20話「所在なき王」
「あれか?」
「えぇ、間違いありません。星街すいせい。レートは初参加ながら『A-』にまで繰り上がりました。
「Aか。まぐれで前年王者を落とした奴としては妥当……いやちょっと高いか?」
「この大会の学生は油断できねぇぞ」
「えぇ、だからこうして万全を期している」
「……行くぞ!!!」
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10月14日 16:20
荒野エリア 戦闘区域
大会5日目、あの大規模戦闘の翌日。大会の参加者はついに100人を切り後半戦に入った。
それなりの高難易度で大会運びをしていただけにチームメンバーのレートは上昇。特に参加いきなり前年度の優勝者を倒した星街すいせいとさくらみこはレート撃破ボーナスを狙って戦闘を仕掛けられる可能性も高まる。非戦闘区域の療養施設で全員が完全に回復したものの今日は分担して難易度の低いミッションに取り掛かる。
「…………こんな感じであってる?」
「うんバッチリ!」
ポルカの振り返りにフレアがグッドサインを出す。
「こっちのミッションは群れの掃討だから範囲攻撃できるあたしとポルカ、それと踏み込まれた時の盾にみこち。すいちゃんとノエルもそれぞれ軽めのミッションに当たってもらってる。一応2人ともいざって時に合流できる距離でね。」
「不利な戦闘になったら逃げるんだよね?」
「うん、そこまで優先度が高いわけじゃないからね。あったら嬉しいくらい」
「…………!止まって」
フレアとみこちが確認しあっているとポルカが何かに気づき手を前にやる。
「……出てこいよ、待ち伏せか?」
「……ほぅ平均レートの高いチームと思てましたけど、見せかけと違うようどすなぁ」
すると岩陰から2人の参加者が現れる。
「……ま、こうなったら移動中も油断できないよね」
(2人……伏兵の可能性もあるか)
「みこち前任せていい?」
「もちろん!」
フレア達が戦闘体制に入る。するとその場に冷気が漂い出す。
(……冷気……?……敵の能力……ってわけでもなさそうかな。じゃあ……)
ポルカがその冷気に既視感を覚える。
「…………っ!!!離れろ!!!!!!!!」
その瞬間広範囲の氷攻撃に襲われる。ポルカの警告でフレア達は間一髪のとこで避ける。
先ほど現れた参加者が氷づけにされていた。
「氷……魔力攻撃だ、なんて範囲……諸共やられるとこだった……」
フレア達が驚いているとポルカが1人酷く動揺していた。
「……あいつの……全力の凍結範囲はこんなもんじゃない!!!……わざと外したな…………『ラミィ』!!!!!!!」
ポルカ達の目の前に現れたのは初参加(推薦参加)の『雪花ラミィ』だった。
「こんにちは。おまるん……とおまるんのチームの皆さん」
「ラミィ…………」
ポルカが覚悟を決めたような顔を見せる。
「そんなに怖い顔しないで!ラミィは戦いに来たわけじゃないので」
「………?どういうこと?じゃあなんの……」
「えーと……説明するとややこしいんだけどそうだなぁ……『星街すいせいさん』……はどっちですか?」
ラミィはフレアとみこちに向けて問いかける。
「えと……すいちゃんは別のとこに……」
「えっ!この三人で全員じゃないんですか……?そっかぁ……困ったな……それじゃあししろん、そっちに行っちゃったかも」
――――――――――――――――
「星街すいせい…………ですよね」
「そうだけど……」
「お噂はかねがね、今時間いいですか?」
(この顔、この声……ポルカが模倣でよくやる人……初めて会った時の……)
「……獅白ぼたん……何、ポルカに用?」
「おっ、知ってるんですね。いやまぁおまるんも居たら良かったですけど、今はあくまですいせいさんに用事ッスよ」
「そっか……こんな戦闘エリアの真ん中でさ、さっきのわざわざ隠しもしないで……『用事』って。そういう事でいいんだよね?」
「是非」
ぼたんと星街が衝突する。
(わかってる……)
――――こいつのおかしさ――――
(ポルカが能力で模倣してるのを見た頃から、敏捷性とか反応とかとにかく動きが異常なのは知ってた。でも今、それ以上に……底が見えない……!)
星街がぼたんに斧を振り下ろすも簡単に止められる。ぼたんの目に星街は身がすくみ後ろに下がり距離を取る。星街が斧を振り上げて砂埃を巻き上げる。
「うおっ!」
――――『星空を君に・ブレイクチェーン』――――
(出し惜しみの時間はない、全開以上で手早く潰せ!ここで『速く・正確に』を掴め!)
星街がぼたんに向けて斧を槍のようにして投げる。ぼたんが余裕な表情で華麗に避ける。
星街が飛び上がりぼたんに殴りかかる。しかしその拳は届かずぼたんに腕を掴まれる。
(ブレイクチェーンの速度を捌かれた!?反応速度が今までの人らの比じゃない!!!でも……)
――――本命はこっち……!――――
星街はぼたん相手に不意打ちを成功させる。
(うまく当たった…………けど逆に言えば、ここまでしないと当たらなかった。反射で受け流した百鬼あやめとは違う。的確に反応しながら捌いてくる。効き目は……)
「あ〜いてぇ……流石に痛いよ」
ぼたんがニヤつきながらそう言ってくる。
(イマイチ……!反応は百鬼あやめ以上、耐久は白上フブキ以上。耐久戦の削り合いはほぼ無理!とっくに限界の出力出してる。でも、このままじゃ勝ち目はない)
「じゃあそろそろアゲるから、ついて来てよ?」
星街は無理をしながらも余裕を演じる。
「お、マジですか?」
対するぼたんは演じることのない余裕を見せていた。
(思い出せ……あの時の……!)
――――『星空を君に』出力最大超――――
星街が限界を越え目にも留まらぬ速さで動いた瞬間、目の前にはぼたんの手が見えていた。
星街が膝をつくまでの一瞬の出来事だった。




