどの手札でも防げない……大質量包囲トラップ!!!!!)
その瞬間、ぺこらの頭上に瓦礫が浮かび上がる。
ノエルの魔力が再び周囲の破片を呼び起こし、森の空に影が差した。
『銀騎士勲章・崩為』
破壊したものを武装とする能力の応用で、武装とせずそのままぶつけて質量攻撃を行う広域破壊技。
これをぺこらの『全力』の一撃の直前、反撃不能なタイミングでぶつける。
降り注ぐ瓦礫に、ぺこらの瞳が動揺を見せた。
兎田ぺこらのコピーにストックされる条件は異能を持つ相手を彼女主観で『友達』と認識すること。
曖昧な条件だが、その条件がなかなか満たせず苦労した学生時代の経験から、不知火フレア・白銀ノエルはこの大会で初対面であろう獅白ぼたん・雪花ラミィの異能はストックされていないと踏んで想定から外して戦闘に臨んだ。想定外は
兎田ぺこらによる『出会い』だった。
ぺこらが引く300連目の輝くカードには『湊あくあ』と記されていた。
「やっと来たぺこか…………あくたん!!!!!」
それは歓喜でもなく驚愕でもない、確信だった。
ぺこらの拳にこれまでとは異なる波動が走る。
魔力でも筋力でもない、もっと根源的な何か。
『信頼』が、今の彼女を突き動かしていた。
カードの輝きが一層強くなる。
頭上から迫るノエルの質力攻撃を前にして、ぺこらは一歩も引かない。
ぺこらの目に映るのは、未来だ。
『友達との絆』がその手に今、力として集束する。
「さぁ……いっちょかましますかぁ………!!!」




