二次試験
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
三人は思わず声を上げる。
「なんでよりによってあいつなのよ!」
「下等生物なぞどれも代わりないが奴等だけは御免だ。田舎猿など断固拒否する。」
そうお互い負けたくないと思う者同士が同じチームに居ては勝負の付きようがない。ましてや協力など出来るはずなかった。
「何故って、各チームの能力を均等にするため昨日成績トップのジック君と成績最下位のサクア君チームを合わせるのは当然であーる。」
サクア達は昨日、ヌシを倒したとはいえ本成績自体は最下位なのである、ましてやサクアの筆記試験を考えれば今ここにいることすら怪しい。
「とにかくもう決まったことであーる。文句があるなら今すぐ帰って結構であーるぞ。」
「くそ、こうなった以上仕方あるまい。足を引っ張るなよ愚民ども。」
「それはこっちの台詞よ!」
アンナは頭を抱える。サクアはというとまださっきのことを根に持っているようでジックに向かって変顔をし続けていた。ジックはそれを見てイライラと片足を揺らしている。
(一体なんなんだそれは!本当にバカのようだな。)
「では二次試験の説明をする。今回も君たちに捕らえて貰いたいモンスターがいる、今度の獲物は"特急兎"であーる。」
「特急兎?」
「特急兎はその名の通り恐ろしく速い。そして食事をする時も、睡眠をする時も立ち止まることがないそうだ。人間を襲うことはなく、力も弱いことからFランクに分類されるが、その実捕獲となると難易度はEランクに匹敵するだろう。」
「Eランク!」
そうあのヌシを倒すのと同等の難易度である。
「そして!重要なことがもう1つあるであーる。それはこの森にいる特急兎は一匹だけであるということであーる。」
「一匹だけって、最初の1チームが取っちゃったら他のチームはどうなるのよ?」
「もちろん全員不合格であーる。」
受験者達にどよめきの声が挙がる。
「LBsに入れるのは1チームだけと言うことか・・・ふふ、面白い。もちろんこの俺だけだがな」
ジックは自信満々に笑みを浮かべる。
「ということで今回は早い者勝ちの何でも有りでやって貰うであーる。武器もなんでも使って構わないであーる。」
「やったぜ!」
サクアは腰の刀を握りしめる。
「最初に特急兎を捕まえたチームはここに戻って来るであーる。その瞬間私が笛を鳴らす、その笛の音が聞こえたら試験終了とするであーる。良いであーるな!」
コホンッとルノワールは咳払いをすると大きく息を吸い言い放つ。
「二次試験んん!開始ぃぃ!であーるぅぅ!」
□□□
試験開始の掛け声とともに一斉に各チームは森の中へと飛び込んでゆく。早く獲物を見つけた方が当然合格に近づく。皆我先にと奥へ奥へと進んでゆく。しかしながらまだスタート地点で揉めているチームが1つだけあった。
「ふん!一緒のチームになったからといって協力するつもりなど毛頭ない。ついてくるなよ。」
「誰が付いていくもんですか!大体なんであんた一人なのよ相方はどうしたのよ相方は!」
「あ、相方などいない。俺は一人で十分だからな。」
「分かった、あんた友達いないんでしょ。その性格じゃね~、どうせ前回も余っちゃって教官と組んだのよね、いるいるそう言う奴。」
「貴様ぁ~!どこまで俺を愚弄するか!そこまで言うなら別行動だ。どっちが獲物を仕留めるか勝負といこうじゃないか。もちろん負けた方は潔く合格を辞退するそれでいいな!」
「もちろんよ。見てなさい吠え面かかせてあげるわ!」
そう言ってサクア達とジックは左右に別れ森に入る。
「なあ、良かったのか?あんなこといって」
サクアは頭の後ろで手を組みながら聞く。
「いいのよ!あんただって言われたまんまじゃ悔しいでしょ!見返してやるのよ!」
「ま、俺はどっちでもいいけどよっ!」
サクアは不機嫌なままのアンナを他所にどんどんと進んでいく。
(でもどうしようかしら・・・こんな広い森で動き回る一羽の兎を捕まえるなんてとてもじゃないと無理ね。何か秘密があるはずだわ)
アンナは内心後悔し始めていた。ジックのあの自信満々な態度、何か知ってるに違いない。そう考えたからだ。しかし言ってしまった物はしょうがない。改めて策を一から考える。
「おーい!アンナ、こっちこっち!」
少し先でサクアの呼ぶ声が聞こえる。アンナはその声に向かって登り坂を進む。すると見晴らしのいい丘にでた。サクアはその丘に立つ木の上に乗り、辺りを見渡す。
「こっからなら見えるんじゃねぇか?」
サクアは意気揚々と獲物を探していた。
アンナも一応眺めて見るがここから見えるのは丘のすぐ下の原っぱ、あとは木々に隠れて何が居るのかなど分からない。
「あのね~こんなとこから見ても見つかるわけ・・・」
そう言いかけた時、白くて小さな影が原っぱの上を物凄いスピードで横切る。
「あ、いた」
「見つけちゃった・・・って早く追わないと!」
サクア達は森の中に入っていった白い影を追う。しかし木々が険しく、どんどん離されていく。特急兎はその木々の隙間を軽快にピョンピョンと通り抜ける。
