36話「猫を噛む」
星街の蹴りを直前に防御したぼたんは思わずニヤつく。
ぼたんは攻撃を捌こうとするも星街の戦い方に違和感を覚える。
(なるほど……速力自体は前の方が速い。捌けない理由は、能力を索敵モードにしてるのもある。けど最大の理由は……『能力の支配』か。以前戦った時は速度こそあたしの能力を超えてたけど、動きが直線的でどこか自分の能力に使われている感じだった。それが今は、フェイント・緩急……とにかく簡単にタイミング合わせられなくなった)
「おまるん……何したぁ?」
(不意打ちでみこちさんの能力を使われるのを防ぐためには能力を索敵状態のままにしていきたいけど……この状態でこの人を抑えられるか……)
「………っ!」
するとぼたんが星街の攻撃の避け方に気づく。
(以前なら、速度に任せて大きく回って避けていたものを…………的確に返してくる!)
ぼたんが何度も反撃を許しと表情が険しくなる。
(これならやっぱり能力を戦闘モードに切り替えたい。けどそしたらラミちゃんのカバーができなくなるな。さー……どうしよ)
星街はぼたんの視界から一瞬で外れ、ぼたんを無視するようにある方向に向かい出す。
(逃げ……?……いや!)
星街が向かった先には先程までノエルと対峙していたマリンの姿があった。星街はマリンに向かって勢いよく飛びかかる。
「え………………どはぁぁぁぁ!!!???」
星街は戦いながら作戦を思い出す。
――――――――――――――――
「以上の作戦を成功させるためには、獅白に対して常に先手を取る必要がある」
「そりゃ……そうだろうけど………」
ポルカの言葉にノエルが何か言いたげに言葉を返す。
「能力の話を聞く限りねぇ……」
「あぁめちゃくちゃ難題だよ。本来ならね」
「本来なら?」
ノエルがフレアの言葉に引っかかる。
「獅白ぼたんの能力の索敵モードは、味方全員を独りで護れるポテンシャルがある」
「まぁつまり……独りでなんとかしようとする奴が、一人でなんとかできちゃうんだよな。そこが隙だ」
「ポルカの言ってた今のぼたんちゃんの性格ってやつ……」
「そう……今の獅白は自分にできる範囲のことなら仲間の分まで全部、自分で片付けようとする。そこを突く」
――――――――――――――――
ぼたんは別方向から炎の攻撃を受けるも身軽な動きで避ける。
避けた着地点にフレアが束縛技を仕掛けるも目にも止まらぬ速さの前では通じなかった。
「マジかっ」
ぼたんがフレアに攻撃を仕掛けるとすかさずノエルが防御に入る。
「サンキュ、ノエル!」
するとぼたんがぺこらが星街と戦っていることに気づくとあることに勘づく。
(これは……『S・MtM』!全員で一対一を展開しつつ速いスパンで対戦相手を入れ替えていく。相手に慣れさせないための作戦……適応力の高い厄介な相手がいる時にあたし達も使っていた戦法だ。こういう時の尾丸んの次の手は……)
――――――獅白にだって限界がある。とにかく畳み掛けつつ一人で処理しきらなきゃいけない情報を増やしてやろう
(星街すいせいはあたしじゃないと抑えられない……一時戦闘モードに切り替えて一掃するか?おまるんは何を狙って……いや)
ぼたんはフレア・ノエル・ねねちどんどん変わる相手に頭がパンクしそうになる。
(……そうか!あたしの処理が手一杯になった所に伏兵の投入!これだろ!……おまるんか……『みこち』か!)
「確保ぉぉぉ!!!!」
その時だった。ねねちがぼたんに飛びつく。
「ねっ……」
(ねねちゃん!?いやおまるんの変身か!いや、この感じ……本物!じゃあ最初から……)
「おッらぁ!!!!!!!」
それに続くようにどこからかポルカもぼたんに飛びつく。
「いくぞおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!」
ねねちとポルカがぼたんを挟むように抱きつく。その出来事にぼたんが動揺していた。
(やられた!『先手を取られた』『おまるんとみこちさん奥の手』、そう思った瞬間に意識から外れた!おまるんは最初からねねちに変身して戦闘に参加していた!至近距離まで近づけばわかったかもしれないけど……唯一接触しなかった相手、もっと警戒すべきだった……!)
「今だねね!!!!」
ポルカが合図を出すとねねちがアイテムを使用する。
すると光の柱がポルカ達を飲み込む。
(これは……あたしたちが使おうとしてた……!?)
