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1話「テンサイの子」

「あ、今日今年の『holoRoyal』開催日じゃん」

「あー!そういえばそんな時期だね」

 放課後、少女達の話題には今日開催の『holoRoyal』が上がっていた。

 

 ――――2020年10月10日 都立零英高校――――


「すいちゃん、招待の手紙がきたんでしょ。参加しないの?」

 話していた1人が青髪の少女に話を振る。

「えー興味なーい」

 青髪の少女はつまらなそうに答えた。

「先輩こそどうなの。絶対招待状きてるでしょ。私より強いじゃん」

「私はみんなの指導で忙しいからっ」

「ふーん」

「はい続き続き!次落としたらぬんぬんだよ!」

 茶髪の少女が再開する。


 ―――――――――――――


「あああああーーっ!!」

 いきなり大声を上げて立ち止まったのは都立零英高校1年のさくらみこだった。一緒に歩いていた友人達は驚いて振り返る。

「お、おう…どうしたみこちゃん」

「………荷物家庭科室に忘れてきた」

「あー教科書?」

「いや全部。」

「全部!?」

「3限やぞ家庭科!?」

 今は放課後、みこちたちは帰ろうとしていた。

「あーあ、とってくるから先行っててー」

「はいよ」

「成長しないねぇ春から」

「うるせ!」

みこちは怒りながらも友人達と別れて家庭科室へと走った。


 ――――――――――――――――


「よかった見つかって。もう運ばれてて遅くなっちまったにぇ」

 みこちは自分の荷物を持って家庭科室を後にする。

「…ん…あれは…」

 みこちが窓の外を見ると、部活をやっている生徒がたくさんいた。

「第三グラウンド()()()の活動中だよ」

「……!」

 窓の外を見ていたみこちは茶髪の少女に後ろから話しかけられた。

 「…えっと……」

 話しかけられたもののみこちには面識が無く戸惑った。

「異能部2年のときのそらといいます。入部のシーズンはもう過ぎちゃったけど……やっぱり興味があるの?さくらみこちゃん」

「……!あれっ名前……」

 みこちは驚いた。初対面の人から自分の名前が出たからである。

「あ、ごめんね?でもみこちゃんうちじゃ有名人だよ」

 その話はみこちにはピンときていないようだった。

「何せ……神職相伝の『固有(ユニーク)スキル』を持って生まれた天才新入生。『固有(ユニーク)スキル』って欲しいからもらえるものじゃないでしょ?……でもみこちゃんは『能力』持ちらしい素振りを全く見せない、だからなんでかなーって意味で有名なの。他の人からも言われない?」

 みこちには心当たりがあった。

「……みこは…」


 ――――――――――――――


「あ〜あ〜進路希望調査書けたあ?」

 ある日の放課後、教室で少女達は集まって話していた。

「書けるわけねーでしょ。まだ一年だよ?」

「それはそう」

「その点みこちはいいよなあー」

「にぇ?」

 いきなり話を振られたみこちはきょとんとする。

「だって『固有(ユニーク)スキル』持ちでしょ?進学も就職もエリートコースじゃん」

「ね〜うらやまあ」

 友人達がみこちを羨む。

「…ま、まあにぇ」

 みこちは言葉を詰まらせながら答えた。

「てかなんで『異能部』入らんかったの?」

「天才はあんな場所必要ないやつか!?かっこよ」

「そんなんじゃないけどさあ〜!」


 ――――――――――――――


「……よく言われました。でもみこは能力を使って何かした事もないし、それが自分のやりたい事なのかわからなくて、だから……」

 みこちは少し不安にも思いながら自分の気持ちを打ち明ける。

「うんうん!いいと思うよ。産まれ=生き方なんて変な話だもんねっ」

 と言いながら、そらがバッグを漁る。

「はいこれ」

 みこちがときのそらと書いてある名刺を受け取る。

「何かあったら気軽に連絡して、相談でもなんでも受けるからさっ」


 ――――――――――――――


「…能力かあ…」

 学校の下駄箱でみこちは靴を取りながら考え事をしていた。

(みんなはすごいって言うけどみこは生まれた時から一緒にあった。なんとなくあってなんとなく見てきた。でもすごいって言われるから…なんとなく諦める事もしない。「こんな風になりたい」って思える人に会えたら……みこはそっちについて行きたいって思う。もし……)

「ガシャン!!!」

 廊下の方から大きい物音が聞こえた。

「んえ?」

「おいおいおいおいおいおい!!!!ここはパンピーしか居ねぇのかあ!?」

 みこちの目線の先には巨大な根を操る男の姿、壊された校内、悲鳴を上げて逃げ惑う人々の姿があった。

「な、何あれ……異能犯罪者……!?」

 この世界には1000人に1人『固有(ユニーク)スキル』を持つ者が存在する。能力自体は生まれやセンスに左右されるが『基礎技術(ベーシックスキル)』などは後天的に習得できるため、仕事やスポーツ時には犯罪にも用いられるようになった。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 みこちは逃げる人々の波に巻き込まれた。

「やべやべみこも逃げ……」

 逃げようとしたみこちの目に入ったのは転んでしまい逃げ遅れた子供の姿だった。

(子供……!?)

