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23話「停まった思い出」


「え、ノエルでしょ」


「…………即答なんだ」


 非戦闘エリアでフレアと星街が2人きりになった時の会話だった。


「私が聞いといてアレだけど『最強は誰?』なんて質問普通答えられなくない?状況によるとか仲間がいるからとか色々あるでしょ」


「まぁね、でも総合的に考えてうちらで最強はノエルだと思う」


「……状況によるってのは分かるけどね」

 すると後ろからポルカが話に入る。

「すいちゃんの速度があれば大体の相手は一方的に倒せるし、フレアはオールレンジすぎて弱点が見つからないし。みこちの防御と高火力は敵にすると倒し方がわからん。ポルカの友達も強いやつばっかだったけどそれでも勝敗は状況次第。そもそも異能っていうのはゲームみたいにルールとシステムが前提のフィクションじゃないんだ、よほどの事がないと『こっちの方が勝つ』なんて言い切れない」


「それでも、ノエルが負けるとこが想像つかないんだよな。だから今、うちらで最強はノエル」


 

――――――――――――――――――



「すいちゃん大丈夫?」

 ぼたんの攻撃から星街を守ったのは白銀ノエルだった。

「え……あ、うん!おかげさまで」

「よかった!お相手さんはどんな感じ?」

「めっちゃ強い。」

「それはわかる。」

 星街のしんどそうな表情をして一言で表す。

「典型的な近接タイプ……小細工は多分ない。ただ反応と俊敏性が異常で、攻撃がまともに当たらない。速度は私より遅いけど体感は倍速い。正面からの殴り合いじゃなくて躱して差し込んでくるタイプ!」

「え〜……おけおけ!んにゃあだんちょは絶対ついていけないね!」

「え、いや……そんな気はしてたけど……」

 緊迫した空気にノエルだけがホンワカとしていた。

「すいちゃんでも捕まえられないやつはだんちょに無理よ」

「じゃあ……」

「けど、とりあえず一本……は、取れる」

 ノエルは表情を一変させ真剣な表情になる。

「……お次の相手ってことでいいんですよね。獅白ぼたんです、どーも」

「どーもどーも、白銀ノエルです。よろしくぼたんちゃん」

「白銀…………そーゆー…………」

「んじゃ……!いくぞっ!」

 ノエルが高く飛び跳ねるとメイスを叩きつける。その衝撃は地面が砕けるほどだった。

 砕けた瓦礫がメイスに集まると大剣に変形する。砕けた瓦礫はメイスのみならずぼたんの方へと飛んでいく。

 飛んでくる瓦礫をぼたんが受け流していく。

(流された!速い・強いだけじゃない、『(うま)い』!)

「なるほどね、すっごいパワーだ。あたしより強い。亜人種なのにこのパワー……武器に岩を纏ったり、今の瓦礫にも魔力がこもってた。大体の推測、破壊したものに〜……魔力を通して武器にするってとこかね。魔力を重さにしながら身体強化を併用……亜人種なのに完全近接特化ってことだ」

 ノエルが大剣をぼたんに切り付けるもそれは残像だった。

「当たったらあたしもタダじゃすまないスね」

 ノエルは背後を取られたと同時に大剣を振り翳した事で大きな隙を見せてしまう。

 ぼたんの攻撃の構えは間違いなく腰が入ったものでその一撃は想像を絶するものだった。

 ノエルは振り返るも正面から重い一撃を受ける。地面にはメイスが落ち金属音が鳴り響く。

 しかし、ぼたんの腕にはノエルの腕が捕まっていた。

「捕まえた」

「マジかっ…………!?」

 ノエルは腕に瓦礫を纏うと深く腰を入れた重い一撃をぼたんに放つ。


――――――――――――――――


 熟練の異能使いの戦闘傾向は大きく分けて2種類に分類することができる。

 そのように定義されているわけではないので『そんな傾向にある』程度の話であるが、

 一つは自分の基礎技術を研ぎ澄ませその武器として能力を扱う者。

 もう一つは強力な能力を持ちそれを研ぎ澄ませる事で能力特化で戦う者。

 どちらかが優れているということは無く、どちらのスタイルでも高みに至った者は等しく強者である。

 前者の例を挙げるのであれば『戌神ころね』や『猫又おかゆ』、研ぎ澄ませた牙は天災にも届く。

 そして後者、鍛え上げた能力は稀に変質し新たな領域に到達する。

 それこそが能力の『第二層』。


「……ラミィの能力が『凍結』だとするなら、第二層はその性能をさらに伸ばした先。あらゆる物質の動きを強制凍結させる『停止』、異能に用いる魔力も例外じゃない。ラミィの能力に当てられた魔力が活動を停止して、みこちの能力が機能しなくなったんだ。だからみこちの『不可侵性』が失われた」

