29話「異能の道」
「すみません、お時間よろしいですか?」
holoRoyalの会場内で怪しい男の影があった。
その男に話しかけるのは白上フブキだった。その横には夏色まつりもいた。その2人は黒いマントのようなものを羽織っていた。
「この大会参加は、女性限定ですよ」
「……これは失礼しました、私は大会運営スタッフです。設備の点検に回っていたのですが……参加者様と遭遇してしまうとはうっかり……」
フブキの声かけに男は冷静に答える。
「運営スタッフか……会場に入っていいのは午前3時から4時の間でしょ?」
まつりがそう言いながらマントにある『holoX』のマークを見せる。
「…………!?holoXスタッフ……!?クソッ!!今会場内に入れるholoXスタッフは居ないんじゃなかったのかよ!!!」
その場から逃亡しようとする男の首元にフブキが刀を突き付ける。
「逃げても無駄ですよ。大人しく……」
すると男がポケットから鉄球のようなものを取り出す。
「クソッ……頼みますよ!?」
男がそういうと鉄球のようなものが広範囲に鉄の棘となって拡散する。
「何してっ!」
「やっぱり『危険はある』って言ってた通り……」
その鉄の棘が一つと集まり人型の何かになる。
「式神系の能力……?」
「人間って感じはしない……ね?人型だけど」
その式神は人の姿をしているも頭にはペストマスクのようなものをつけ指先が鋭く尖っていた。2人が警戒していると式神が声を発する。
「獣人が1人に亜人が1人か……」
式神の口にした事に2人が驚愕する。
「自我がある式神……!?」
「何者……?」
「何者…………『ギィ』とでも名乗っておこうか」
まつりの問いにギィと名乗る式神が答える。
「対話できるという事ですが……退いてくれたりしません?」
「できねぇ相談だな」
「そうですか……残念です」
フブキがそう言うと刀を手に取り戦闘態勢に入る。
するとギィが手を伸ばし足元の石ころを白上に投げる。白上が刀で防ぐとそのまま勢いよく壁に追突する。
「フブキ!!!」
「まずは1匹……」
フブキを目で追っていたまつりを横目にギィが背後に回り攻撃する。
(しまっ…………!)
まつりが咄嗟にガードするも衝撃で後ろに下がる。
反撃に飴の攻撃で足止めに成功する。
(どんな能力だ……?石を投げただけであの威力……!)
「多分……『加速』だよ」
「フブキ!……大丈夫?」
「うん……仮にも獣人種ですから」
焦るまつりの元にフブキが合流する。
「よかった…………それで、『加速』って……?」
「受け止めた時にわかったんだけど、勢いがどんどん速くなってた。あの威力も加速して生まれた物だと思う」
2人が話しているとギィが拘束を解く。
「まつりちゃんは本体を!能力が分かった以上戦い方はわかる。あれは白上が相手する!」
「分かった!」
まつりが男の元に走るとギィとフブキが対峙する。
「随分すんなりと行かせてくれましたね」
「前年優勝者の『白上フブキ』……じっくり味わいたいからな」
先に攻撃に仕掛けたのはギィだった。
ギィは目にも止まらぬ速さで攻撃するもフブキは反射神経と持ち前の身体能力で防ぐ。
(加速してるからか攻撃は単調……!それなら崩す!)
――――『白上流剣術・水弧』――――
フブキの攻撃にギィがガードするも流れるような斬撃でガードを崩す。
(この技は、すいちゃん相手でもガードの上から押し切った!)
――――『弧金』――――
ガードを崩したギィにフブキの一撃が決まる。
「はいおしまい、全身地面に固定した。一般人の力じゃ抜けないでしょ」
「ぐっ……」
一方まつりは本体と思われる男を拘束していた。
「……これで逃げられなくなるなんて……お兄さんほんとに異能使いじゃなくてスタッフなんだね。異能使いじゃないないなら、あの式神はなんなの?」
「『式神』……?違うね。そんなものと、お前らのようなものと一緒にしないで欲しいな。お前は、才能の差というものに打ちひしがれた事は……ないか。あれこそが……正しい異能の姿だ」
「………………なんで……!?」
フブキの攻撃はバリアによって防がれた。
(防がれた……!能力は加速じゃない……?)