 「助け……」

(……いや    むり    でしょ)

 みこちは恐怖で足がすくんでしまった。

(いや無理無理!むりだって!誰か他に気付いてないの!?みこ弱いし……能力なんか使ったこと……!)

「あん?どうした坊主ぅ……1人で震えてかわいそうに……母ちゃんはぁどこかな!」

 男が根で子供を襲う。その時みこちが走り出す。

「う、お、おあああああっ!!」

 間一髪のところでみこちが滑り込みで子供を助ける。

「あ?」

 周りの人々は驚いた様子である。

「きみ!大丈夫!?」

 みこちが咄嗟に子供の安否を確認する。

「は、はい!」

「よしよし、じゃあお姉ちゃんの後ろに隠れて。できたら逃げてにぇ」

 みこちは冷静を装い子供を誘導する。

(やばいやばいやばいやばい何やってんのみこは!ばかやろうおい!死ぬ死ぬ死ぬ!絶対死ぬ!助けて誰か!)

 みこちの胸は心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。

「あぁ……いいねえ…いい度胸じゃねえか嬢ちゃん……大人ですらなかなかできる行動じゃねえ」

 すると、見ていた人の群れの中から能力者の教師達が駆けつけた。 

「その2人から離れろ!」

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 男は巨大な根で教師達を攻撃する。教師達が吹き飛ばれあっという間に制圧される。

 「ひ……」

 みこちは驚きと恐怖のあまり言葉を失う。

「いやだねえ情けねえ大人は……嬢ちゃんに便乗しねえと見て見ぬ振りしかできねえとは……さぁて度胸のある嬢ちゃんのそれは勝機か?それとも蛮勇なのか?まあどっちにしろ価値のある行動だが……最近異能部隊(※対能力犯罪者の取り締まり組織。国家公務員)が相手でもまるで話になんねえ……前者であることを期待するぜ?」

(……なわけにぇ〜〜〜だろうがよお!何がしょーきだよおい!異能部隊でも…ってプロでも勝てねーの!?なんか耐える!避ける!む、むりだ死ぬ……能力!能力が出れば!)

 みこちは混乱していたが理解もしていた。さくらみこの『固有(ユニーク)スキル』は『花月ノ夢』。みこちの家系である神職が継承している『固有(ユニーク)スキル』で、第一子である彼女には純粋で強い力が継承されている。先代の能力行使を直に見ているみこちは記憶と「そこそこ頑張った修行」から明確なイメージをつかみかけていた

(でも……できっこない!できなきゃ死んじまうぞ!出ろ出ろでろ!……えりーとだろーが!)

 男は根でみこちに攻撃をする。みこちは光のバリアを出し攻撃を防いだ。

「……‼︎で、できた…っ」

「へぇ……まさか止められるとは!いつぶりだぁ!?こいつは期待できそうだ!」

 男が再び攻撃を仕掛ける。

(けどすぐ消えた……っ!や、やば……今どうやって……)

 その瞬間みこち達の前に強い衝撃が起き、砂煙が舞う。

「あ?消えた?」

 砂煙が散るとそこにはアックスを持った青髪の少女はみこち達を抱き抱えていた。

「あ、ありがとう……ございます……?」

 みこちは突然の事で戸惑っていた。

(た、助かった……?助けてもらった……?速すぎてなんもわかんなかった……)

 みこちは少女の顔を見て思い出す。

(この人……見たこと?……あれ、星街さん?……だ。いつも遅刻してきて授業中寝てる……)

「ねえ」

 少女から威圧感のある声が出てみこちは思わずビクッとする。

「今の何?」

「え…」

「私居なかったらどうするつもりだったの?」

「それは……」

 みこちは言葉が詰まる。

「もしかして戦闘経験ないのに飛び込んでその子のこと助けたの?」

「……う、うん。そーだけど」

 みこちは問い詰められて少し声が小さくなる。

「バカなの?」

「…………!」

 みこちは歯で唇を噛んだ。

「けど……かっこいいじゃん。あとは任せときな」

 星街の纒う魔力が光り輝く。

「おいおいおーい!割り込みってのはよくねえんじゃねのお!?それとも青髪の嬢ちゃんが相手になってくれんのかい?」

 男はニヤつく。

「相手になるっていうか……『相手にならない』っていうか?」

 星街から大量の魔力が溢れ出す。男は星街の威圧感に笑みが溢れる

(この魔力量……これは……!)

