神の御使じゃない
アスナル視点
自分は地面に倒れたセイを受け止めた…ごめん、本当は地面に着く前に支えたかったのだけれども…まるで五体投地の様にまっすぐに伸びた体がそのまま地面にぶつかって、弾んで戻ってきた時に受け止めた。いわゆるワンバンだ。
バイ〜〜〜ン、ガシッ
擬音にしたらこんな感じだ。顔には万遍なく土ほこりが付いているので払う。
ピシッ、ピシッ、ビシッ!
ごめん…五階位になったばかりでちょっと力の加減がわからなくて、顔の土を払っているつもりが、なんか…ちょっと…ビンタをしているような力強さになってしまった。
心なしか気を失っているセイの顔は険しいような気がする。ごめん…
「まさかセイが“神の御使”だったとはな…」
“神の御使”それは何年かに1度、神のお言葉を告げる子供達が現れる。そのお言葉とは我々下界で生きるもの達への苦言、助言、格言、金言、そしてこれから起こる事に対しての予言。
今回セイが最後に発した言葉
《近い将来、この大地に厄災が近づいています。その時に備えなさい。それではまた…愛子達よ、がくっ》
まさに予言。これは今回のオーガの件の後始末が済んだら、すぐさまガイゼル様に報告しなければ。そしてセイの事も…。しかしセイの事をどう説明するかは悩むところだ。
セイはあまりにも異質だからだ。
通常“神の御使”呼ばれる子供達は神から授かった言葉を告げた後は、その時のしゃべった言葉の記憶もないので普通の子供に戻る。ずっと神の代弁者というわけではない。
《彼は私をこの世界に具現化する為に生まれたのだ。》
それなのにセイは神の依代、我々の世界に受肉する為だけに生まれた個体だと神自身が明言されているのだ。
つまりセイは今までのような“神の御使”の子供たちとは違い、この先も神の御身を現世に降ろす役割があるのだから今までのような立場ではいられないだろう。
今もあどけない顔で眠るセイを見ると、波乱万丈ながらも幸せな人生を送れるようにと祈らずにはいられない。
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僕は起きるタイミングを見計らって気絶している振りをしている。本当なら倒れた後、みんなに心配してもって散々チヤホヤしてもらった後にゆっくり起き上がって一週間ぐらいのんびりだらだら過ごそうかな〜って思っていたのに。
僕が地面に倒れた時にワンバンでアスナル様が体を抱えてくださって、顔を激し目にビンタされた。えっ…オーガを頑張って倒した僕にこの仕打ち…なぜ? まさか神様の演技をしていたのがバレた? 神様を侮辱されたと思ってお仕置き?
とビンタに少しビクビクとしていのだが、どうやら顔についた土を払ってくれた…みたいだった。だけどもう少し優しく払ってほしかったな〜地味に痛い。ちょっとヒリヒリする。
たぶん階位があがったばかりだから加減がわからなかっただけだと思う…そうだよね? まさか僕憎しじゃないよね?
そしてアスナル様は僕を抱えたままじっと見つめながらブツブツ呟いている…考え事をしているようで全然動く気配がない。だんだん僕の方が焦れてきて…もう目を覚まそうと思う。
神様が乗り移った子供という設定だったので、神は居なくなって無邪気な7歳を演じなければいけない。よし! 頑張るぞ!
「うっうう〜ん」
目覚める時の定番のうなりを上げて目を覚ますと、目の前のアスナル様と目が合う。
「お目覚めになりましたか? セイ様」
えっセイ様って…ああ神様だったから、その設定をひきづっているんだな。よし、ここは今までの記憶がない設定を足していこう。
「えっ、アスナル様、どどど、どうしたんですか?」
「セイ様は“神の御使”になられましたので、これからはセイ様とお呼びいたします。」
は?“神の御使”って…聞いた事ない新しい設定をぶっこんできやがった…どうしよう。何か面倒くさい事になりそうだ。
「そ、そんな僕なんかが神の遣いなわけありません。何かの勘違いでは…」
「いえ、言ってらっしゃいました。セイ様は神の依代となるために生まれてきたのだと。」
…言ってたわ。
全部アドリブで、それらしいセリフをカッコいいかな〜って軽い気持ちで言っただけなのに。アスナル様は続けて僕の考えたカッコイイセリフを復唱する。
「そして近い将来、この大地に厄災が近づいていると。」
…言ってたわ。
最後去り際にそれっぽい事を言えば、何か謎めいてカッコイイと思っていた時期が僕にはありました。まぁ今現在なんですけどね。
「その厄災に向けて私を強化していただんですね。ありがとうございます。」
確かに、僕には“命素”があるからオーガを倒す必要がないんだよね。それよりもアスナル様をもっと強化して、今回のような不測な状況にも対応できるようにしたかったというのもあって止めはアスナル様にお願いしたんだけど。
嬉しい誤算というのか、アスナル様は才能があったんだね。一気に二階位もあがるだなんて。もちろん今回オーガの経験値的な恩恵もあったと思うけれど、それまでに至る魔物の経験値と素養があったからこその二階位アップだったと思う。
それよりどうしよう…アスナル様の僕に対するこの態度。絶対さっきの“神の御使”発言といい、下にも置かない言葉使い…このままではこの村の生き神様として奉られる未来しかみえんな。
そんなのは嫌だ。もちろん村人たちにちやほやしてもらったり褒め讃えて欲しいという自尊心はある。どちらかといえば普通の人より有り余るぐらいに強い方だ。
しかし奉られるはちょっと違う。イメージ的には腫れ物に触るような、話すのも触るのも恐れ多いと畏怖されそうなのだ。
僕は今まで通りの生活がしたいんだ。
ここはアスナル様に素直に話すしかない。本当は今までの記憶がない設定だったのだがしょうがない。
「アスナル様、僕は神として奉られるのを望んではいません。だから、その言葉使いも止めてください。」
「いや、しかしあなた様は…」
「僕の望みは今まで通り、この村のセイとして生きて行く事です。」
「……。」
「そしてたまには、おっその歳ですごいな〜賢いな〜だとか、もう少しおおきくなったらちょっとエッチな体験とかを、出来れば多めに、かなり多めにしたいだけなんです。そんな純朴な少年なんです。」
「……純朴ではないですけどね。」
アスナル様はツッコんだ後少し考えた顔をして、すぐに抱きかかえていた僕を離し正面に立つ。
「わかった。セイの意見を尊重する。申し訳ないが…本当は心苦しいのだが、今回オーガを倒したのは自分1人という事にしておくよ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
そう言って僕は頭をさげる。
「本当なら君ともっと話していたいが…村人たちを安心させなきゃいけないからもう行くよ。」
そう言ってアスナル様は去ろうとしたが、立ち止まって少し考えるそぶりをしてからこちらを振り返った。
「…また、手に負えない厄災があった時に君の力を頼る時がくるかもしれない。その時は…助けてくれ。」
そう一言つぶやいて、僕の返事も聞かずに去っていった。
かっっけ〜〜〜〜〜!
アスナル様のあの完全にこっちを振り返りきらない顔の角度からの、あのセリフ。かっけ〜〜〜〜、めっちゃカッコイイ男の参考になるっす。今まで身近な大人で参考になるような人が奥さんに逃げられたタナンさんだけだったからカッコ良さが5倍増しに見える(笑)
こうして僕はアスナル様の配慮によって、今までと同じように何事もなかったかのように村の一員として過ごせるようになったのであった。




