11話「鬼が笑う戦場」
星街が柵を飛び越えあくあの前に立つ。星街の先制攻撃にあくあが水を操り防ぐ。
「元気そうでよかったよあくた〜ん!この大会が終わったら一緒にご飯でもどうカナ?なんちって」
「す、すいちゃんも……」
星街の冗談混じりのテンションにあくあが下がり気味に返す。
「……でも、あくたんにも勝ちは譲らないよ」
「……!……ううん、いらないよ。それは自分で獲るから」
――――『海想列車・八雲乃手』――――
あくあが水を操ると捻れるように星街にまとわりつき身動きを封じる。
「シオンちゃん!!」
シオンの手元に魔法陣が浮かび上がると魔力の塊が現れる。
「一人もーら……」
するとフレアがシオンの手元を蹴り照準をズラす。
(仲間!速い……!手元ごと照準を妨害された!この機動力、獣…………エルフ耳!自然種……!?)
自然種でありながら凄まじい機動力のフレアにシオンが驚愕する。
「なんだ、それぇ!!」
シオンが魔力の塊を両手で握り締め魔力の弾を散乱させる。
「おっと」
フレアが咄嗟に後ろに下がる。一方星街とあくあは両者睨み合っていた。星街から魔力が一気に溢れ出す。すると水が破裂するように散る。
「すいちゃん!」
「問題なし!一瞬出力上げただけ!」
フレアと星街、シオンとあくあがお互い合流する。
《ポルカは一旦隠れてノエルたちに連絡してる。このまま引き付けて合流するよ》
フレアがあくあ達に聞こえないよう小さい声で星街に伝える。
――――――――――――――
「みこち伏せて!!」
星街達があくあ達と接触していた頃、みこちとノエルは魔獣を倒しながら発生装置を探していた。ノエルは魔獣を吹き飛ばし壁に叩きつけてみせた。
「おぉぉすげぇ〜!……同じ亜人種の『魔力強化』なのになんでこんなに差が出るんだろ?」
「それは筋肉よ筋肉!鍛えて強化して初めてすっごいパワーが出るんよ!あとは…………んれ?まって連絡だ」
ノエルにポルカからの連絡が来て話しているとみこちは少し考えていた。
(……それだけかな、なんか見逃してる気がする……よーな?)
「みこち、移動するよ!フレアたちが強いのと当たったって。だんちょ達で挟み撃ちにする」
「了解っ!そんじゃ………………」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ああ!!!!!!」
みこちたちの前に何かが落ちてくる。
「なっ…………!」
みこちとノエルは唖然とする。
「オオイ!!いやおかしいやろ!そうはならなくないか!?」
「うひゃっひゃっ!しょうがないじゃーん使い方わからなかったんだもぉん」
「しかも敵前じゃねぇか!!ほんっともー!」
二人の目の前に現れたのは私立二宮高校3年『大空スバル』と
「ごめんてぇ〜でも皆んなも近くにいるはずだ余」
同じく3年の『百鬼あやめ』だった。
――――――――――――――
駅構内、星街達は交戦していた。フレアとあくあがお互いの技で相殺し合っている。
(やっぱり能力は『水』か……!)
「あたし達、ずいぶん相性良さそうじゃん!!」
フレアが手から炎を出しあくあの水を蒸発させる。あくあが足に水を纏わせ、スケートのように地上を素早く滑り移動する。
(見たまんま『火』の能力かな多分…………相性はいいけど……自然種相手の出力勝負キツすぎ!)
あくあはフレアと距離を取りつつ状況把握をする。すると、星街があくあを奇襲する。
「逃げないでよ、あくたん!!」
あくあが吹き飛ばされるも、水をクッションにし衝撃を和らげる。
「ナーイスすいちゃん!」
フレアが炎で追撃するが、魔力のビームが掻き消す。
「シオンちゃん!」
「むりむりむり!あの子速すぎ!抑えられんかったわ」
シオンとあくあが合流する。
「うん……止められないと思う。すいちゃん……もう能力全開にしてるもん」
あくあの目に映るは『星空を君に』の出力を全開にしてる星街の姿だった。
「…………すいちゃん、そんな飛ばすとバテるんじゃない?少し抑え……」
「いや、むしろ急いで詰めないと」
フレアの声かけに応える星街の声は焦りを感じていた。
「……あくたんの能力わかってきたよね」
「……『水』……を操る、というよりは魔力の特性を水にしてる感じかな」
「御名答さすがだね。遠近攻守隙がない能力だけどあくたんは亜人種、エネルギーの総量が少ない。魔力勝負ならフレア、近接勝負なら私が押し切れる。問題は……」
――――『海想列車・泡沫乃手』――――
あくあが魔力を練ると傷が癒えていく。
「水の特性を応用して回復ができること」
「傷が……!」
「さらに問題なのは、あの技で他人も治癒できること。そして他人を治癒した時、消費した分の魔力がその相手に譲渡されること」
「それは……」
「うん、強いよ。チーム組んだ時は私も結構助けられた」
星街の話を聞いてフレアは息をのむ。
「けど銭湯になるとあくたん突っ走るとこがあるから、ただのヒーラーで終わらないところが弱みでもあるかな」
「そ、それは……」
「うん、チーム組んだ時もちょっと困った(トワが)」
星街が苦い記憶を思い出す。
「……そっか、器用に色々できる亜人種はその分魔力総量は多くない。防御に能力を使わせてエネルギーを使い切らせる……!」
「そういうこと。他に仲間もいるかもしれないし、私がバテてでもここで回復を使えなくする」
星街達が作戦を練っていた時あくあ達も同じく作戦を練っていた。
「……っていうのがすいちゃんの能力」
「……じゃあ今の出力は捨て身ってこと?」
「多分?」
「こわ〜…………でもそういうことならあれの出番じゃない?」
「かも。じゃあとりあえず……すい……」
あくあが言いかけたその瞬間、その場の頭上から大量の魔獣が落ちてくる。
「…………!!魔獣!!」
シオンが魔獣を見て思い出す。
(そういえば……)
「無限湧きか!」
フレア達は各自、魔獣の対応に追われる。
(魔獣自体はマジで大したことないのに!戦闘中に割り込まれると、マジでうざい!)