「なんて速さなの!」
終には兎の影も見えなくなり、森に取り残される。
「はえーな、どこ行っちまったんだぁ。」
「さすがEランク級なだけはあるわね、それにしてもあの速さでこの鬱蒼とした森を潜り抜けるなんて人間にはとても無理よ。」
二人は息を切らしながら言った。
「でも不味いわね、せっかく見つけたのにこのままじゃ他のチームの所に行っちゃうわ。どうにかして後を追わないと。」
こうしている内にも特急兎はどんどん遠ざかったている。他のチームに見つかるのも時間の問題だ。
二人は何か特急兎が通った痕跡を探す。
「うーん、あっ!ここに糞があるぞ」
サクアが地面にころころと丸い糞が落ちているのを見つけた。
「そうか特急兎は食事も睡眠も走りながらするって言ってたわよね。だから糞も走りながらするはず!この糞を辿れば特急兎が通ったルートが分かるわ!」
「次の糞を探すのよ!」
「よし!」
二人は周りの地面を探り、糞を探した。しかし地面には雑草がビッシリと生え探すのは容易ではない。
「あったぞ!」
サクアが次の糞を見つける。その声を聞きアンナも駆けつける。また同じようなコロコロとした糞だ。兎の糞で間違いないだろう。しかしアンナはその糞を見て首を傾げる。
「どうかしたか?」
「いや、この糞さっきのより乾いてる気がするのよね。」
「どういうことだ?」
自分達が追って来た方向からしてUターンして来るとは考えにくい。第一Uターンしてるならサクアが気づく筈だ。
(只の勘違いかしら・・・)
「アンナ?」
「何でもないわ、じゃあ次の方角としては此方の方が怪しいわね」
アンナは前回の糞との向きで大体のあたりをつける。サクアはそれに従い草木を掻き分ける。暫くその方向に進みながら地面を注視していたが、一向に見つかる気配はなかった。
「なあなあーやっぱこっちじゃないんじゃねぇかぁー」
「そんなこと言ったって他に手がかりないのよ。探すしかないわ。」
最初に特急兎を見失ってからもう随分と時間が経っていた。もう糞を見つけた所でどうにもならない、二人も薄々それに勘づいたようで、半ば諦めかけていた。そうしてだらだらと歩いている内にまた少し開けた原っぱに出る。
「あれ!また此処に出ちまったぞ!」
「違うわよ、似てるけど此処は最初の場所とは違う所。ほら此処からあの丘が見えるでしょ。」
アンナが指差す方向を見ると最初に登った丘と木が遠くに見えた。
「ほぅーこんな所まで来たのか!」
サクアは帽子のつばを少し上げ丘を眺める。
「でもこのままじゃ埒が明かないわ、幸いまだ笛の音は聞こえて来ないし、次の策を考えましょ。」
そうアンナが言った時、サクアは後ろに気配を感じる。サクアはすぐに刀を抜こうとしたが、それより速くそいつは森の中から飛び出してきた。
バッ!
真っ白な毛に小さな体、特急兎だ。特急兎は二人の間を綺麗に抜けてまた原っぱの先の森に向かう。アンナは驚きその場で尻餅をつき、サクアは兎が横切る瞬間に急いで刀を縦に振ったが、突然のことでタイミングが遅く、獲物を逃がしてしまう。
「くそ!」
サクアは直ぐに体勢を立て直し、木々の隙間に入ってゆく特急兎を追う。
アンナも急いで腰あげようと地面に手をつく。その時草むらに起きた異変に気づく。
「待って!」
アンナが声をあげる。
「なんだよ~速く追わねぇと!」
サクアは急ブレーキをかけ、その場で足踏みをする。
「見てよこれ。」
アンナが指差した所の草は不自然にむしりとられていた。
「これきっと齧った跡よ!ここら辺の草は他のと種類が違うし、此処は特急兎の餌場なんだわ!」
アンナの推測は間違ってなかった。
「此処で待ってたらまた来るかも!」
「でもよー特急兎は一匹だけなんだろ、もうこねぇんじゃねーか?」
「一匹だけ・・・じゃあなんで後ろから来るのよ。」
そうこの森の特急兎が一匹だけとなると、今通った兎は最初に追っていた奴と同じ個体ということになる。となると、追っている筈なのに追いつかれるという奇妙な状況になってしまっている。しかしそんな状況を説明できる可能性が1つだけあった。
「そうか!特急兎はぐるりと回ってきたのよ!」
「回ってきた?どういうことだ?」
アンナは得意げに話し始める。
「いい?特急兎は複数の餌場を通るルートを作ってそこをぐるぐると走ってるだけなの。」
特急兎の性質はイメージをすればちょうど線路を通る列車のようである。餌場は駅といったところか、もちろん停まることはないが。
「何度も通ってる道ならぶつからずあのスピードを保てるのにも納得がいくわ。あの乾いた糞は私達が追ってる時の物じゃなく一周前の物だったのね。」
アンナは一人でうんうんと首を縦に振った。
「じゃあここで待ってればまた来るのか?」
「いや、分からないわ。同じルートで二回も敵に出会ったのよ、別ルートに行っててもおかしくないわ。」
「じゃあどうすんだ?」
アンナは暫く考え込み、再び口を開いた。
「低いけど、1つだけまだ可能性があるわ。」