 「いい……いいねえ!!!俺が求めてたんはこれだよぉ!!!!!!」

 男は一気に根を十数本出し攻撃を仕掛ける。しかし星街は一瞬にしてそれを木っ端微塵にして男を吹き飛ばす。

「ぐはっ………!!」

星街が通ったあとは魔力の余韻が残り光り輝いていた。その姿はまさに、彗星のごとく。

「………すげ…」

 あっという間に着いた決着を見て唖然としていた。

「ほれ、大丈夫?…えっと…」

 星街がみこちの方に歩いてくる。

「……!名前?さくらみこ!」

「さくらみこね、覚えた……多分。私は……」

「知ってる、星街すいせいさんでしょ」

 星街はじっとみこちをみる

「……なんでしってんの」

「一応同じクラス。」

「あー……じゃあさ、明日分の課題見してよ。今日のお礼」

「仕方ないにぇ!自分からいうか−?」

「おー随分派手にやられたなあ」

『……!!!』

 新たな男の声に2人が反応する。

「おいおいジェイル……こりゃ完全に伸びてやがるな」

「……仲間ってことでオーケー?」

 星街が警戒体勢に入って男に問いかける。

「ほう……お前がジェイルをやったのかあ……そう!こいつの仲間!次は俺の相手になってもらおうか……でなきゃここの人間皆殺しだぜ?」

「……いいけど、言い訳は考えといた方がいいよ」

「……言うねえ。んじゃまあ……戦るか!固有(ユニーク)スキル『バサルトウォリアー』!!!」

 地面が盛り上がり岩の攻撃が星街を襲う。しかし星街は岩を砕き距離を詰める。

岩人形(ゴーレム)!!!」

 二体の岩でできた人形を繰り出される。星街が一体のゴーレムを砕くも、もう一体の攻撃をまともに受けてしまう。

「星街さん……!」

 みこちは見ている事しかできず無力感に囚われる。

「……っ!洒落臭い!!!」

 星街は怯まずにもう一体のゴーレムも粉々にする。だが男はニヤリと笑う。

「パワージェム!!!」

 すると、ゴーレムを砕いた破片が光り輝きだす。星街は何かに気付き受け身を取る。その瞬間、破片は次々と爆発した。

「……嘘…」

 みこちは膝を崩してしまう。倒れている星街に男は止めを刺そうとしたその時だった。

(ガン)

 男に強い衝撃が襲う。男は岩でガードし、身を防いだ。そこに現れたのはときのそらだった。

「おいおい、なんだ今のは?ただの基礎技術(ベーシックスキル)じゃねえだろ。何者だ」

 男の頬には汗が垂れる。

「すいちゃん……ごめんね、遅くなって。ゆっくりしてて」

 そらは星街にそう言うと真剣な顔になり男の元へと向かう。

「あなた異能犯罪者ですよね、だから到底見逃せない。けど、何よりあなたは私の友達を傷つけた!覚悟して」

 その声には言葉にならない怒りが籠っていた。

「いい子ちゃん気取りかよ……うっぜぇなあ!!!泣き喚いても知らねえからな。岩銃(ロックガン)!」

 男は岩の弾を生成しそらに向かって放つ。

断絶(だんぜつ)

 そらが手刀で弾を真っ二つにするその斬撃は男を切りつける。

「…………っ!?野郎……!だいに……っ!!」

 そらは一瞬にして男の目の前まで距離を詰める。そしてそらは手をかざす

衝撃(インパクト)

 その瞬間校舎の壁が破壊されるほどの強い衝撃波が起きる。そらは男に完封なき勝利をした。みこちの目に映っていたのは、自分の求めていた()()()()()だった。

 10月10日、「第10回holoRoyal」開催のちょうど2年前のことである。  

(どうでもいい)補足〜

「都立零英高校女子異能部」

星街すいせい、さくらみこが所属する学校並びに部活。別に名門校でもなければ強豪部でもないです。

星街クラスは当然としてみこちクラスの固有(ユニーク)スキル持ちもいません。というか高校生で実践レベルな時点で超上積みです。「holoRoyal」は年齢制限無しのガチマッチな上、今年で第8回にもかかわらず運営の努力で日本のトップ大会となっています。ちなみに零英高校のネーミングは2秒で考えたものです。けど0期生の出身校なので零の字は入れるつもりでした。

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そらちゃんが既に底知れないの草
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