「あくあちゃん!伏せて!一掃す……」
シオンが魔獣を一掃しようと魔力を充填する。
「危ないっ!!」
あくあが星街の奇襲からシオンを守る。
「……っ!」
あくあとシオンが後ろに押し飛ばされる。
(……そっか……魔獣が反応できない速度で動き続けられるすいちゃんだけ、この場で完全フリーだ……!)
「よそ見してていーのカナ?」
(つまりすいちゃんがバテるまで、魔獣と一緒にこのまますいちゃんをいなし切らないといけない)
「……問題なし」
星街とあくあがお互いを見て笑みを浮かべる。
――――――――――――――――
〜ミッション開始前〜
「今日のミッションで戦闘になったとして、ポルカの能力はギリギリまで温存したい。……というか可能なら使わずに終わりたいね」
フレアが準備をしながらポルカについて触れる。
「なんで?ポルカの能力は『模倣』だよね?混戦になるなら相手に合わせて能力を切り替えられるポルカの活かしどころなんじゃない?」
星街がフレアの言うことに疑問を持つ。
「まぁすいちゃんに見せた通りの能力ならそう感じるかもね」
するとポルカが自分の能力について説明する。
「でも実際はポルカの能力もそんなに都合がいいもんじゃなくてね。……準備しながら少し授業すっか」
ポルカがどこからかホワイトボードを持ってきて授業を始める。
「そもそも何の条件もなく何の理論もなく、なんでもできる能力なんて見たことある?」
「…………ないかも」
「そうでしょ。例えばみこちの防御は絶対破れない概念防御だけど『神職の家系が信仰する神様に魔力で接続する』っていう理論がある。白上フブキの剣は、白上流門下での厳しい修行が条件。まぁ他にも強力な力を発揮しようとすれば、それだけの条件が必要なんよ。それが異能のセオリー。例え幻想種だって、力に理論or条件は欠かせない」
「……じゃあポルカの能力は?」
「……そう!よくぞ聞いてくれました!」
星街が質問すると待ってましたと言わんばかりにポルカが反応する。
「ポルカの能力は固有スキル『写仮面』。確かに模倣の能力だけど精度を上げるためにとにかく条件が多いんだ。まずは相手の顔と名前……あとはなんとなくの人柄とか、ここまで達成で第一段階。この時点で相手の姿と声を構成できる」
「姿と声だけ……ってまさかあの時!」
星街が能力を聞いてポルカがミオの姿を模倣していたことを思い出す。
「おっ気づいた?大神ミオの予知は録れてないんだよね。ハッタリで撤退してくれて良かったわホント。……戦闘を模倣するにはさらにもう一つ条件が要るの、それは『ポルカが魔力を捻出していない状態で対象の魔力に1分間接触すること』。ま、戦闘中……ましてや敵には使えないよね。それに加えて格上とか異種を模倣するほど体力を消耗するんだ。だからすいちゃんが考えるほど便利じゃないし不足の事態に備えて温存しとかなきゃいけない」
――――――――――――――――――――
「いっ…………」
場所は都市エリア『駅広場』、あくあが星街に投げ飛ばされ受け身を取る。追い討ちを狙う星街にあくあが向かいうつ。
――――『海想列車・村雨乃手』――――
あくあが圧縮された水を勢いよく一直線に放つ。星街がスレスレのところで避ける。
(来た……村雨乃手!まともに喰らったらやばいけど軌道は一直線!)
すると星街が上空にシオンによる魔法陣があることに気づく。すると幾つもの魔弾が放たれる。魔弾によって星街があくあへの道を阻まれる。
「飛べる自然種厄介すぎ……!」
フレアがビルの屋上から見下ろすシオンの背後をとる。
――――『不知火・灼厨』――――
炎の渦がシオンを襲う。
「うわわっ!」
シオンがホウキを操作して避ける。星街達の戦闘を少し離れたところからポルカが状況を把握していた。
(魔力操作メインの派手な撃ち合い……すいちゃんが全開なのもあって今はこっちが押してるな。出力は100は……ちょっとセーブして80くらいか?それよりも、ノエルたちのいる方にしっかり追い込んでる。このまま合流して挟み撃ち……って行きたいけど、さっきからノエルたちに連絡つかないのが気になるな)
ポルカが考えていると後ろの方向から強く重い圧が押し寄せる。
「なんだ……この……圧……!何か……」
その瞬間並ぶ建物が一斉に真っ二つになる。その衝撃で駅広場全体の建物が崩壊していく・
「何……っ!駅が……街並みごと……!」
フレアが自分が目の当たりにしたことが現実か疑う。
「けほっ……何が……」
「斬撃形の魔力の放出!この規模を真っ二つなんて…………『あやめちゃん』しかいないでしょ!」
その場に現れたのは『百鬼あやめ』、そして対峙していたみこちだった。
「……そろそろノエルたちと合流できる地点のはず……つまり……お互い戦闘状態のまま合流しちゃった……!?」