 ポルカがラミィの能力も語るが自分でもどう攻略するかまるで浮かばない様子だった。

「そんなの……どうやって…………」

 みこちの目には凍りつく桃鈴ねねの姿があった。

 すると氷面にヒビが入ると氷が剥がれたかのようにねねちが抜け出す。

「脱皮……!」

「あー寒!」

 ねねちは勢いのままラミィに向かって走る。

「……能力ごと凍るってことだよね?じゃあなんでねねちゃん……は能力が使えんの?」

「あぁ、そこ紛らわしいよな」

 ねねちがラミィと戦っているうちにラミィの攻略法を探る。

「ねねの固有(ユニーク)スキル『錬成霊塊(ギラフォース)』、動植物に因んだ武装を生成する能力。ねねの場合は『虫』だな。魔力で新しく物体を構築できるタイプの能力だ。ラミィの第二層は凍結対象を完全停止させるけど、ねねが出した装備は独立した新しい物体として扱われる。みこちだってさっきバリアを凍らせられたけど今はもう新しく出せるでしょ。それと同じで凍った部分を使い捨てれば凍結から逃れられるんだよ」

「第二層……話には聞いたことあるけど、実際に見るとマジかって感じだよね」

 ポルカ達の元へフレアが合流する。

「フレア!よかった無事だったか…………まぁそこなんだよな、第二層の能力なんて幻想種並みに珍しい現象なんだよ。現にラミィも大会参加まで第二層に到達してなかった。それをこの土壇場で完成させた……ってのは無理があるし、仕方なく何か無茶をしながら成立させてる感じがする。……そんなわけで隙があると思うんだよね、行ってくる。みこちはフレアのこと頼む!」

「う、うん」

 ポルカがラミィ達の元へ走り出す。ポルカの表情はどこか笑っていた。

「ねね!ポルカ入る!」

「うおーっ!おまるーん!」

 ポルカがねねちの元に合流し共にラミィと対峙する。

「………………ぽぅぽぅ……なんか楽しそう?」

「お、みこちもそう思う?……ま、友達と一緒に戦えて楽しいんだと思うよ。友達と勝負するためにこの大会に来たとは言ったけど、本当はポルカも一緒に戦いたかったんじゃないかな」

「じゃあなんで……」

「さぁ、ここ切り抜けたら聞いてみよっか。ポルカと友達のこと」

 ポルカがねねちの姿になり羽を身につける。ラミィは氷で撃ち落とそうとするも苦戦する。

(ねねちゃん2人分の機動力、抑えきれない!凍結した武装を捨てる分長期戦ならいつもは有利になるけど、今は第二層と連戦の消耗でラミィのが先にバテる。かといって『第二層』は解けない!みこちさんの能力がある以上通常運用に切り替えた瞬間に撃ち抜かれる。第二層のまま出力を一気に上げて……)

 ラミィが魔力の出力をひね上げた瞬間腕にヒビが入る。

「ッッ!!!いっッあぁああっ……!!!!!!!!!!」

「ラミちゃん!?」

 ラミィはその場で膝を崩す。

(身体の限界……!維持……できなっ…………息がっ…!)

 ラミィがその場で息を荒げる。

「……やっぱりかなりの無茶して扱ってたな。勝負ありだ、その状態じゃ普通の能力も扱えないだろ」

 ポルカが変身を解くとラミィのもとに歩み寄る

「ラミィ、ポルカ達の方につかない?獅白に勝つ、やっぱりそうしないとこの4人は前に進めないと思う」

「……………………おまるんの言ってたことはわかるよ、ラミィも同じ気持ち。ラミィ達がししろんを独りにしちゃったんだよね。それでラミィ達みんなで勝ったら?……みんなでやってもししろんに負けちゃったら?どっちでもししろんは独りのまま。だからついていけなくても……もうししろんが背中を預けてくれなくても…ししろんの隣……を……やめない」

 ラミィはポルカの手を取ることは無かった。

「……そっか、そうだな。じゃあ対戦相手として倒すぞ……ラミィ」

 ポルカがトドメをさそうとしたその時だった、大量の水による質量攻撃がポルカを襲う。

「なっ……!?」

「ごめんごめんなんかお話中だった?でも明らかにラミィピンチだったから……来ちゃった♡」

 その場に現れた謎の3人組の中にぼたんはいた。3人組の中心に立つ影は海賊の服を身に纏い深紅の瞳を輝かせていた。

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