第1話 この世に神様なんていない。
久しぶりに新作投稿です。カクヨムにて先行公開しています。
別に僕の置かれた現状に嘆いて、都合の良い時だけ神様に救いを求めたわけでもないのだが…。
たとえ神様が居たとしても、大局的なものさしで人々を導くというお役目だから、そんな1人1人の些事なんか気にしてなんかいられないし、もっと言うなら我々下々の出来事なんかに興味なんてないと思うよ。
というひねくれた考えを持つ僕の名前は聖人。10〜12歳ぐらいだったと思う。小学校に通っていたと思うから…。思うからというのは、記憶が曖昧でなんとなく、ぼんやり覚えている程度の記憶しかないだからだ。
今、僕は真っ暗闇の中にいる。本当に何も見えない。一切光が入ってこない暗闇の中にいるのだ。身近にあるはずの手や足でさえも見えないし、そこにある感覚もない。いや、手足だけでなく体の感覚自体が全くない。浮かんでいるという事では無く、真っ暗闇の奥底に僕という存在がポツンといるだけのような感覚だ。
今でこそ落ち着いたが、最初に目が覚めた時には気が動転してパニック状態だった。どこ? ここはどこ? どこかに閉じ込められているの? なんで真っ暗? 助けて〜〜〜! 誰か助けて〜〜〜! 僕はここにいるよ〜〜〜!
僕はずっと声をあげ、泣き叫んだ。本当に自分の口から声が発せられていたのかはわからないのだけれども…今も自分では声を出しているつもりなのだが、すべて闇の中に吸収されているようにも感じる。
騒ぐだけ騒ぎ、混乱するだけ混乱した後、僕は助けを呼ぶ無駄な事を諦めた。それから僕はずっと何もせずに、この暗闇に囚われたままだ。
時間の感覚もないからどのぐらいここに囚われているかはわからない。1日なのか1月なのか…ひょっとして何年も経っているのかもしれない。
でも不思議な事にお腹は全く空かないのだ。もちろん排泄もない。眠りたいと思うこともない。
ひょっとして僕は人間じゃ無くなったのかな? 幽霊? 霊魂としての存在なのか? だとしたら僕はいつ死んだのだろう。
もちろん今まで死に至るような病などはなく、風邪を引いた事もない。冬でも半袖短パンで走り回るわんぱくな超健康優良児だったし、学校帰りにトラックに轢かれたり、変質者に追いかけ回されて刺されたという記憶も無い。
この暗闇に囚われる身に覚えが全くない。だれか教えてくれい。
でももし、僕が死んでいたとしたら…これは今流行りの転生チートアタックチャンスなのでは? もちろん奴隷、捨て子の最底辺から一か八か成り上る絶対にお断りしたい、苛烈なパターンの場合もあるだが…。果たしてこの暗闇はどのパターンなのだろうか。
そういえばクラスにも異世界物のアニメ、小説が好きな子がたくさんいたなー。懐かしい。学校の図書館にもラノベの新刊が揃えられていたぐらいに異世界物はある程度の市民権を得ていたな。
さらに僕の友達、小金持ちの悠人くんはオススメのアニメやライトノベルなんかを気前よく貸してくれて、作品を共有しあい、僕に対してはやや上から目線での物言いに心の広い僕は右から左へと、快く聞き流していてあげたものだ。
そんな異世界物をある程度熟知した僕でも今のこの暗闇の状況は転生じゃないような気がする。
やけに人間臭い見た目が絶世の美女な女神さまや、好々爺といった神様などに1mmたりともお目にかかっていないからだ。そういった神様を経由しない直接転生のパターンもあるが…今のこの暗闇の状況が転生して貴族のお母さんのお腹の中の胎児という可能性も無いと思うしな〜。
そんな生ぬるい雰囲気が全くし無いからだ。
それならば、今この状況は一体どういう状況なのかと一日中考えてばかりいる。もちろん一日中と言ったって時間の感覚はないのだが…とにかくずっと暇だからそんな事ばかり考えてしまう。
だってこの暗闇の中では考える事、思考する事しかできないのだから。
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そんなある時、僕は気づいた。
“この暗闇は何かに満たされている?”
暗闇だから、もちろん見えてはいないのだけど何か感じる…具体的に何に満たされているのかというのはわからないけど、あたたかい? 安心するような感じ? 言葉で表すには難しい。
ちなみに僕は生前、暗闇は大の苦手だった。だから長い間こんな暗闇に置き去りにされていたらすぐに精神が崩壊して発狂する自信があったのだが、この物質のおかげで平常心でいられるというか、自我を保てているのかも。この気づきのおかげでより一層、こんなところでも生きる希望が持てたんだ。
食事もせず、排泄もせず、睡眠を欲しない今の状況で生きる希望とはこれいかに?などと自問自答したい気持ちを押しとどめて僕はこの物質を探ってみた。
最初は「あたたかい」「安心するようなもの」という連想からお母さんのお腹の中をイメージした。絶望の中で生きる希望を抱かせてくれたこの謎の物質に僕は勝手に
“お母さんのお腹の中”とそのままのネーミングをつけていたのだが…ちょっとそれはネーミングはどうよ?と思い直して、ちょっとだけそれっぽい名前を付け直した
“生命の素”略して“命素”と名付けた。
この“命素”は、ものすんご〜〜く集中して意識してみてやっと、本当にやっと感じられたぐらいだ。圧倒的な存在ではないが、うすうす〜〜ぐらいに感じることが出来た。
それでも今までの何もなかった暗闇に比べれば何百、何千倍も喜び、嬉しさが感じられるのであった。
しばらくはそのうす〜い“命素”を感じるだけで満足だったのだが、次第にどうにかしたくなった。どうにかできるんじゃない?と思いだした。
どうにかとは、自分の思い通りに動かしたり、形造ったり出来ないかな〜ぐらいな小さな欲だったのだが…早速実行にうつして適当に念じたりしてみた。
「曲がれ〜曲がれ〜、みんな〜こっちに集まれ〜」
などとありもしない念力、サイコキネシス、パワーを総動員してみたがピクリとも動かせず。それはそうだ…そんなに都合よく動かせるわけはないよな。“命素”に気づいて間もないしな。
僕は長い間“命素”を観察したがそれでわかった事がある。それは“命素”が僕の体?に片寄っている事だ。
もちろん真っ暗闇の中では僕の体なぞ見えないし、感覚も無いのは先ほど言ったとおりなのだが、僕の意識の中心から半径30cmぐらいに“命素”の濃度が濃いような感覚があるのだ。それ以外の空間の濃度に比べてはるかに濃い。
間違えてうすうす〜のカルピスを作ってしまったが、コップの底に濃いのが溜まっていたような感じなのだ…わかりづらいビミョーな例えでごめん。
とにかく周りの“うすうす〜な命素”よりも身近な“濃い命素”のほうが念力で動かせるのではないかという根拠のない自信を発動させて念じてみる。
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はいダメ〜〜。動かず。
まあ時間は無限にあるので、暇つぶしに念じ続ける。
「やればできる!」
オレンジの背広を着た芸人の力強いお言葉を胸に僕は念じ続けた。