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26話「お昼のカルテット」


「じゃあ改めて、よろしくお願いします!!!」


 2017年

 五輪高校異能部に新入部員4名が入る。

 

「うわ!すっげぇえ!!!」「え、うわ寒っ!何?」

「いや女子異能部!」「新入部員がいきなり2年生に勝ったって!」

 

 巨大な氷の結晶を出し注目されていたのは雪花ラミィ(当時15歳)だった。

「おいこっちも!」

 五輪高校の学生は異能部のことで大騒ぎだった。

「いでっ!……参ったぁ、やるねぇ獅白ちゃん」

「っは!あざっす!」

 2年生を軽く投げ飛ばしていたのは獅白ぼたん(当時15歳)だった。

 目を輝かしてそれを見ていた桃鈴ねね(当時15歳)はじっとしてはいられなかった。

「すげーっ!!2人ともすごい!いいなー!かっこいいなぁ!先輩!ねねも!ねねももう一回お願いします!」

「おー!ねねちゃんは元気がいいなぁ、よし来い!」

 ねねちの元気っぷりに他の先輩は圧倒されていた。

「すごいなねねちゃん……尾丸はいいの?」

「ハハ……天才2人や元気娘と一緒にしないでくださいよ。がむしゃらにやってもポルカが先輩に勝てるわけないでしょ…」

 自信なさげに話すのは尾丸ポルカ(当時15歳)だった。

「そんなことより、普段の練習メニューとかいいんですか。怒られますよ」

「うわっ確かに!集合!」


 その年は農作なんて言われて、夏の大会での先輩たちの活躍を見たのもあってか新入部員4人はみるみる実力を伸ばしていった。

 特に入部時から頭角を表していた獅白とラミィは凄くて、冬の大会が終わる頃には次回のレギュラーに入れると決まったって言われるくらいだった。


『あざっしたー!』


「お疲れー!よーしっ、居残りやるかぁ」

「待ってラミィも!」

「おぉ!じゃあねねも!おまるんは?」

「あー……ポルカは…いいや、また明日」


 一年の三学期の頃の話

 10代後半に差し掛かったあたりで大抵の異能使いは開花し始めていく。

 天才とか神童とかそういう話が出てくるこの時期に才能溢れる強烈な同年代をたくさん見る。

 その上で自分もなんてプラスの方向に向くねねみたいなやつは少ない。

 『天才とは違うんだ』って割り切って続けるか、才能の差ってやつに打ちひしがれて挫折するか。そういうのが大半だ。

 ポルカは、自分に才能が無いなんて思ってなかった。

 自分の能力(スキル)は唯一無二のものだったし、その汎用性や成長性も理解したつもりだった。

 異能も嫌いじゃ無いから部活に入ったし練習も普通に頑張った。

 だからこそ才能に愕然として逃げた人よりわかってしまう。

 天才と呼ばれる奴らが『ただ恵まれただけのやつ』なんかじゃないって事。

 素質が最初から備わっていたとしても、それがどんなに特別でも、それを開花させ自分のものにしたのは本人の『積み重ね』で、今まで人一倍頑張ったあいつらだと、素質があるからこそ別の心の差に愕然とする。

 自分の力で何かの本物になっていく、そんな人たちに追いつけるわけがない。

 1人では何にもできない。本物には勝てない、皆みたいにはなれない。そんな……


 ポルカが1人帰り道を歩いていると遠くから勢いよく走ってくる人影が見えた。

「ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおまるん!!!!」

「ぐうっ!?」

 勢いよくポルカに突っ込むのは桃鈴ねねだった。

「いって……ねね……?練習は……」

「ほらねねちゃんご近所迷惑だからやめなー」

 するとラミィがねねちに軽くゲンコツをする。

「ラミィ……獅白も……?」

 後ろにはぼたんもいた。

「なんで……」

「なんでって、おまるん何か悩んでる感じなんだもん」

 ぼたんの言葉にポルカは図星を突かれる。

「そんな事……」

「……流石に毎日顔合わせる友達のことならわかっちゃうよ」

 ラミィの言葉にポルカは言葉が詰まる。

「まぁー無理に話せとは言わないけどさ。でもせっかく同じことをして友達になったんだし、何にも話さないままで終わっちゃったら勿体無いかなって」

 それでもポルカは話すのを渋る。

「ねねは話してほしいよ!悩んだまま距離できたら悲しいし、この4人から誰もかけて欲しくないもん!」


……そんなことを考えてポルカを

 こいつらは

 こんなにすごいこいつらは

 真正面から真剣に相手してくれた


 誰も置いていこうとしなかった


――――――――――――――


「なるほどね、それで悩んでてたんだ……」

「……まぁ今までこうやって生きてきちゃったし、話しても結局ポルカが変わるしか無いんだけど……」

 翌日の放課後、教室でラミィたちはポルカの悩みを聞いていた。

「いやいや……手札がめっちゃあるのって、超強くない?」

 ポルカは()()()の一言に少し驚く。

「いやー……お悩み解決になってないかもだけどさ。なんつーかさ……おまるんが思ってる以上にあたし達は、おまるんのことすごいやつだと思ってるんだよ」

 ぼたんがそういうとねねちとラミィも頷く。

「1人じゃ何もできないって言うけど、あたしはおまるんみたいに能力扱えないし。ていうかそれの話するならおまるんはコピーした能力すぐに使えるのすごいよね」

「……本人の劣化程度にしか……」

「あたしはそもそもまだ不完全な野生くらいしかできないよ」

「ししろんはもうちょっと能力開発も頑張ってくださーい」

 ドヤ顔で言うぼたんにラミィが突っ込む。

「まぁつまり!」


 1人じゃ勝てないのは自分たちも一緒

 そう言って

 こいつらは誰も独りにしなかった。


――――――――――――――


 ぼたんとポルカは2人でランニングしていた。

 ポルカは息を荒げて立ち止まる。

「おあ?おまるん?」

「悪りぃ……先行っ……」

「んはは、ちょっと休むか!ラミィちゃん達来るまで」

「……うん」

 ぼたんとポルカはその場で座り休憩することにした。

「すげーよ、獅白は」

「そう?えへへ、小さい頃から体力だけはあるんだ。なんか生まれからしてそうらしい、王様が皆んなを守るためには体力がいるんだって」

「なんだそりゃ、王様なの?」

「ライオンだからじゃない?」

「あー」

「その分能力苦手だし……おまるん能力すげーんだから、無理して同じペースしなくても……」

「……まさか、同じペースでいけるとは思ってないよ。けど、いけるとこまで頑張りたいだけ。獅白もラミィもねねもあたしにとってすごいやつなのは変わってない。でもせめて、お前らにできないことはポルカができるようになりたい。そのためにめちゃくちゃ頑張りたいんだ。……独りじゃ勝てないのはみんな一緒って教えてくたから」


 誰も独りにしなかった

 

 この時は

 

 ただ知らなかった

 

 独りにしないということは


 どんなに難しい事かと

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