エピソード:γ「お別れ」
「そんじゃ……まとめてかかってこい!」
2022年3月
県立北四高校
校門には『卒業式』と書かれた看板が置いてあった。
「桐生先輩海外だってよ。ほら、女子異能部の」
「あー!うち女子強かったもんなぁ……海外じゃプロ選手か」
「次の顧問は?幻想種のどっちか?女子って2年に幻想種2人いんじゃん」
「いや他らしい。ほら部長に求められるものって強さだけじゃないっしょ」
「ほーん」
卒業式放課後、教室では『桐生ココ』の話が挙がっていた。
ココはある施設の前に1人立っていた。
その施設の看板には『異能修練場A』と書かれていた。
「あ!ココ!」
「やば、もう来てんじゃん」
「おー……かなた、トワ」
その場に来たのは『天音かなた』と『常闇トワ』だった。
「悪いね、最後まで呼び出しちゃって!」
「……コスチュームで来たの?寒くね?」
「超寒い。早く入ろ」
かなたが震えて体を摩りながら修練場の扉を開ける。
「よく地下場借りられたな」
「トワたちが全国レベルになったおかげだよ。強豪のアレ」
「おうおうちゃんと許可取ったんだろうな」
「とったわ舐めんな!」
3人はいつもと変わらぬ会話をしながら階段を降りていく。
「あっはっは、入部初日から通報されたやつらが成長したな」
「ココには最初から最後まで世話かけっぱなしだ」
「トワを一緒にすんなよ」
「トワも同罪だろ初日のはぁ!」
「はあーーー!?」
ココは言い合うトワとかなたを見て昔の2人と重ね微笑む。
「ほら、さっさと始めるぞ。元部長の最後の指導だ!」
――――――――――――――――
ココは幻想種2人を相手に互角以上に渡り合っていた。
戦いそのものはとても激しく拮抗していたが3人は皆楽しそうに笑顔だった。
かなたが自前の力で押し出しココを柱に衝突させる。
そこにトワが魔弾を放つ。強い衝撃波が起き砂煙がまう。
「トワぁ!今僕ごとやったろ!」
「えー、避けれるでしょ。夏の大会でもやったじゃん」
「あの時もさぁ!」
2人が言い合っていると砂煙からココが勢いよく飛び出し、2人を投げ飛ばす。
「だあー!やっぱまだ基礎じゃあ2人でもココには勝てないか!」
「んぁあ……いってええ〜……!」
2人はココ1人を相手に嘆く。
「二人ともなかなかいいな。幻想種の権能にばっかり頼らずちゃんと鍛えてるな!……けど………」
ココの背中から全身を隠すほどの大きな翼が生えてくる。
「なんだぁ……能力ありなら勝てるみたいな言い方だなぁ!!!!!」
二人お相手するのは『古獣人種(竜)』の桐生ココだった。
それに準ずるようにかなたとトワはそれぞれ『天使』、『悪魔』の翼を背中に生やす。
「そりゃお前……僕たちも全国だよ?流石にそろそろ勝っちゃうぜ!」
「こいつら強くなったなって、安心して卒業させてあげるよ……!」
その姿を見たココは本気の眼になる。
トワとかなたの魔力が飛び散り、光と闇が交差する。
――――『悪魔の讃美歌』――――
トワが魔弾による飽和攻撃を放つ。ココは素早く飛行し次々と避けるも魔弾は障害物を破壊し追尾する。
「貫通追尾か!いい感じだけど……」
――――『竜煌墜』――――
ココが高火力の砲撃でトワの魔弾を消しとばす。
「弾幕薄いし軽いぞ」
ココの砲撃は勢いそのままトワに向かって突き進む。
「トワ!」
かなたがトワの前に出るとココの砲撃を手で掴む。
「ふんっ!!!」
かなたは力のままに握り粉砕する。
「貸しイチ!」
そう言うかなたの背後に襲いかかるココの姿にトワが気づくと咄嗟に式神を使い避けさせる。
「借りゼロ〜」
ココは二人の連携を見ると微笑みながら昔を思い出す。
――――――――さっき訓練場ぶっ壊れて部長呼び出されてたけどお前たち?
…………………はい……僕たちです…………
あっひゃっはっはっはっは!――――――――
ココは一年生の頃の二人、大会での悔し涙を流す二人、喧嘩しても尚仲直りする二人、大会での嬉し涙を流す二人、これまでの二人を思い返す。ココは瞼に溜まった雫を拭く。
「ほんと……変わったな」
――――『竜禍噴墜』――――
ココは全力で二人を相手する。
――――――任せて往ける!!!――――――
――――――――――――――――
「次はさ、一人でココに勝つよ」
「当然」
夕焼けが照らす帰る道でトワとかなたが決心する。
「ははは、次って……お前らもこっち来んの?」
ココはどこか寂しげにそう言う。
するとかなたとトワが自信ありげに振り返る。
「ココはさ、あっちで競技頑張って代表になるんでしょ。じゃあさ」
「トワたちも代表になって世界に行けばそこで会える。って話」
それを聞いたトワは目が点になる。
「うはははははっ!そっかそっか!そーだな!期待してるぞ、おまえら!」
「もちろん!!」
夕焼けに照らされた涙が優しく輝く。
その日の空は少し滲んでいた。
「ちょ、おい泣いてんのか!」
「ちがっ、うざい泣いてない!」
「泣いてねーし!」
「またまたぁ」
「てか、この後送別会だから!来い!」
「ルーナとわためも呼んだから!」
「拒否権なくね?」
卒業式の帰り道はいつもと変わらぬ日常が観えていた。




