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華の章Ⅰ

初投稿でした。

誤字や誤用などあれば遠慮無くご指摘ください。

(操作ミスにつき投稿を取り消してしまったため再投稿しました)


 これほど幸せな地獄は無いだろう。

 もう諦めよう。諦めたい。

 だから、早く見つけないと――



「お待たせ、西条さん。行こうか」

 ホームルームが終わって少し経った頃、隣のクラスの悟くんが迎えに来てくれた。

「うん」

 笑顔で応えると、私は席を立ってカバンを肩にかけた。

「和泉くん、バイバイ」

「もう帰るの?」

 悟くんの気を引きたい子達のグループが愛想よく口々に声をかけてきた。和泉は悟くんの名字だ。悟くんは他の男子と比べると背が低い方だけど、きれいな中性的な顔立ちで女子からの人気が高い。

 と同時に、ほんの少しだけ、本当にちょっとだけ、敵意のある視線が私を貫く。

 悟くんは、そんな彼女達の様子と同じくらいの冷ややかな声で

「うん、じゃあね」

 とだけ答えて歩き出した。私も彼女たちには一瞥もくれずついていく。

 私達が教室を去った後、彼女達は私の噂話をするのだろう。和泉くんまであの女に取られた、和泉くんのこと狙ってたのに、これで何人目よ、この間の林間学校で仲良くなったんだって……。

 聞かなくても想像はつく。私に『新しい友達』ができる度に同じ話を何度もしていた人達なのだから。私に聞こえる場所でも平気で話すのだから。

 でも、分かっていてもやっぱり少しだけ、悲しい。

 黙り込む私に向かって、悟くんが静かに声をかけてくれた。

「……あの、……あいつらの言うことなんて気にしなくていいよ。西条さんのことを知らないから好き勝手言えるんだ」

 口調から一所懸命な様子が伝わってきて、思わず笑顔がこぼれてしまった。

「ふふ、大丈夫だよ。ありがとう」



 西条花華(にしじょうはなか)は恋多き女学生。男をとっかえひっかえしていて他人の彼氏も平気で奪う。

 この学校での私の評判はこんなものだった。入学してしばらくの間は女の子の友達もいたけど、男好きの噂が広まる夏休みに入る前から露骨に距離を置かれるようになった。直接的な嫌がらせを受けることは少ないけど、授業で二人組を組む時とかは少し面倒だなと感じることがある。

 実際のところ、噂の真偽としてはちょっと微妙だと思う。私から付き合いたいと言ったことはないし、私に興味を持ってくれた男子と恋人関係になったことは一度もなかった。私自身、男子に興味はあるけど、これまで噂になった人が『好き』の領域にまで達したこともない。それでも、好きな人がほしくて、声をかけてくれた男子とは一緒に過ごすようにしてきた。

 そんな時に決定的だったのは悟くんだ。夏休み前にあった林間学校での()()()()()()()()をきっかけに仲良くなった。実を言うと、悟くんと過ごすようになってからは男子とのやり取りは激減しているんだけど、女子人気の高い悟くんが取られたと目の敵にされるようになった。『恋多き女学生』などと揶揄され、それまではひそひそ声で語られていた噂話に尾ひれがついて再び広まっていった。

 しばらくは悟くん以外と一緒に過ごすことはないと思うから、そのうち噂は立たなくなるだろう。もう少しの辛抱だ――。

 そう思って小さくため息をつくと、また悟くんが心配そうな目線を向けてきた。

 校舎を出た私達は駅前のファミレスに向かって歩いている。あの喧噪に紛れて軽くお茶をしつつ、お互いの話をするのがいつもの流れだ。

 それまでは今日の授業であった先生の面白い話や次のテストについてなど、他愛ない話をしながら恋人同士に見えるように振舞っている。

 ファミレスへは学校から歩いて15分ほどで着く。店員さんに案内された席につき、その場でそれぞれ飲み物を頼んだ。今日の悟くんはコーヒー、私はフルーツティーだ。

 近くの席に同じ制服の人がいないか軽く確認してから、私達だけの会話が始まる。

「今日はどうだった?」

「いつも通りでした。真面目に授業を受けて、ホームルームが終わったらすぐに下校です」

 まずはあの人の今日の様子を確認。とはいえ、答えはいつもこれだ。

「今日、悟くんたちは体育があったでしょ。怪我とかしてない?」

「特に何もありませんでしたよ。アイツ、運動神経も悪くなさそうですし」

「悟くんは?」

「僕も問題無しです」

 ここまで聞いたところで頼んだ飲み物が到着したので、私達はそれぞれ飲み物を口に運んだ。悟くんはブラックコーヒーを一口飲んだ後、少し顔をしかめて一緒に運ばれてきたミルクと砂糖を二つ入れてスプーンでかき混ぜている。

 中性的で端正な顔つき。物静かでちょっと素っ気なさがあるところ。クールという言葉が似合う人。悟くんの女子人気が高い理由だ。でも今の悟くんの口調、仕草は学校にいる時のそれとは少し違う。

 私と二人でいる時はずっと敬語で話している。最初は敬語の方が話しやすいんです、と申し訳なさそうにしていた。一人称も学校ではオレだけど今では僕に変わっており、私の様子を気にかけてさりげなく表情や仕草を観察している。

「進路アンケートの話とかした?何か聞いてない?」

「一応、何か考えてるか聞いてみましたよ。……医学部を目指してるって言ってました」

 やっぱり。中間テストで一位になっていたのを見た時からなんとなく察していた。

「そっか、本気で目指してるんだ」

 遠くを見つめる私を、悟くんはなんとも言えない表情で見つめていた。

 私達が話しているのは悟くんと同じクラスの喜多川和樹くんのことだ。あの人は私の幼馴染で、学年の成績トップを取り続けている真面目な人で、親同士が決めた私の許嫁でもある。

 私の実家が病院を経営していて、あの人をお婿に迎えて医者になって継いでもらうらしい。お互いの家の関係からしてあの人の立場は非常に弱いからか、拒否もせず真面目に医学部を目指し続けている。

 悟くんとあの人は偶然同じクラスで入学当初は席が隣同士だったそうだ。お互い深く干渉しないタイプで楽だからと、よく二人で一緒に過ごしている。

「じゃあ、本気で探さないとね」

 頑張るぞ~!と元気よく声を出してみたものの、悟くんは相変わらず歯切れが悪そうにしていた。

 婚約自体は私がイヤと言えば済む話ではあるのだ。あの人のことなんて気にならなくなるくらい好きな人ができればいい。この人と一緒になりたいと思える人を作って婚約を解消すればあの人を解放できる。そう思って男子との付き合いを意図的に増やしてきた。純粋な好意を持って話しかけてくれる人もそれなりにいた。

 それでも、あの人以上に好きな人なんていないのだと毎回思い知らされる。

 失望を重ね、少し疲れてきたな……と感じ始めた時に出会ったのが、悟くんだった。


読んでいただきありがとうございました。

少しずつ書き進めて参ります。

よろしければ感想などいただけると嬉しいです。


次回は神屋視点です。

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