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3分で始まる物語

作者: 杉谷馬場生

カップラーメンにお湯を注いで蓋をして私は急いで外に出た。目の前のコンビニに向かったのである。

許された時間は3分。私はダッシュで道路を横切り、コンビニに入店する。そして向かうのはトイレであった。

実は私が住んでいるアパートのトイレが壊れている。修理の連絡は入れているがすぐには出来ないとの返事だった。一瞬、絶望したが、すぐにアパートの前にコンビニがあるという立地に気付き、昨日から店長の了解を得てトイレを借用させてもらっている。

これで私がコンビニに入りいきなりトイレに入り込む理由が分かったと思う。しかしこの文章を読んでいる皆様はまだ疑問に思う事があるはずだ。

何故カップラーメンにお湯を注いだ後に行ったのか。

トイレを借りるだけならば帰宅してからお湯を注げば良い。雪平鍋でお湯を沸かしているのならばまだしも、ケトルで沸かしているのだ。沸いて暫くは温度も下がらぬだろうし、たとえ多少緩くなったとしても支障の出る時間ではあるまいと。

はっきり言おう。これは戯れである。単純にお湯を注いでから家を出て、コンビニのトイレで用を足し、3分以内に戻るというスリルを味わう為である。

これを読んでいる多くの皆様は言うだろう。お前は阿呆かと。わざわざ言わずとも結構である。皆様の言う通り、私は阿呆だ。

しかしあえて言おう。マンネリとした日常をそのままマンネリと過ごすのは如何なものか。

日常には起伏が必要だと私は思うのである。しかしそれをただ待っているだけでは正真正銘の阿呆であろう。その起伏を自ら作ることこそが偉大なる人生への第一歩ではないかと私は思うのだ。

そのような偉大なことを私はコンビニのトイレで小用を足しながら思うのである。その姿に偉大な格好良さは微塵もないのは自覚している。

小用便器から離れると水が流れる。手を洗い私はトイレから出て帰宅しようとする。すると下腹部に急な違和感が襲う。

私はそのまま振り返り、先ほど出た男性用トイレのさらに奥の共用トイレに入る。

なんと言うことだ。まさか急激な下痢が襲ってくるとは予想だにしなかった。

自ら作る起伏は喜んで受ける覚悟だが、意図しない起伏は承服しかねる。

嗚呼、すぐ側の私の住まうアパートではお湯の入ったカップラーメンがもうすぐ3分経とうとしている。私は麺の伸びたラーメンを食べなければいけないのは確実なようだ。天は私を見放した。

腹の痛みがおさまった。元凶は全て流れたようだ。家を出てからどれほどだったのだろう。共用トイレに座っている時間だけで3分経っている気がする。

私は落胆した気持ちでコンビニを出て、道路を横切り、アパートに戻った。ドアを開けると同時に携帯のアラームが聞こえる。3分経ってから以降、ずっと鳴っていたのだ。私は携帯を操作してアラームを止めた。時計を見る。家を出た時から8分経っていた。5分ものロスだ。

仕方がない。びよんと伸びた麺をすすろう。ふにゃふにゃの麺をすすって侘しい食事をしようと蓋を開けようとした時、ふとカップラーメンの横にある袋に目を留めた。

ラーメンの具材であるかやくであった。私は入れ忘れてお湯を注いでいたようだ。

視界が滲む。私は泣いているようだ。

のびきったラーメンの中に既にタイミングを逃したかやくを入れ、麺をすする。ふにゃふにゃした中にガリガリしたかやくの歯応え。

人生に起伏などいらない。地面に近いほど低くても安定がいいと私は思った。

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