――――『白上流剣術・孤土』――――
ギィは再度バリアを展開し防ぐもフブキの突く技により押し飛ばされる。
(ヒビ……?いや、今は時間を稼ぐ……!能力を探らなきゃ!)
ギィが瓦礫を蹴り飛ばすと拳銃のような速さでフブキに襲いかかる。
フブキが避けながらあることに気づく。
(みこさんの『神槍』のような攻撃はしてこない……つまりバリアを展開するだけの言わば劣化版!それに加えて『加速』……!今の攻撃で確証がついた、複数の能力!けど一つ引っかかる、二つの能力に……まるで共通点がない……!)
「爪豹……」
ギィが斬撃を飛ばすとフブキはその技に驚く。
(獣人種の技……!もしや……『野生』も……!)
斬撃の対処をしているフブキにギィが死角から攻める。
するとまつりがギィを下から蹴り飛ばす。
「ぐっ……!」
「まつりちゃん!」
「ルイさんに連絡した!本体は拘束してある!幹部は動けないからスタッフが回収に来るって!」
「……『衝撃』!!!」
ギィの攻撃に2人が押し飛ばされる。反撃にフブキが斬撃を仕掛け防御を崩す。
(このままだとさっきみたいにバリアを貼られる……!なら……!)
――――『白上流剣術・連綿水弧』――――
フブキが斬撃を飛ばすとギィは先ほど同様バリアを展開する。
するとその斬撃は一度ではなく何度も続きバリアを破壊する。
(やっぱり……!さっきの『孤土』でのヒビ……!みこさんのような概念防御じゃない!あくまで超硬い魔力障壁!)
「まつりちゃん!」
――――『祭礼召法・屋台囃子』――――
まつりがギィに追撃の炎の攻撃を仕掛ける。
迫ってくる炎を前にギィが手をかざす。
「…………まじか……っ!」
まつりは自身が目の当たりにした光景に驚く。
炎は一つの火の玉に変わりギィはそれを素手で掴む。
ギィはその火の玉をフブキに向けて勢いよく投げる。
「嘘…………っ!」
その火の玉は再び爆発的な炎に変わる。
「フブキ!!!」
まつりは咄嗟に水を顕現させ炎を消火する。
「まつりちゃん、これは……信じ難いことだけど……。あの式神、『複数の固有スキル』を持ってる……!」
「それって……どういう……」
「今の攻撃は多分『圧縮・拡散』の能力だと思う。そして『バリア』と『加速』……ほとんど共通点のない能力、確証はないけど……そう考えた方が合点がつく」
まつりがそれを聞いた後に見たギィの姿は底知れぬ不気味さがあった。
(あの能力……多分魔力を利用した圧縮、魔力に包まれてるから火傷も何もしないんだ!)
フブキとまつりが同時に走り挟み込もうとするもギィを地面を殴り砕くと、飛んだ瓦礫を圧縮し一つに纏める。
するとギィは再び拡散すると瓦礫が飛び散り散弾銃のようになる。
(『拡散』と『加速』の併用……!)
2人は避けつつ段々と近づく。フブキが斬りかかるとギィはガードし防ぐ。
その背後をまつりが取り餅つきのようなものを顕現させ攻撃を仕掛ける。
しかしギィの背中の表面が鉄のようになるとそこから別の体が生えてくる。
その素顔はなくマネキンのような姿だった。
その姿はまさに『異形』
(あ、そっか。式神か)
「オワリダナ」
背中から生えたナニカは目の部分から口が生えそう呟く。
「まつりちゃああぁぁん!!!!!!」
――――爪豹――――
その攻撃はギィのものではない第三者の物だった。
「はぁ………………!?」
攻撃を受けたギィはそのまま壁に吹き飛ばされる。
「なっ……なんで……」
「ちょっと、良くない未来が視えたよ」
「ミオぉ!?」