――――強制転送トラップ:起動――――
「行こうぜししろん!!!!!!」
――――――――――――――――
「改めてまず解決すべき問題は2つ。
①獅白の索敵をどう掻い潜るか。
②向こうの分断をどう対処するか。
まず①、これは大会始まってから使ってみて初めてわかった癖なんだが。獅白の索敵モードは全方位に範囲が広いと言っても、Z軸……上空へは範囲を伸ばせない」
ポルカがホワイトボードに書きながら説明する。
「ほう!その弱点を本人は……?」
「知らない……というか意識したことないと思う。競技異能は基本的に決まった場の中で試合が行われる。今大会ほど広い会場なんてなかったから、空からの奇襲は経験したことがないね。つまり……森への侵入を警戒しているだろうところへ超上空から奇襲する。ねねとねねに変身したポルカ……だけじゃ運べるのはあと2人だけだったけど……今はすいちゃんも居る。これで飛行可能なのは3人、それぞれ一人ずつ運搬して6人全員が空からエントリーできる」
ポルカ達の話に星街の名が挙がる。
「おめー飛べるようになったの!?」
「うん。スイチャン、トベル」
「いいなぁー!」
そんな星街にみこちが羨ましそうにする。
「②の方だけど……これは逆にこっちから分断させてやろう!」
「……?分断されないためにどうしようってことじゃないの?」
フレアの提案にねねちが困惑する。
「そうなんだけどね……でもそもそもなんで相手はこっちを分断してくると思う?」
「おまるんが居ると誰かわからなくて混乱するから!」
「チームプレイに自信がないから?」
ねねちとみこちは生徒のようにフレアの問いに答える。
「それもあると思うけどね。……多分一番はみこちとすいちゃんを隔離するためだ。ラミィちゃんも一撃で倒せるみこちと、速度的に自然種だと防戦一方になるすいちゃん。ここに好き勝手させたくないんだよ。その対策として……」
「分断した私たちにぼたんちゃんを当てる」
フレアが話す作戦に星街がそう話す。
「……ふーたんもぽぅぽぅもなんでそんなのわかんの?」
みこちが考え込んでそう呟く。
「そうだなぁ……漠然とビビらないこと、何が怖いのか具体的にして一つ一つ潰していくんだよ。相手のことも同じ。対戦相手だって人間なら同じように何が怖くてどうしてくのか、相手にどう見られてるのかそういうのを考えたらわかってくるもんだよ」
みこちはフリーズしたかのように黙り込んでしまう。
「………話戻すぞ。だから分断に対しては先手を取って潰した上であっちが嫌な対面に分断してやろう。そのためにはうちらもこれを使う」
ポルカが自信ありげにアイテム機を見せる。
――――――――――――――――
10月17日 14:05
都市エリア 戦闘区域
「いつ……」
獅白ぼたん・尾丸ポルカ・桃鈴ねね
強制トラップにより移動
「いつ仕掛けたの、おまるん。強制転送のトラップは戦闘中にも使えて発動すれば強制力がある。その分設置に時間がかかって戦闘中にはまず使えない……」
「おいおいこっちにはねねが居るんだぞ。ステルスはお手のものだろ」
ポルカが得意げにそう返す。
「虫の擬態かぁ」
「4vs4で派手にやってる間にね、ねねにこっそり仕掛けてもらった。お前の探知は炎と煙で大きく鈍る。不意打ちさせまいとラミィの方ばっか見てねねの擬態まで気が回らなかったろ。本当は獅白を捕まえてそれに気を取られたラミィを倒すまでやりたかったけど……そこまでうまくはいかなかったみたいだな」
「……予め、最初に狙われるのはラミちゃんだから。あたしに何かあったら真っ先に自分の周りを警戒するように言っておいたよ」
するとぼたんが武器を顕現させ手にとる。
「流石に一筋縄じゃ行かないね。でもこれで――――――
――――――やばい!やられた!」
「エチョット!?」
ラミィ達はぼたんが連れていかれ混乱していた。
「ししろんが……!!!」
戸惑っているラミィの背後からみこちが姿を現す。
――――『花月ノ夢・神槍』――――
みこちが放つと強い衝撃波が起こる。
(ししろんの安否は?こっちの分断は潰された……どうやってトラップを仕掛けたの?…………いや、いい)
「『第二層』―『天花露点:黄泉墜詞経』」
ラミィは第二層を展開する。
「チョット、ラミィまで!!!大丈夫!?」
ぺこらは焦りラミィの方を見る。
「気ぃそれてんよペこらっちょ!!!」
ノエルが隙を逃さず思いっきり投げ飛ばす。
「ぺこらぁ!!!!」
(ノエフレと2vs1にはできない……!)
これにより分断が完了される。
みこち&星街vsラミィ
フレア&ノエルvsぺこら&マリン
ポルカ&ねねちvsぼたん
――――――でもこれで……分断完了。
作戦成功だ。




