38話「獅子の狙撃」
「ラミィの能力が4分で切れない!?てかもう5分経ってるけど!」
銃声が鳴り響く中星街からの電話で告げられたことにポルカが驚いていた。
「そう!限界を伸ばしたのかそれとも別の何かがあるのかわかんないけど……」
ポルカはこの展開も予想の一つにあった。
(来た、そしてやられた!今回の作戦一番の不確定要素がラミィだった……『兎田ぺこら・宝鐘マリン』この二人はフレアとノエルが知ってる。『獅白ぼたん・雪花ラミィ』、この二人はポルカが知ってる……筈だった。けど直前まで完成してなかった筈の『第二層』、これが今不確定要素になった。何かしらのリスクで条件があるのは間違いないし、そこは推測するしかなかった訳だが。制限時間や身体許容量を増やしたっていうのは考えにくい、限界値を上げる行為は異能ではなく身体の問題……一朝一夕できることじゃない。とすれば、能力成立の条件を変更して先日あった制限をクリアした……?いや今先に考えるべきは………)
「今度は……」
「………!」
ねねちの姿で飛行していたポルカは狙撃されるも虫の甲羅でガードする。
「そっちが考えることたくさんで大変そうだね……おまるん」
ねねちの姿のポルカに向かってぼたんが名を呼ぶ。
「ともかく練り直すしかない!ラミィの能力が切れない以上長期戦になる」
「フレア達は2vs2でもなんとかなるって言ってたけど、ポルカ達の方は……」
みこちがポルカと星街の会話を聞いて少し考えると、決断する。
「すいちゃん、予定通り行って」
「みこち?」
みこちの提案にポルカが反応する。
「ぽぅぽぅ、予定より3分くらい遅れちゃうけど頑張って耐えてね!」
「何言って……」
「雪花ラミィちゃんは、みこが一人で戦る!」
「なっ……悪いけど無茶だ!すいちゃん、ちゃんと倒してからでいいからな。なんとかこっちは保たせて……」
みこちの宣言にポルカが焦り出す。
「ん、そっか。じゃあ任せたみこち」
すると星街はみこちにすんなり了承する。
「ちょ、すいちゃんまで何言って……」
「みこちが大丈夫って言ってるし、大丈夫だよ。ね、みこち」
「……うん!任せて。ぽぅぽぅ……ししろんに勝つんでしょ。この試合はそれが一番大事だと思う。大丈夫、がんばろ!」
「………………………………わかった……!」
ポルカは少し悩むも言葉を返す。
(すいちゃんもそういうなら信じるしかない。持久戦が通じないなら現状近接主体のすいちゃんはラミィに当てても持て余す……実際。それに、今気になることがもう一つ……フレア達に電波が届かないこと……)
『戦闘で出られない』じゃなく『端末に繋がらない』こと
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5分前
森林エリア
フレアサイド
フレア・ノエルとマリン・ぺこらは睨み合っていた。
「なーんか、懐かしいカンジじゃない?」
「結局こうなるぺこだな」
「高校時代を思い出す?」
「でも残念、前と同じじゃないよ。あたし達は大学でも異能やってんだからね」
フレアがそういうと身体中から燃え上がる。ノエルも瓦礫を操り腕などに装甲をつける。
「リベンジ同窓会と行こっかぁ!!!」
勢いよく燃える炎にマリンとぺこらが圧倒される。
「ホントだわ。前と違ったって報告してあげよっか」
するとマリンの周りに水滴が次々と現れる。
「『今回の試合ではマリン船長だけで圧勝でした』ってンねぇ!!!!」
フレアが何かを察し周りを見ると、さっきまで森は消え広大な海原があった。
――――『濩哭遊覧・第二層』――『水天一碧慟哭遊覧』―――
フレア達の目の前に巨大な海賊船が現れる。その場は見渡す限り海が続いていた。
「船長的には実はね、あの二人と分断されたのはむしろ良かったのよ。これ見せたくなかったもん。全部終わった後に、獅白ぼたんに勝つための技なんだから」
フレアとノエルはマリンの言葉を聞きながらなす術なく海に落ちていく。
――――――――――――――――
尾丸ポルカ・桃鈴ねね2名で獅白ぼたんを抑え、星街すいせいと合流後に数的有利をとった上で戦闘する。
この本来の作戦で要となるのはいかに獅白ぼたんを抑えるかであった。
大地の王、その弱点は『空』にあった。
当然だが獅白ぼたんは跳躍力こそあれど飛行能力を持たない。
そのため空からの攻撃で有利に戦闘を進める桃鈴ねね・桃鈴ねねに変身した尾丸ポルカの二人によるヒットアンドウェイとなる予定だった。
獅白ぼたんの対空戦術、『銃火器による射撃』。
異能使い同士の戦闘において銃弾は刀剣同様それだけでは有効打となりにくい。
魔力による強化は身体や直接接触している武器に付与することは容易だが、投擲物を強化するにはある程度の練度が必要で魔力操作に長けた者でないと難しい。
ましてや機械仕掛けで高速回転しながら射出される弾丸、強化は至難である。
だが
獅白ぼたん、能力開発には向かず凡庸な異能使い程度の能力しか会得することはできなかったが磨き上げた戦闘センス、感覚、そして魔力の基礎操作技術は類稀であり自身で全てを補完するという執念もあって弾丸を強化しての銃火器使用を可能にした。
「ねね、このまま頼む!」
「合点!」
都市エリアでぼたんの射撃から追われるねねちとポルカは飛行能力で避け続けていた。
ポルカは魔力温存のため変身を解きねねちの抱きかかえてもらっていた。
ビルによる死角を上手く使い二人はぼたんから距離を取ることに成功する。
「じゃあこっちだ」
ぼたんが他の武器を取り出し場所を変える。
飛行する二人に向けるのは全長1m程のスナイパーだった。
ぼたんが射撃するもねねちが直前でビルの屋上に移る。
(そうか、この場所を選んだ理由。あたし対策として空中戦だけに特化するなら高所の少ない荒野エリアの方が得策だった。それでも都市エリアを選ぶだけの理由、それは……)
ねねちが建ち並ぶビルの間を先ほどまでとは違う方法で飛び回る。
(蜘蛛の糸を使った遠心力による空中起動、飛行だけで動かれるよりよほど狙撃しにくい)
するとポルカがぼたんを見失う。
「獅白がいない!移ど……」
ポルカがそう言った瞬間ねねちが銃撃に遭い腕を負傷する。
「ねね!」
「大丈夫、掠っただけ!」
(流石……この不利状況でも行動を予測してきた!その上『牡丹獅児』の索敵モードによるスコープ!だけど!)
ぼたんの規格外の狙撃能力にポルカが冷や汗を流す。
(今ので斜角から居場所が破れたな。そもそもおまるんたちの狙いがあたしをここに留め置くことなら、あちらは逃げに徹することができない。つまり……来る)
ぼたんがスコープを覗いて集中する。
(慣性を殺さず遠心力によるスピードアップこれだけ乗らせると瞬間の速力は星街すいせいに匹敵するかな。けど、その分接近時は直線的で合わせやすい)
ぼたんが射った瞬間勢いよく飛んできたのはバリアを張った『さくらみこ』だった。




