エピソード:β「対異能特殊部隊」
「今年は随分農作だな」
場所はholoRoyal会場から少し離れた場所にある対異能特殊部隊の本部だった。
異能部隊(※対異能特殊部隊の略称)はholoRoyalの運営組織『holoX』と協力関係にあり、警備システムや会場周辺警備などを提供していた。
キャンディーを咥えながら巨大なモニターからholoRoyalの中継を見ていたのは対異能特殊部隊隊長の『中井和玄』だった。年齢は26歳、キャンディーを咥えている理由は禁煙の為である。
「中井さん、うちの警備が削られたそうです。ラプラスさん……怒ってますよ」
中継を見てるモニター中井の後ろから現れた女性は『ラプラス・ダークネス』ビデオレターを渡す。中井が渡されたビデオレターのボタンを押すとホログラムが表示される。映し出されたのはラプラスは穏やかな表情では無かった。
『おぉい!!!かずぅ!!!!!お前んとこの連中ちょー弱じゃねーか!おかげで吾輩の仕事が増えたじゃんかよ!ハーゲンダッツ奢れよ!!!……………あ、抹茶のやつな』
ラプラスの怒涛の勢いに中井は唖然していた。
「………………田村、人員の補填を頼む。」
中井に頼まれのは部下の『田村晴美』だった。すると中井は荷物を持ち出かけようとする。
「中井さんは……?」
「俺は…………ハーゲンダッツ買ってくる」
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「ったく……holoXの頭がアイス奢れとか聞いて呆れるってもんだ。高嶺さんまた甘やかしてるなぁ?こんなとこ先生に見られたら怒られちまうよ、ハハっ…」
中井はアイスが入ったビニール袋を片手にコンビニから出ると小言をぼやいていた。
中井がしばらく歩くとついた場所はholoRoyal会場の結界の前だった。
「…………あなたが中井和玄さんですかね?」
すると中井の後ろからタキシード姿の老人が尋ねてくる。その老人はレイピアを片手に持っていた。
「…………能力犯罪者だな?その言いぶり的に狙いは俺か。概ね、懸賞金目当てってとこか」
「えぇ……異能部隊の隊長、さぞ高くつくことでしょう」
老人がニヤリとすると中井がビニール袋を足元に置く。
「……ったく、アイスが溶けたらあいつにドヤされちまうじゃねーか。……間が悪いぜ、爺さん」
中井はそういうと咥えていたキャンディーを噛み砕く。
「それは申し訳ないことをしました……しかし心配する必要はございません。先のことなぞありませんからなぁ!!!」
老人が斬りかかると中井は軽快に避ける。
「…………っ!見切りますか……!」
中井はレイピアの刃を掴み折ると、そのまま老人の顔に肘打ちをする。
「ごはっ……!!!」
「ほれっ、勝負はついた。大人しくお縄に……」
倒れた老人は不敵な笑みを浮かべる。その瞬間中井は足元から強い風圧によりはるか上空に飛ばされる。
「これが私の固有スキル、『風加檀』。落ちた後に原型を留めていただくと有り難いです」
(だいたい3000mって感じか。空から見るとほんとにでかい会場だな……東京ドーム何個分だ?)
落下していく中井は冷静な心境だった。地面が見えてくると老人は勝ちを確信する。
すると中井は老人の目の前で空中に着地する。
「でも実際、東京ドーム何個分って言われてもわかんねぇよな」
「なっ…………!?」
老人の顔色は見るみると青白くなる。
「『空中歩行』……それが俺の固有スキル。首狙うんだったら下調べはしないとな」
「こ、このガキャァァァアアア!!!!!!!!!!!!!!」
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「ふんっ、やっと来たか」
ラプラスがそう言うとワープゲートを開く。そこから中井が現れる。
「いやぁ〜すまんなぁラプラス。道に迷っちまってぇ」
「ラプラス“さん“な!?なんでいつも吾輩だけ呼び捨てなんだよ!……って誰だよそいつ!!!」
中井の足元には気絶した老人がいた。
「この爺さんも迷ったらしくてよぉ疲れて寝ちゃったか?」
「………………で?例のブツは……?」
「……ここに…………」
中井が取り出したのはハーゲンダッツだった。
「コレ!コレ!コレェ〜〜〜!!!」
「おっ!来てたんだ」
他室から出てきたのは鷹嶺ルイだった。
「鷹嶺さん!久しぶりっす!!!」
中井はルイ相手に景気良く話す。
「お前の部下弱すぎだからもっと鍛えろよぉ。幻想種如きに負けんなってぇ」
ラプラスがアイスを食べながら中井に言う。
「『幻想種如き』って……格の違い見せつけやがるな」
中井が呆れ気味に言うと研究室から博衣こよりが顔を見せる。
「それならこよが作った薬あげよっかぁ?」
「博衣さん……え、遠慮しときますよ…」
「なぁ〜んだ」
そう言うとこよりはまた研究室に戻っていく。
「相変わらずだな…………それじゃあラプラス、『沙花叉さん』と『風真さん』によろしく頼むぜ」
中井はそういうとワープゲートを通りその場を後にする。
――――――――――――――――――――――
「しあわせは〜………歩いてこない………♪だぁから歩いてゆくんだねぇ〜……♪」
真昼間に人気のない道で1人鼻歌を歌いながら愉快に歩く男の姿があった。
競馬に勝って上機嫌の男はモクモクとタバコの煙を立てる。
「お〜いおっさん」
その男にチンピラの集団が囲むように集まる。
「ん〜?なんだ、俺ァこの通りで10000人目とかだったりするのか?そんならぁ盛大に祝ってくれよぉ?」
男は渋い声でヘラヘラしながらチンピラを煽る。
「あ?何言ってんだテメェ、わかってんだろ?いいから財布、置いてきな?」
「おいおい……最近の連中はこんな老いぼれからも金を取るってのか。殺生なもんだねぇ」
男は顎の髭を摩りながらコートのポケットから新しいタバコを手に取る。
「舐めてんのかテメェ!」
「お、おい……こいつ……腰に……」
チンピラの仲間が刺した指の先には刀がチラついていた。
「て、テメェ……!なんでそんなもん!」
「……デートだよデート、最高の愛刀とな……!」
すると男は一瞬にしてチンピラ達を切りつける。
「安心しろぉ……峰打ちだ。運がよかったなぁ……俺ァ今日機嫌がいい、馬に救われたな」
そういうと男はまた鼻歌を始めてその場を去る。その最中男が思い出したかのように電話をかける。
「よぉ……!元気してるかぁ………………あぁその件なら終わったさ。それよりだ、今日奢ってやるぜ?……おいおい気味悪がるんじゃねぇよぉ〜」
holoRoyal会場
結界外
結界外で見回りをしていたのはholoXメンバーの沙花叉クロヱだった。
「……そういえば先生元気してるかなー。またタバコとか吸ってないと良いけど」
クロヱは微笑しながらそう呟く。




