24話「不器用なあなたへ」
ノエルの渾身の一撃はぼたんを遠くの岩まで叩きつける。
「すっ……ご」
星街が圧巻しているとノエルが膝をつく。
「ノエル!?ちょ、大丈夫……!?」
「げほっ……大丈夫大丈夫、でも……流石に効くなぁ……」
ノエルはそう言いながらも吐血する。
「今の……わざと喰らったの?」
「そそ、どうせ捕まんないならね。だんちょの得意技よ。能力で防御しないで耐えるから大体みんな当たったと思って油断するの。実際当たってるしね。一回きりの初見殺しだけど。だから、これで倒れても倒れなくてもかなり効いてて欲しいんだけど……」
「…………ばっきゃろぉ……」
砂埃が晴れると岩陰からぼたんが現れる。
「効いてないかぁ〜!」
「いやめちゃめちゃ効いてますケド」
「だんちょ、簡単に立てるくらいのダメージは効いてる判定せんから」
「脳筋理論厳しいな」
姿を見せたぼたんは上着を脱いでいた。
「うーん……どうしょっかなぁ」
(今咄嗟に上着脱いで抜けられたんだよなぁ〜!しかもギリギリ腕で受けられたし。てゆーか硬、いい鍛え方してますな)
落ちている上着を拾い着ると何かを察知する。
「………………ラミちゃん?お〜……なるほどマジか」
その様子に星街とノエルは首を傾げていた。
「ごめん騎士さん、勝負お預けで!」
ぼたんはそう言うと目で追えぬ速さでその場から退く。
「退いた……!?なんで急に……」
「……だんちょさ、フレアに連絡もらって助けに来たんよね。ポルカの友達と戦闘になってもう1人仲間がすいちゃんの方に行ってるかもって……」
「仲間……?……じゃあ!その仲間を助けに……つまりみこち達の方に!」
「ちょストップストップ!すいちゃんは休んでて!ダメージと能力でバテバテでしょ」
ぼたん後を追おうとする星街をノエルが止める。
「でも!だからってノエルの速度じゃ追いつけないでしょ!?ここで私が動かないと!私なら追いつけんの!」
星街は荒げた言い方ノエルに言うとその勢いにノエルの言葉が詰まる。
「昨日は守られて……今日は負けて……でもっ!追いつくことならできる!!!」
「でも体の限界は……」
「大丈夫……!限界なんていくらでも超えてきた!!!!!!」
星街が再び魔力で自身の体を強化する。
(いける!追いついて止めるだけならブレイクチェーンはいらない。100いや、90で)
その時、星街の中でプツンと何かが切れる。星街に流れていた魔力が途切れその場で倒れる。
「すっすいちゃん!?ちょっと!?」
10月14日 17:06
星街すいせい
ボーナスアイテムにより
脱落保留状態に移行
――――――――――――その140秒後
フレア達の前には謎の3人が立ちはだかっていた。
「あれは…………って、マリンじゃねぇか!!!」
フレアは海賊姿の参加者に思わず指を刺して言う。
「え、いやフレアじゃねぇか!!!久しぶりぃ!!!!」
「相変わらずうるせぇぺこだなおめーらは」
後ろから兎の耳を生やした参加者が呆れたようにぼやく。
「ぺこらまで……なんで……競技異能やめたんじゃ……」
フレアが見知った顔の2人は『兎田ぺこら』と『宝鐘マリン』、ノエルとフレアの元同級生である。
「2人が推薦受けてぼっちが寂しい〜って駄々こねるから、ぺこーらは付き添いで来てやったぺこ」
「ちょっと!船長が面倒みたいに言わないでくれますぅ!?」
ぺこらの言い分にマリンがすかさず指摘する。
「それで、あっちにいるのが……」
ねねちが冷や汗を垂らしながら見ていたものは
「獅白…………ぼたん……!」
獅白ぼたんの姿にみこちとフレアが戦慄する。
「……じゃあ……すいちゃんは……」
「いや、ノエルから連絡があった。大丈夫だ」
みこちの不安が高まると即座にポルカが取り除く。
「無事……ではないけど、とりあえず大丈夫らしい。ただ増援は期待できない」
「つまり、どっちっかというと自分たちの心配をした方がいいって事ね」
ポルカ達が話しているうちにぼたんはラミィの元に駆けつけていた。
「ラミィちゃん大丈夫?」
「うん……ありがと」
ラミィが手を取るとぼたんは前に出てポルカ達の方に体を向ける。
「ちょっとアンタたち、勝手に派手な戦闘はじめて今欠けられたら困るんですけども」
ぼたん達をぺこらが止めに入る。
「まぁまぁ、協力関係じゃなくて幻想種倒すまでの不可侵でしょ?」
「欠けたらその幻想種が倒せなくなるっての!」
怒るぺこらに対し、ぼたんは悠然とした態度だった。
「……大丈夫ですよ、あたしが護るから」
ぼたんの言葉にラミィは複雑な表情だった。
「ふーん……」
「安心して見ててくださいよ。仲間を護って勝つのが王様の勝ち方なんで」
一方ポルカ達は作戦を考えていた。
「フレア!ポルカの転送アイテムは昨日の離脱で使っちゃったから……フレアのまだあるよな?」
