エピソードδ「掃除屋のシャチ」
異能大会『holoRoyal』
民間企業の共同出費で開催されるこの大会は、毎度穏やかでない事件が付き纏う。
狙われるのは大会に使われる『機密技術』。
そして、集った『異能使い』。
だがこの第10回に至るまで通常は被害を0に留めてきた。
主催組織holoXが誇る4名の異能使いによって。
「離せっ!クソッ!!!」
既に脱落した参加者が車に連れ込まれそうになっていた。
「そういうやつさぁ……この辺りでやられると、沙花叉の……監視ふゆき?不届き?……なんだっけ?とにかく沙花叉が怒られるからやめてくれませんか?おじさん」
車の上に現れたのはholoX幹部の『沙花叉クロヱ』だった。
「holoX………会場からは離れてるんだがな。はっ……参ったな」
男がそういい拳を振るうと車が爆発する。
沙花叉は誘拐されそうだった参加者を抱え距離を置く。
「あ、ありが……」
「離れて、死ぬよ」
沙花叉は参加者を安心させようと余裕な表情を見せる。
「参ったなぁ……ターゲットを逃した上にこれじゃあお嬢に徒歩で帰ってもらう他なくなっちまった」
炎上する車の明かりから大柄の男の影が見える。
男の頭には虎の刺青が彫られていた。
「『holoX』の生捕りで許してもらえるかぁ!!!???」
「人身収集?今時流行んないから」
男がメリケンサックを拳に装着して殴りかかると沙花叉がナイフを取り出し刃で受け止める。
男は間髪いれず殴り続けるも全て捌かれる。沙花叉は攻撃を捌きながら男の体を切り付ける。
「………敵わないねぇ。ナイフ一つ一つが重く動きもいい……手練の獣人種だな」
「おじさんこそ、無能力者にしては結構重かったですよ」
「無能力者?……ははっ、そいつは嬉しい思い違いだな。俺ァ……」
男は親指と人差し指、そして中指を立てピストルの形を作る。
「自然種の異能使いだぜぇ!『銃』!!!」
男が高出力の魔力を放つ。沙花叉は間一髪で避ける。
「………っじか!」
「そして獣人種は……俺の能力と相性が悪い」
男がそういうと足元から影のようなものが広がる。
――――『無窮空亡』――――
影が二人の周りを囲う様に覆う。
「……………」
沙花叉は何が起こったか分からずにいた。
「獣人種の恐るべき力は近接能力とそれを支える五感……だが俺の能力は領域内の者の五感全てを奪う。……最も、今のあんたには聞こえてないだろうがな」
沙花叉は腕を振ったり声を出したりして状況を把握する。
「あー……そう言う感じね」
「後はこのまま念の為近づかないで、半殺しにさせてもらおうか!」
男が再び『銃』によって攻撃する。
(……………………妙な手応えだ)
男が立った砂煙を腕で払い除ける。
「………っ!」
男は沙花叉の姿がないことに驚愕する。
(野郎……!どこに……)
男が動揺していると背後から強烈な一撃を喰らう。
沙花叉たちを覆った影が溶けるようになくなる。
(しまった能力が……!)
「どうやって……!」
「お、当たった?見える、聞こえる……能力も切れちゃった?攻撃されると解除されるのかぁ」
「………慢心!」
男が不意打ちをすると沙花叉が避け後ろに倒れ込む。
地面に衝突するとあるはずのない水飛沫が上がる。
「なっ……!能力型の………!」
沙花叉は再び男の背後に現れ頭を蹴りつける。
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「くーろたん」
気絶した男を引きずって運んでいた沙花叉の前に現れたのはholoX幹部の『博衣こより』だった。
「重いでしょ、こよが運ぶよ」
「こんこよ。……ドローンがでしょ」
こよりがドローンに運ばせると沙花叉と一緒に歩き出す。
「もう一人『お嬢』がいるって」
「居たね、捕まえといた!」
「そ、こんこよ忙しいのに何やってんの?」
「今はいいのー…………くろたんさ、この辺りは部隊の管轄だから放っといても怒られなかったよね。優しいんだからさぁ」
「なんのことですかー。ぽえぽえ〜」




