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28話「暮夜のカルテット」


 ぼたんとポルカは2人でランニングをしていた。

 するとポルカが息を荒くして足を止める。

「ん、おまるん?」

「悪りぃ……獅し……」

「んはは、ついつい飛ばしちゃったなぁ。無理しないで、ちょっと休んでなって」

 ぼたんはそういい1人で走り始める。



 拒絶はなかった


 ただ単に

 あの日寄り添えなかった自分たちは

 ずっと背負わせていた自分たちは

 いつの間にはついていけなくなっていた



 お前を独りにしていた



「そこまで!」

 ホイッスルの音と共にラミィの声が響く。

「いくらなんでも……嘘でしょ……2年全員がかりでも余裕かよ……」

「いい動きだったぞー」

 倒れこむ2年生達に立ちはだかっていたのは3年生の獅白ぼたんだった。

「うひゃあ〜……すご……獅白先輩はそりゃあ強かったですけど……夏の大会終わってからえぐい伸びてないっすか?」

「……うん」

 後輩に言われて返答するポルカの声はどこか寂しそうだった。


 実際あれから獅白の成長はすごい

 しっかり成果が出ているのは追い詰められて自暴自棄気味にトレーニングしたりはしていない証拠だ。

 獅白の生活は一見オーバーワークに見えたけど、それは他人から見たらの話。

 睡眠・食事・健康管理、獅白のその全てで完全に手を抜かず人一倍過酷なトレーニングをしっかり物にした。


「野生の強化?」

「うん、いつまでも能力『ただの野生』はまずいっしょ。ラミちゃんがU17で聞いた話らしいんだけど、一個下かな?……に野生に第六巻を織り交ぜて未来予知とかやった子がいるんだって。あたしこういうの苦手だからさ、アドバイスをもらえないかなと」

「もっ……もちろんじゃん!アイデア出しだな!」

 そう答えるポルカはどこか嬉しそうだった。



 拒絶はなかった


 だからきっと大丈夫だろうと



 迎えた冬の大会

 高校最後の大規模予選


 3年を主力にしつつ、適宜2年生を投入し適度に温存。

 獅白を抜きにしても十分に機能するチームで、夏と変わらず順調に進む。


 違うのは


「うおおお!?3年エース獅白!前回と同じ対策をものともしない!圧倒的!!!夏もすごかったけど今回はその比じゃない!!!」


 獅白の調子が良すぎること

 夏の時のような緊張は見られず

 練習の成果を120%発揮しているようにすら見えた。


「決勝の相手は豪西高校だ、去年の巖秀みたくこっちのメンバーへの対策もあるだろう。主力は獣人種の双子、ここを乗らせたくない。ラミィの範囲攻撃を差し込んでいくんしか……」

「……ねぇおまるん」

「ん?」

「今日さ……すごい調子いいんだけど……もしもあたし一人で……双子を倒せたら……」

「……………………え?」


 異変が顕れたのは県大会決勝、双子の抜群の連携を前に攻めあぐれていた前だった。


 ラミィがなす術もなく攻撃を受けそうになっていた時、ぼたんが目にも止まらぬ速さでカバーに入り勢いのまま双子を倒す。

「な、なんだ今の!!」「豪西の浅野姉妹が……あっという間に!」

「瞬殺だ!!!」

 衝撃の光景に観客は盛り上がっていた。

「………………獅白……?」

「ん?あと二人!気抜くなよー」


 突然眠っていた能力が目覚めたとか

 人格が変わったように豹変したとか

 そんなコミックはなかったけれど

 ただ単純に

 磨いてきたセンスと重ねてきた努力が

 決勝の大舞台、強敵を前に実を結んだ。

 そしてその力は

 仲間を守るためにできていて

 仲間に頼るようにはできていなかった。


 当然その試合は勝利

 一ヶ月後の全国大会でも

 獅白は全国級のエースたちを独りで圧倒していった。

 全国の舞台で仲間を守って完全勝利を続ける度に

 獅白の獣人種であることを重ねて

 その世代にこう呼ばれるようになった


 五輪高校の『王様』


「――――………それ以来、獅白は仲間に背を預けることは無くなった。……これも一つの戦い方だと言われればそうなのかもしれないけど、ポルカは四人で戦ってた頃の方が好き。何より、あれから獅白の笑顔はずっとどこか寂しそうだ。対等に笑って欲しい、また背を預けて欲しい。そのためには、あの日独りにしたポルカたちが獅白に勝つしかない。タイマンじゃ獅白には敵わないけど、異能使いの戦いは常に多対多だ。から……みんなの力を貸して欲しい!!!」

 ポルカはフレアたちに自分の想いを強く伝える。

「ポルカってさ……能力とか器用に見えて、色々不器用だね」

 そんなポルカに星街がそう言い放つ。

「なぁっ……に、おめぇ!真面目な話だったろうがよ〜!」

 みこちが慌てて星街に怒る。

「いやだから、事情は分かった。けどポルカが『ししろ』と戦う理由は勝ちたいからって十分じゃない?それで仲直りなんて考えない方がいいて、拳で語る武人じゃあるまいし。そういう事はちゃんと口に出して伝えた方がいいんだよ。口にして傷つけたらとか色々考えてたけど、いいじゃん。傷つけたり喧嘩になったり怖いかもしんないけどさ。頑張ってるんだから、意見違くて喧嘩するのは普通だよ。ちゃんと伝えてダメな時にごめんなさいでいいと思う」

 星街の言葉にポルカはハッとしていた。

「こいつなんか異能始めて数週間ぼっちで私のこと引っ叩いてきたからね」

「あれは……っ!すいちゃんがばかだったからじゃん!」

「だまれ」

 星街とみこちの痴話喧嘩が始まるとポルカにフレアが寄り添う。

「すいちゃんの言うこともポルカの言うこともわかるよ。だから、この大会が終わったらたっぷりお話ししてきなよ。んでまずは、勝とう」

「…………うん……!」

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