16話「太陽少女」
ポルカが逃走するシオンを桃鈴ねねの能力を使い追跡していた。
(速い!追いつけない!……っていうかそもそもおかしい、どうなってるんだ?いくら自然種でもあれだけの出力を乱発したら普通ガス欠になる。なのに紫咲シオンの飛行速度は変わらないどころか上がっている。この戦闘で少しも魔力を消費してなかったとでも!?魔法の技術は複雑だ、やっぱり何か見落としてる?このまま追いかけるのは危険か……?…………いや、やっぱり放置できない。この先の場所ではフレアと湊あくあが戦ってる…………!!)
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場所は都市エリア戦闘区域、百鬼あやめによる倒壊地域から数百メートル地点。
白銀ノエルと大空スバルによる打撃のぶつかり合いが繰り返されていた。
スバルの拳とノエルのメイスが衝突する。
「だあっ!!」
スバルが押し負け壁に叩きつけられる。しかしノエルもその場で全身に強い衝撃を受ける。
(『六連空点』、スバル先輩の能力は『声』と『打撃』で空気に干渉できる。拳打で発生させた衝撃波は防御を貫通する!)
「あ゙ー!いってぇ〜効く!」
ノエルが怯んでいると叩きつけられたスバルが起き上がってくる。
(ノエルは相変わらず能力の前にフィジカルがエグいな!パワーがすごいし本当に攻撃効いてんの!?)
するとノエルが飛び上がるとメイスに岩のようなものは纏わせる。
――――『銀騎士勲章』――――
するとメイスはハンマーのような形になる。
「ふんっ!!!」
「うおっ!」
ノエルがそれを振りかざすと地面が崩壊する。
(そこにこの能力!確か『土の属性で武器をゴツくでかくする!』……みたいな感じ。強化した武器がぶっ壊れるぐらいの力で振り回す!ノエルのゴリ押し……!)
「……かっけぇ……ロマンだろマジで」
ノエルが再び武器を大きく振り回すとスバルが体を低くして避けると横蹴りを加える。その衝撃はノエルの防御を貫通し内側からダメージを与える。
「…………っ!!!」
スバルがメガホンを手に取り息を多き吸い込むと、怒鳴るように大声を出す。
(スバル先輩もう一つの得意技!大声を使った無差別範囲スタン!!!)
怯んでるノエルの腹にスバルが重い一撃を与える。攻撃を受けたノエルかメイスを落とし倒れかかる。しかしノエルはスバリをがっしりと掴む。
「…………えっ」
「捕まえたぜっ!」
ノエルが血を吐きながらもスバルを持ち上げる。
「う、お、ちょっ……!」
(耐えた!?)
「やばいやばいそれはやばいって!!」
予想外の反撃にスバルが動揺する。
「こん……まっ……する!!!!!!!!!」
ノエルが力いっぱいスバルを地面に叩きつける。その威力は地面を割る程だったスバルはその場で伸びるように倒れる。
勝ちを確信していたノエルの肩を掴んだのはスバルだった。スバルの先ほどの比にもならない程の大声による攻撃をノエルが至近距離で受ける。その衝撃はノエルを吹き飛ばすほどだった。
大空スバルの『六連空点』は本来六つの方法で空気に干渉する能力である。しかし白銀ノエルが把握しているように本人が意図して使用できる技術は極一部しかない。しかし日々の積み重ね、その育まれた基礎に窮地という刺激を与えることで技術は急速に開花する。大空スバルはこの窮地にて『空気の暖衝材』を出す技術を会得し衝撃を和らげた。さらに、カウンターに放った『声』は普段の出力を大きく上回り音波を凌駕した『衝撃波』となった。衝撃波は先刻までの比にならないほどの圧力の変化を伴う。超音速でエネルギーは大空スバルの『声』を一時的に使用困難にすることと引き換えに白銀ノエルの体力を貫通して大きくダメージを与えた。
「***!!!」
吹き飛ばされ怯むノエルにスバルが追い打ちをかける。追い込まれたノエルがコンクリートに指を刺すと勢いよく持ち上げスバルに投げつける。
「いっ……!?」
咄嗟に避けたスバルは咳き込んでいる様子だった。
(流石ノエルはめちゃくちゃだな……でも確実で削れて……)
するとスバルの携帯機が鳴る。画面を確認したスバルは少し笑みを浮かべる。
「……早かったな」
そういうとスバルが逃走を始める。
「なっ!?」
――――――――――――――――――
一方その頃、湊あくあと不知火フレアが交戦していた。
あくあが水を碇のような形にして手足のように操る。フレアは火の能力を利用し素早く避ける。
(独りで完成してる戦い方だ……すいちゃんが削ってなかったら危なかったかな。それにリスポーンした魔獣がちらほら居る。ミッション用の発生装置付近まで来たのかな。……この状況に誘い込まれたか?)
「なーにを企んでるのかな」
――――『海想列車・水鞠乃手』――――
あくあが水を弾丸のようにうち攻撃する。
「おっと」
フレアが炎で壁を作り水を浄化させる。その隙にあくあが水を手足のように操り追撃を試みる。
――――『不知火・血厨』――――
フレアがその内の一つを炎で切るように蒸発させる。しかしその間にフレアの周りにあくあの攻撃が迫っていた。
爆発が起こり土煙が立つ。その煙の中からフレアが抜け出す。
(抜けた!?)
あくあが驚愕しているとフレアが距離を取り状況を把握し始める。
「なるほどね……」
(どうも亜人種の割の継戦能力が高いと思ったら……)
すると散らばった水があくあの元へと戻っていく。
(この子の『水』は通常の魔力やあたしの『炎』よりも、物質としての安定性が高い。一度水化させた魔力を霧散する前に回収して再利用してるんだ。でもそれは、魔力にそう遠くない限界がある証拠。明らかに出力は弱まっているし、すいちゃんと戦った時に回復技で消耗した分は戻ってきていない。そして……)
――――『不知火・刀厨』――――
フレアが炎で盾を作り水の攻撃を蒸発させる。
(蒸発した水は能力の対象外!)
フレアがそのまま距離を詰める。
「ほら言ったでしょ、相性いいって!!」
フレアが足を火で加速させ、あくあを蹴り飛ばす。
「いっ…………!」
咄嗟にあくあは受け身を取る。
(この人!自然種なのに打撃が重い!!!)
フレアが火で加速させ勢いよく蹴りかかる。
「水は火に強いとか……自然種は遠距離とか……お堅いやつは、足元掬われるぞ!!!」
あくあが蹴り飛ばされるシャッターを突き破る勢いだった。するとフレアの携帯機が鳴る。
「お……?ポルカだ。ポルカどうし……」
「フレア!!!ごめん緊急!!!!!紫咲シオン逃した!!!そっち行ってる!」
電話に出るとポルカがものすごい勢いで話し、フレアが耳鳴りを起こす。
「何か作戦がある風だった。それに紫咲シオンは全然消耗してなくて……」
「わかった大丈夫だよ。そのままこっちに合流してくれる?」
(なるほどね……分断にあっさり乗ったと思ったら、再合流するための足には自信があったのか。あわよくば発生源を見つけてそこに合流って感じかな。ならあたしがやるべきことは湊あくあを確実に退場させる。もしくは魔力を完全に削り切り戦闘不能にすること。そうすれば数的有利を取れる。合流はむしろ好機、またどんな切り札を隠してるかもわからない)
――――『不知火・三厨』――――
フレアが炎を纏いボルテージを上げる。
慢心は無い。