「うん、でも…………あ、そゆことか」
「転送ってボーナスアイテムのこと?戦ってる時は使えないんじゃないの?」
ねねちの言う通り、転送アイテムは非交戦状態のみ使用可能なもの。しかし現在は膠着状態だった。
「まぁ普通に使おうとしたらね。……ここは大神ミオに感謝ってとこかな」
ポルカが携帯機を片手に何かを企む。それと同時にぼたんたちも動き出す。
「じゃ、やりますか。マリン船長とぺこらさんはそれぞれ、エルフとピンク髪をお願いします。ねねちゃんとおまるんはあたしが、ラミィちゃんは休んでて」
「ま、待ってししろん!もう大丈夫!普通の能力ならもう使えるから一緒に……」
「ラミィちゃん」
焦るラミィの手をぼたんが握る。
「大丈夫、無理しないで。応援してて」
「………………………………うん」
ラミィは絶え入るような声で返事をする。ラミィは1人唇を噛む。
それを見ていたマリンは何か言いたげな表情だった。
「ってか、あのエルフ知り合いなんですよね。勝てます?」
「まーフレアは消耗してるし、マリンならいけるぺこでしょ」
「じゃあ………………」
するとポルカ達がボーナスアイテムを使用したことに一同が気づく。
その瞬間ぼたんが攻撃を仕掛けるとバリアのようなものに防がれる。
「ヒビすら入らない……?」
「そりゃそうでしょ。獅白の攻撃でも、こればっかりは無理だぜ」
「大会の方のアイテムか……」
「そう、入手に結構苦労したんだー。まさかこんなすぐに使うことになるとは思ってなかったけどね。『簡易結界発生装置』使用者の周囲指定の範囲に大会の外周結界と同質の結界を構築するボーナスアイテムだ。物理的破壊は不可能、効果時間は15分間。結界内外の区間を分断して干渉を遮断する」
「15分……?じゃあ待っとけば消えるってこと?休憩でもする?」
「まぁ……実際これだけじゃ袋の鼠なんだよな。本来分断とかタイマンに使うアイテムだし。けど……空間を分断されるってことは、結界の内側に敵がいなかった場合……」
ポルカの言葉にぼたんが気づく。
「戦闘状態が強制的に解消される!つまり、転送の使用が可能になる……!」
フレアが転送アイテムを使うと転送が開始される。
「……なるほど、安全に撤退する手段は持ってたんだ」
ぼたんが少し残念そうな表情で言う。
「獅白。ごめん、これは言い訳のしようがない逃げだ。……それでもさ、ポルカは……獅白に伝えなきゃいけないことが山ほどある。多分ねねとラミィも一緒だ。けど、獅白に勝たなきゃ何も始まらないって思ってる。なのにここで逃げる……悔しいと思ってるよ!負け犬の遠吠えってやつかもしれない、それでも!絶対ポルカ達が倒しにくる!待ってろ!!!」
ポルカの言葉に獅白はただ、微笑んだ。
10月14日 17:15
不知火フレア率いる3名
及び 桃鈴ねね 戦闘エリア 離脱
宝鐘マリン率いる4名
追って戦闘エリアより撤退
――――――――――――――――同刻
星街が目を覚ますとノエルに背負ってもらっていた。
「あれ……っ……!やば、私……」
「おっ……思ったより早く起きたねすいちゃん」
「ノエル……!?ごめん私……」
星街が慌てて降りようとする。
「ごめんけど動かんでね、ちょっと今……」
「おはよ、すいちゃん」
星街の目の前にいたのは常闇トワだった。トワは指先に魔弾を出し星街たちに向けていた。
「トワ……!?」
「……ちょっと今、緊迫した状況しとるんよ」
「質問、誰と戦ってそんな状態なの?」
「……?…………相手は獅白ぼたん」
「相手はどうした?」
「どう…………ダメージはほぼ無しで……負けた」
「獅白……かなたの話はまじって事ね。わかった」
トワはそういうと魔弾を消す。それにノエルが少し驚く。
「……戦わなくていいの?」
「今トワ達は獅白ぼたん探してんの。しかも今仕掛けるのはなんか……違うやん?いやでしょそっちも」
ノエルは思わずキョトンとする。
「すいちゃん、また限界まで能力使って気絶したんでしょ」
「……!……まぁ……うん」
「やっぱり。……………………あの時は3人とも同じくらいの強さだったけどさぁ、トワもあくあも新しく強くなってんの。これ先輩の受け売りだけどね、どんなに特別なやつでもずーっと頑張っているやつでも、昨日と同じことだけやってたらいつか置いてかれるんだってさ。だからさ!すいせい!何やってんだ!!!お前は、新しいことできる人間でしょ!!!!」
トワはそれを伝えるとその場から飛び立つ。
「……すいちゃん、例の幻想種と友達だったんだね」
「まぁね。あ、『幻想種』って呼ぶとヘラるよ」
「まじか」
「…………怒られちゃったなぁ。こういうの嫌だったんだけど……」
「すいちゃん…………?」
その言葉と裏腹な声にノエルが疑問を覚える。
「……なんか思ったより元気出るっていうか、気合い入るもんだね」




